日本共産党

2004年2月3日(火)「しんぶん赤旗」

アジアで広がる

鳥インフルエンザ

10カ国・地域に

“人から人感染”で重症化の警鐘も


 瞬く間にアジアなどで広がっているH5N1型の高病原性鳥インフルエンザ。世界保健機関(WHO)は、ベトナムでの感染例から、人間から人間への感染に警戒を強めています。感染すると重症化する恐れのある新しい感染症への対策は――。(宇野龍彦記者)

感染ルートは?

 インフルエンザウイルスを体内に潜ませ、広い範囲に運ぶのは水辺のカモなどの渡り鳥とされています。国境に関係なく自由に移動するだけに、新顔ウイルスを渡り鳥に広げてしまうとやっかいです。

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 独立行政法人動物衛生研究所(つくば市)によると、日本では一九二五年に鶏で高病原性鳥インフルエンザ(H7N7型)が発生しました。

 高病原性とは、高い致死性の病原性をもつインフルエンザウイルスによるものです。

 九七年に香港で初めて登場したH5N1型は、二〇〇一年から香港で毎年発生するようになり、昨年十二月に韓国、ことしのベトナムなどアジア十カ国・地域に広がってしまいました。

 ことし一月に山口県の養鶏場で発生した鳥インフルエンザウイルスは、農水省によるとH5N1型とやや違ったタイプのH5N1亜型でした。しかし、侵入ルートや感染源は現在なお不明です。

 タイのバンコクで開かれたインフルエンザ対策関係国会議が一月二十八日に採択した閣僚声明は、鳥インフルエンザ防疫のための共同努力をアピール。「養鶏産業に甚大な被害を与えているだけでなく、人体へも深刻な脅威になりつつある」として、「感染封じ込めには、各国や産業界などの協力が必要」と強調しました。

人に免疫力なく

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 農林水産省動物検疫所(横浜市)の守野繁・微生物検査課長は「一九九七年までは、一般に鳥インフルエンザウイルスが人間に直接感染して、重症化することは考えられていなかった」といいます。

 この年、香港では十八人がH5N1型の鳥インフルエンザウイルスに感染、六人が死亡しました。このため、この病気がにわかに注目されました。

 農水省、厚生労働省などによると、これまでのH5N1型の人間への感染例は、鶏などと接触してふんなどから大量のウイルスを浴びたためといいます。ベトナムでことし一月、鳥と接触したことがないのに、子どもから子どもに感染した可能性がありましたが、いまのところ、従来のインフルエンザのように人間から人間に感染するウイルスの変異は確認されていません。

 しかし、H5N1型ウイルスが、アヒル、カモなどの水きん類や豚の体内で人から人に感染する新型インフルエンザに変異する可能性が高いことから、世界保健機関(WHO)や各国が警戒しています。

 九七年十二月に東京で開かれた第一回日本ワクチン学会学術集会で、国立感染研究所の田代真人部長らが人への新しい感染症として警鐘をならしました。H5N1型の鳥インフルエンザが従来のインフルエンザとは異なり、上気道など呼吸器だけでなく全身に感染し、病状の悪化も早く重症化する傾向がわかったからです。田代部長は「トリ、マウスでは全身感染することがはっきりした。人間でもその疑いがある。二、三カ月先を見越して、ワクチンの量産、備蓄をおこなっておく必要がある」と語り、このウイルスの検知体制や予防対策を早い時期から取っておくことの大切さを強調します。人間は、H5N1の強毒型ウイルスにたいして、まだ免疫力がないからです。

拡散抑えこむには

 動物検疫所の守野さんは、この病気の防疫対策について二〇〇二年に香港で調査した感想をつぎのように語ります。

 「香港の大学ではインフルエンザの研究のすぐれた蓄積があり、科学的な知識を生かして政府が研究者の意見を対策に取り入れていた。畜産への脅威だけでなく、ウイルスが人間に感染するタイプに変化することに目をむけ、鶏と水鳥の市場を分けるなど、ウイルスの遺伝子の組み換えが起こりそうなところに対策をとっていた」

 香港では九七年の発生時には、鶏など全家きん類百四十万羽を処分。鶏、キジなどの陸生家きん対策だけでなく、ウイルスの変異が起こるアヒル、カモなどの水きん類にこのウイルスが拡散しないように、養鶏場や市場での防疫対策を徹底しておこない、いったん発生がなくなりました。その教訓は、今回のアジアで広がる鳥インフルエンザ対策としても重要になっています。

 大流行を防ぐためのポイントは「鶏や水鳥のウイルス検査で、いち早くH5N1型のウイルスをつかみ、その拡散を早く抑えこむことが大事だ」と、守野さんは強調します。

 国立感染症研究所感染症情報センターによると、鶏肉・卵からの感染例はありません。その理由は「インフルエンザウイルスは加熱(七五度で一分)で死滅」してしまうからです。

 ウイルスや病気への科学的な知識を養鶏関係者だけでなく、一般の人たちも持つことが大事だとして、動物衛生研究所、感染症情報センターなどがホームページで「QアンドA」などの最新情報を提供しています。

 今回の鳥インフルエンザウイルスでは、中国でのアヒルへの感染発表が二転、三転したり、タイでの感染発表の遅れ・隠ぺい疑惑などの事態があり、情報公開が適切におこなわれなかったことが、事態を深刻化させました。行政からの的確な情報公開も、新しい感染症まん延を効果的にふせぐうえで重要になっています。


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