日本共産党

2004年2月5日(木)「しんぶん赤旗」

イラク大量破壊兵器の情報操作疑惑

米英で調査機関設置へ


 イラクの大量破壊兵器開発や保有を口実に開始された米英軍のイラク侵攻と占領。相次ぐ当事者の発言でその根拠は崩れ始めています。米英両国政府は、それぞれの情報機関のイラク開戦前の情報収集活動に関する調査委員会の設置を明らかにしましたが、これは真相解明を求める世界の諸国民の圧力によるものです。自らの調査能力や意思も持たず、米政府の要請に基づいて根拠のない戦争に加担している日本の小泉政権の責任も問われています。

英国―真相究明の声に押されたが

非公開で政府寄りの構成

 ブレア首相が三日、明らかにしたイラク戦争の口実となった大量破壊兵器の機密情報に関する独立調査委員会の設置は、真相を求める国民の要求の強さをあらためて示すものとなりました。しかし、一方で同委員会は、審理は非公開で進められるうえ、構成する委員も政府よりだとして野党自由民主党や反戦団体は“茶番だ”と反発してます。

議会報告でも

 「大量破壊兵器を発見できないことが続くのは、テロとの戦争で米英の信頼にダメージを与えている」―英議会の外交委員会は二日、“テロとの戦争”に関する報告書でこう指摘しました。同報告は続けて「イラク戦争は英国籍をもつ人々や英国の権益へのテロの可能性を短期間でみれば高めた」とのべて、イラク戦争によって英国民がかえってテロ攻撃を受けやすくなったと指摘しました。

 この報告に先んじて一月末公表された英国防省顧問で大量破壊兵器問題専門家のケリー博士の自殺に関する独立司法委員会(ハットン委員長)の報告は、(英政府が)「“イラクの脅威を脚色し誇張した”とする英BBC放送の報道については根拠がない」としました。これにたいし、“政府を免罪するための八百長報告だ”などと、その結論と方法を批判する声が相次ぎました。報告の翌日の世論調査では、完全で公開した調査の実施を求める人が七割を占めました。しかし同報告は大量破壊兵器に関する情報そのものについて調査したものではありません。

 下院外交委員会のマッキンリー委員(労働党)は、「安全保障と機密情報担当部局の能力に関し、信頼性の危機が議会の内外であるのは明らかだ」と指摘し、“機密情報の脚色は見いだされなかった”としてブレア政権を指弾しなかったハットン調査委員会報告にもかかわらず、政府に信頼性の危機が引き続きあることを指摘しました。

 イラク戦争強行を批判してきたロビン・クック前外相は、「どうしてわれわれはうその見通しで戦争にいったのか、英国民は知る資格がある」と指摘。「(新たな)調査は公開で迅速に行われるべきだ」と強調しました。

 しかし、新たな独立調査委員会は審理も証人調べも非公開。しかも、議会で詳細を発表したストロー外相は「ハットン委員会が包括的に扱った問題は再度、扱われない」とのべ、ブレア政権が国民をあざむいたかどうかについては「シロ」と決着済みで蒸し返しはしないと強調しました。

「すでに失敗」

 このため、自由民主党は「不信を回復するには、肝心の問題を公開で率直に調査することだ。この調査委員会はそうすることが不可能なように思える」とのべて、委員会設置に反対し委員もださないことを決めました。

 また、イラク戦争に反対する国民的なデモ・集会を組織してきた「戦争ストップ連合」は三日、声明を発表。「証拠は非公開で収集され、結論の詳細は公表されず、政治家は監視されない。二人の国会議員が加わるが、一人は最近政府から出た議員でもう一人は戦争へと導いたうその機密情報を公に支持した議員だ。この調査は始まる前から失敗している。この調査は茶番だ」と批判しました。(ロンドン=西尾正哉)

米国―ケイ前調査団長証言を受け

大統領はすり替えに躍起

 大量破壊兵器の捜索を続けているイラク調査グループ(ISG)のデビッド・ケイ前団長が、米議会での証言で大量破壊兵器の存在を明白に否定したことから、ブッシュ大統領は、米情報当局によるイラク開戦前の情報収集のやり方などを調査する独立委員会の設置を決めました。

政権追及の声

 遅ればせながら、米国内でも、イラク侵攻を始めた理由とされる事実がねじまげられた事について第三者の調査が始まることになりますが、ブッシュ政権指導部は、論議のすり替えに躍起。一方、米マスコミからは調査対象を情報機関の失敗にとどめず、誤った情報を政権がどのようにして戦争遂行に使ったのかを追及すべきだとの意見が出されています。

 パウエル国務長官は三日、報道陣にたいし、「われわれは大量破壊兵器を開発する意思のあった専制政権と対決していた」と語りました。同兵器の存在が証拠だてられない事実を前に、「意思」という言葉を用いての争点そらしです。

 同長官はワシントン・ポスト紙三日付に掲載されたインタビューで、イラクのフセイン元政権が、大量破壊兵器を持とうとしていた「意思と能力をみなければいけない。この二つをあわせれば脅威に等しい」とのべ、大量破壊兵器の存在など関係なしに、フセイン政権がそれを持とうとしていた意思と能力があれば戦争は正当化されるとの論理を展開。さらに、「米国がもう一年、国連の一部として漫然と行動していたら、この二つの脅威は一つとなり、兵器は再び製造された」として侵攻を実施しなかったらフセイン政権は大量破壊兵器を再開発していたと主張しました。

「判断変更も」

 同長官はまた、「(戦前に)大量破壊兵器の貯蔵が無くても、侵攻を進言したか?」との質問に、「分からない」と答えながら、「(兵器)貯蔵がなかったら政治的な計算は変わっていた」とも語り、イラク戦争をめぐる米政権の政治判断は違ったものになったとの考えを示しました。

 ワシントン・ポスト紙のコラムニスト、リチャード・コーヘン氏は、「間違った事実、誇張された恐怖、まったくのうそ」を基本に国民のコンセンサスがつくられたことが、何より憂慮されるべきであると指摘し、「CIAの失敗だけでなく、米国の政治、社会、知的な指導力を対象にした真の情報の失敗を調査する委員会」が必要と唱え、「米中央情報局(CIA)の失敗だけをとらえるのなら、われわれはこのことから何も学ばないことになる」と主張しています。

 また、ロサンゼルス・タイムズ紙は三日付の社説で、「あらかじめ決められた戦争にむけ、情報が小細工されたか、色付けされたか、それが重要だ」として、「米国の信用を取り戻すためには、ブッシュは、調査が情報収集だけでなくホワイトハウスがどのように情報を利用したのか」調べることを承認しなければいけないと強調します。(ワシントン=遠藤誠二)


もどる
「戻る」ボタンが機能しない場合は、ブラウザの機能をご使用ください。

日本共産党ホームへ「しんぶん赤旗」へ


著作権 : 日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 Mail:info@jcp.or.jp