2004年2月8日(日)「しんぶん赤旗」
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日本共産党の吉岡吉典議員は六日の参院イラク有事特別委員会で、イラク、クウェート両国に派兵される自衛隊員の犯罪、事故をめぐる裁判権がどの国にあるのかという角度から、派兵自衛隊が駐留外国軍として扱われることを解明し、自衛隊派兵中止を迫りました。
吉岡氏は裁判権の問題を取り上げる意味について、「捜査権、裁判権は国の主権の重要な部分だ。軍隊がくることでその主権の重要な要素を免除すること自体、好ましいことではない」と説明。「外国軍が他国に駐留することのない世界が必要だと思う」と、まず強調しました。
吉岡氏が、イラク、クウェート両国に派兵される自衛隊員の地位をただしたのに対し、外務省の西田恒夫総合外交政策局長が答弁。イラク国内では、連合国暫定当局(CPA)命令一七号で、イラクの刑事、民事、行政法の適用を受けず、イラク側に逮捕、拘束されないこと、クウェートとは同様の免除を認めた地位協定を結んでいることを説明しました。
吉岡 つまり(自衛隊員が)犯罪等を起こした場合、捜査、裁判、逮捕、拘禁は、日本の法律でやるのか。 西田 そのとおりだ。 吉岡 そうすると自衛隊員がイラク、クウェートで事故、犯罪を起こせば、在日米軍が日本で事故、犯罪を起こしたときと同じ取り扱いになる。 |
吉岡氏は具体的な三つのケースを示しました。
第一は、航空機の墜落事故です。日本では一九七七年、横浜市緑区の住宅地に米軍戦闘機が墜落した事故が起こっています。
第二は、公務中の隊員が公務だとはいえない殺傷事件を起こした場合です。米兵が農家の女性を射殺した五七年のジラード事件がこれにあたります。
第三は、公務外の婦女暴行事件です。九五年の沖縄の少女暴行事件のほか、日本各地で起きています。
吉岡 こういう事件がイラクやクウェートで生じた場合、捜査権、裁判権、身柄はどう扱われるか。 西田 イラクの場合でもクウェートの場合でも、自衛隊員が公務遂行中であるか否かを問わず、刑事裁判権から免除されている。 吉岡 自衛隊員は海外で事件、事故、犯罪を起こしても派遣先の国によって裁かれ、捜査されることはないということだ。 |
吉岡氏は三つの事件をめぐって、「日本中があげて怒りに燃え、こういうことがないように“地位協定を改定せよ”“米軍基地なくせ”という要求になっている」と指摘。「今度は日本が相手に(裁判権等の免除を)求めることになる。それでいいのか。戦後われわれが味わった苦痛と屈辱、他国に与えていいのか」と迫りました。
石破茂防衛庁長官が、現地で裁かれなくても「国外犯規定があるなら、そのように対処する」と答弁したのをうけ、吉岡氏は質問をすすめます。
日本の刑法は、国外で起きたものでも日本の刑法を適用する犯罪を定めています。それが国外犯規定です。
吉岡氏は「日本の法律は自衛隊が海外に出かけることを想定していないから、刑法にも自衛隊が海外で犯罪を犯す可能性を想定した国外犯規定にはなっていない」と指摘したうえで、(1)部隊行動基準の適用を誤った武器使用で人を殺傷した場合(2)航空機事故で人を殺傷した場合(3)強姦(ごうかん)罪など親告罪の場合―に適用される国外犯規定をただしました。
石破長官は、いずれも国外犯規定にあたらないと答弁しました。つまり、派兵された自衛隊が仮に犯罪をおこしても、現地の法律で処罰されないだけでなく、日本の法律も適用されない場合があるということです。
吉岡氏は「日本人が味わった苦痛、屈辱は、他国に与えてはならないということがそのとおりの形となっている」と強調。百五十年前、日本は米国から「治外法権」を求められ、明治政府の最大の課題がそれを撤廃する条約改正運動だった一方で、日本はアジア諸国に対して、「治外法権」を要求してたという歴史を紹介。
「昔も、日本が受けた被害をほかの国に押し付けた。今回もそうならないようにするには、自衛隊派遣をやめることしかない。他国から味わった苦痛をほかの国に押し付ける国になりたくない」と指摘。福田康夫官房長官も「もっともなことだ。今後適切な対処をしたい」と応じました。