2004年2月12日(木)「しんぶん赤旗」
「国民的な議論も踏まえて、新しくふさわしい憲法をつくっていくべきだ」(九日、参院イラク有事特別委員会)
「時代にあったように憲法改正をするのもいいであろう」(十日、衆院予算委員会)
「国民の間に憲法の条文によって解釈が違憲、合憲と二つに分かれるのではなくて、すっきりした形で改正することによって、違憲論、合憲論の見方が分かれる状況はなくしていったほうがいい」(同)
いずれも、小泉純一郎首相の国会答弁です。首相といえば、国の責任者として憲法順守義務が最も厳しく問われる立場にあるはずです。それにもかかわらず憲法を“目の敵”にし、国権の最高機関の場で平然と改憲を口にする小泉首相の暴走に歯止めがかからない異常な事態がすすんでいます。
小泉首相は元来、強烈な改憲論者ですが、それでも首相就任直後は「私としては、憲法改正についての多くの議論が今後も多くの方々によって展開されていくことを期待している」(〇一年五月十日の衆院本会議)と、“議論の期待”にとどめていました。
それが、総選挙を前にした昨年八月、〇五年の自民党結党五十周年までに党改憲案をまとめるよう山崎拓幹事長(当時)に指示してから「憲法改正」を繰り返すようになります。
小泉首相がこれほどまでに暴走するのは、野党第一党の民主党が改憲へとかじをきり、自民党と改憲を競い合っているからです。冒頭の三つの答弁のうち二つまでが民主党議員の質問に答えたものでした。
明文改憲を唱えた小泉首相に民主党の岡田克也幹事長は、「私も憲法改正には決して後ろ向きではない」と応じ、「(歴代政府は)無理に無理を重ねて自衛隊を九条の中に読み込んだ。もし(憲法に)問題があるなら、憲法改正をしっかり議論すべきだ」(十日)と主張しました。同党の佐藤道夫参院議員は「新しい時代を指導する憲法はどうあるべきかということを、きちっと提案して国民に議論をよびかけていただきたい」(九日)と改憲を促しました。
民主党は、〇六年に憲法草案を取りまとめる前提として、そのもとになる考え方を「憲法提案」として今年中にまとめる方針を確認しました。こうした改憲でスピードを競う民主党の態度が、小泉首相に「(改憲問題は)タブーでなくなってきた。自民、民主両党が協力して現実のものにしていきたい」(一月十四日、時事通信社とのインタビュー)といわせる状況をつくり出しているのです。
小泉首相の一連の改憲発言は、自衛隊の海外派兵を進めるため九条改憲を標的にする狙いをあけすけに述べているのも特徴です。自衛隊の存在やPKO(国連平和維持活動)への自衛隊派兵について「憲法違反だといっていた人のなかでも、憲法に反しないというふうに変わってきた」(十日の衆院予算委員会)などと述べ、「すっきりした形で憲法を変えた方がいい」(同)というのです。
歴代自民党政府は、PKO法(一九九一年)では「参加五原則」を憲法違反への“歯止め”と称し、周辺事態法(九九年)では国際常識にはない「後方地域支援」という言葉をつくり、前線と区別されるから武力行使の危険が少ないと強弁してきました。イラク特措法(〇三年)ではいよいよ戦争状態の地域へ地上部隊を送り込むことになり、「戦闘地域」「非戦闘地域」という実態のない概念をつくり、派兵を強行しました。
政府が、憲法違反の海外派兵をおしすすめるため、さまざまな詭弁(きべん)をろうして憲法の「解釈」を拡大しておきながら、今度はそれにあわせて憲法を「すっきりした形」にすることなど許されるものではありません。(高柳幸雄記者)