日本共産党

2004年2月15日(日)「しんぶん赤旗」

ここが知りたい特集

国立大学ピンチ

国が交付金を毎年削減

一大学の歳出分に相当


 今年四月から「国立大学法人」(注)となる全国の国立大学に対して、国が各大学に交付する予算(運営費交付金)を毎年削減することを、財務省と文部科学省が合意し、十二日に各大学に通知しました。予算削減で国立大学はどうなってしまうのでしょうか。


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 これまで国立大学の予算は、学費や付属病院収入などのほか、各大学の教員数や学生数に応じて国の一般会計から繰り入れる経費(「義務的経費」)で成り立っていました。法人化後は繰入金を「運営費交付金」と名称を変えるとともに、文部科学省が政策的に増減することができるようになります(「裁量的経費」)。

 国立大学法人の収入の半分以上を占めるのが運営費交付金です。今回、両省が合意したのは、〇五年度から五年間、運営費交付金のうち専任教員の給与分を除いた額に1%の「効率化係数」をかけて削減するしくみです。

 国立大学と高エネルギー加速器研究機構などの共同利用機関の〇四年度の運営費交付金は総額一兆二千四百十六億円。このうち専任教員給与を除く約九千億円が係数をかける対象となります。

 〇五年度の削減額は九十二億円と見込まれます。次の〇六年度は、前年度の金額に1%をかけて削減。この五年間で四百五十億円に迫る削減が予想されます。

 これは地方大学の歳出額――弘前大学・二百九十四億円、群馬大学・三百五十億円、信州大学・四百億円、山口大学・三百七十五億円(いずれも〇二年度。付属病院がある大学)を上回る金額です。

 注 国立大学法人

 二〇〇四年度から、これまで国が設置者だった全国の国立大学が「国立大学法人」になります。各大学に財政責任を負うのは国から法人にかわります。六年ごとに教育・研究内容についての中期目標を文科相が定め、目標達成のための中期計画を大学が作成、文科相が認可します。その達成度を文科省や総務省が評価し、結果が各大学に配分される予算に反映するしくみです。こうしたしくみは、各大学への国の予算を削減しながら、教育・研究内容に国家統制を強めるものです。

一時的「アメ」

 その一方で「特別教育研究経費」という新しい枠組みをつくり、学術研究プロジェクトなどの事業努力に対して重点的に配分し経費増を図るとしています。しかしこの経費はいつ廃止するかもわからないもので、一律削減への批判を一時的にかわす「アメ」でしかないという指摘があります。

 また、国立大学の付属病院については、経営改善努力義務として2%の増収を課し、達成できなければ運営費交付金から2%相当を削減するルールにするとしています。

 全国の国立研究所や博物館、美術館は、大学より早く〇一年度から独立行政法人となりました。予算全体に占める運営費交付金の割合は、〇一年度の72・9%から〇三年度は51・4%と、20ポイント以上低下。企業など外部からの資金調達に血道をあげなければならない状況です。このことからも、大学の今後に不安が広がっています。

許せない一方的措置

池内了さん 名古屋大学教授、素粒子宇宙物理学

 今回の文部科学省と財務省の合意は、大学との協議を抜きにした一方的な措置であり、また法人化法案審議の際に付けられた付帯決議を一方的に踏みにじるものであり、断じて許すことができません。

 これによって、国立大学の法人化は行財政改革の一環であることが白日の下にさらされました。これがやすやすと通れば、国立大学はいっそうの困難に直面するでしょう。国大協は声明通り重大な決意をすべきだし、私たちも法人化の凍結を要求し続ける覚悟です。



大学人が一致し反対

 政府の予算一律削減に、全国の大学と大学人が一致して反対してきました。

 文科省と財務省間の合意に対して全大教は四日、「重大な問題点と課題は依然として残されたまま」とする関本英太郎委員長談話を発表。運営費交付金を毎年一定の比率で削減する仕組みを設けること自体が、「社会から負託された大学の使命を果たすため、教育研究機能の不断の拡充・発展を要請されている大学の特性を無視したもの」と改めて批判しています。

 これまでにも全国の国立大学で構成する国立大学協会が、昨年十二月、予算削減計画の見直しを求めた要望書を文科相へ提出しています。

 また、全国の国立大学の理学部、農学部、医学部の学部長らがそれぞれ連名で、同様の要望書を政府に提出。東京大学、京都大学、東京外国語大学では、全学部・研究科長らが、連名で付帯決議の順守などを求め、要望書の提出や意見表明をおこなっています。

 学生も各地で運動にとりくんでいます。東京大学教養学部では十一月の代議員大会で“学費値上げストップ・高等教育予算増額”を決議、約四百人の署名を集めました。信州大学では学生自治会連合と共通教育センター自治会が、連名で同様の署名にとりくみ一千筆以上を集め学長に提出しました。名古屋大全学会も十一月、大会を成立させ“法人化の下での学費値上げ反対”などを決議しています。

 全大教の関本委員長(東北大学教授)は「基礎的基盤的教育研究費を拡充するのに必要な運営費交付金を保障させることをはじめ、大学・高等教育の充実・発展のために粘り強くとりくみたい」と話しています。

政府自身の約束違反

グラフ

 国立大学予算の一律の削減は、昨年、国立大学法人法が可決した際の衆参両院の付帯決議に違反し、国会審議での文科省自身の説明にも反する重大な約束違反です。

 文科省は国立大学の法人化について“教育研究をいっそう発展させるためで、財政削減のためではない”と説明してきました。国立大学法人法案には、政府の財政負担の後退などを懸念して国会内外から多くの批判が出たため、衆参両委員会で付帯決議が行われました。

 衆院の付帯決議は「法人化前の公費投入額を十分に確保し、必要な運営費交付金等を措置するよう努めること」としています。参院付帯決議も「法人化前の公費投入額を踏まえ、従来以上に各国立大学における教育研究が確実に実施されるに必要な所要額を確保するよう努めること」と明記しています。

 政府は昨年十二月にも、日本共産党の石井郁子衆院議員の運営費交付金にかんする質問主意書に対し、「付帯決議にのっとり」「運営費交付金を措置していくことが必要」と答弁していました。

 日本の高等教育への公費支出は、現在でも国際的にみて大変に低い水準にあり、二〇〇〇年はGDP(国内総生産)比0・5%にすぎません。これは、OECD(経済協力開発機構)三十カ国平均の1%の半分であり、最低です。(図)

 文科相自らが、これまで国会審議などで、高等教育予算の充実の必要性をくり返し認めていました。

国民に深刻な影響

  ◆基礎的研究の衰退

 大学予算の削減で危ぐされるのは、「最先端」の研究や産業に直結する研究にだけ資金が回り、長期的視野で行う基礎的研究や人文・社会科学が冷遇され、教育・研究の水準が低下するのではないかということです。

 一橋大学大学院で経済学を研究する酒井孝さん(仮名)は、「この5年ほどで院生の数は倍加して今1600人が学んでいますが、机は700人分しかありません。パソコンのプリンター使用も院生一人月50枚に制限されています。今後国からの予算が減らされれば、研究条件はさらに厳しくなり、学費は上がりアルバイトを増やさないといけません。何より、企業と連動してすぐ成果が出る研究に資金が集中して、歴史や哲学など、目に見える成果は出にくいが大事な学問が衰退するのではないかと心配」と話します。

  ◆学費の値上げ

 大学生とその親にとって考えられる最も深刻な影響は学費値上げです。

 これまで国立大学の学費は地域や学部にかかわらず同額でした。ところが法人化後は大学ごとに自由に決められるようになり、国の標準額52万800円(年)から上限10%の範囲で値上げ可能なしくみができました。

 国からの運営費交付金の減額で、大学は収入不足をほかの方法で補わなければなりません。

 ある地方大学の副学長は1月、日本共産党の林紀子参院議員との懇談で「運営費交付金が大幅に減額されると、授業料収入に頼らざるを得ないので、授業料に影響することがありうる。そうならないようにしてほしい」とのべました。

  ◆付属病院の役割低下

 付属病院への予算削減は、国民の命にかかわる問題です。全国大学高専教職員組合の藤田進書記次長は、「国立大学付属病院は、医師の研修や医学生教育、高度で先端的な医療の開発などの役割を担っています。ですから、現時点でも黒字病院は数院にすぎません。2%の経営改善努力ということで増収を義務付けられれば、差額ベッドの導入やベッド削減をせざるを得なくなります。それでは大学病院の役割が果たせません。SARSなどの研究、治療はどこが行うことになるのでしょうか」と指摘します。




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