2004年2月20日(金)「しんぶん赤旗」
自民、民主、公明各党の改憲論議が急加速しつつあります。三党はいずれも、参院選前までに改憲案の「たたき台」や「中間報告」を出すと表明。世界に誇る平和憲法を壊すのか、それとも二十一世紀の日本の進路としていかすのか、参院選を前に政治の熱い焦点になっています。(中祖寅一記者)
改憲勢力が描くスケジュール | |
03年10月 | 総選挙で自民、民主が改憲公約 自民、04年に要綱まとめ決定 |
04年3月? | 国民投票法案、国会提出? |
6月 | 自民党憲法調査会、改憲「たたき台」民主党 同 、「中間報告」 公明党 同 、「論点整理」 |
7月 | 参院選 |
12月 | 民主党「憲法提案」 |
05年1月 | 衆参憲法調査会、最終報告 国会に「憲法調査委員会」設置? |
11月 | 自民党改憲草案 |
06年 | 民主党改憲案 |
07年7月 | 参院選(自民党憲法調査会長「改憲 とダブル投票を」) |
「超党派のみなさんが憲法改正に前向きに議論されることは非常に意味があることだ」
民主党内で独自の改憲案づくりをすすめる鳩山由紀夫・前代表は、十八日に開かれた「新しい世紀の安全保障を考える若手議員の会」総会でこう期待を表明しました。
「若手議員の会」は、衆参合わせて百七十三人の国会議員が参加する安全保障問題最大の議員連盟です。自民、民主、公明各党内ですすめられている改憲論議にはずみをつけようというのです。
二〇〇〇年に衆参両院に憲法調査会が設置されてから、自民党を中心にした改憲勢力は、調査会を主舞台に改憲論議をすすめてきました。二〇〇二年十一月には衆院憲法調査会の中山太郎会長は日本共産党などの反対を押しきって調査会の「中間報告」を強行。さまざまな改憲論を列挙して、改憲機運を盛り上げようとしました。
しかし、「中間報告」は改憲勢力が期待したほどの反響は呼ばず、昨年五月には改憲派知識人などでつくる民間憲法臨調(「21世紀の日本と憲法」有識者懇談会)の緊急報告では「憲法調査会に対する国民の関心はいたって低い」といら立ちを示していました。
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昨年の総選挙で自民、民主が改憲公約を出して以来、加速しつつある改憲論議は、七月の参院選までに前倒しで改憲構想をまとめるという危険な動きになっています。
自民党は「〇五年十一日までに党としての改憲草案をまとめる」と総選挙で公約。昨年末の党憲法調査会で、今年中に各条ごとの要綱案をとりまとめることを決定しました。同党憲法調査会プロジェクトチームでは昨年末から週一回のペースで検討作業をはじめています。
民主党も今年はじめ、菅直人代表が〇六年までに改憲案をまとめると表明してから加速。党憲法調査会で、今年中にはその前提となる「憲法提案」をまとめます。これを通じて、衆参憲法調査会の報告書とりまとめで「論議をリードする」(江田五月・民主党憲法調査会事務局長)としています。
同党調査会では、「提案」とりまとめへ向けて、五つの小委員会設置も決めています。
公明党は、一月二十八日の同党憲法調査会で秋の党大会に向けて憲法論議を加速することを決定しました。
顧問として議論に加わることになった神崎武法代表は「九条も論議の対象にする」と発言。さらに、二月十二日には「集中的に前文と九条で議論し、六月をめどに論点整理を行う」と踏みこみました。
毎週木曜日には、国会では衆院憲法調査会が、自民党ではプロジェクトチームの会合が、その前日の水曜日には公明党の憲法調査会が開かれるなど、改憲勢力は「いまが時流」とばかりに勢いを強めています。
この間の改憲論議の加速は、イラク派兵と一体にすすめられてきたのが特徴です。「二〇〇五年までに憲法改正案とりまとめを」という小泉首相の発言の背景をみても、憲法九条を狙い撃ちにしようというのは明らかです。
昨年五月訪米した小泉首相はブッシュ大統領との会談で「世界の中の日米同盟」をうたい、イラクへの自衛隊派兵を約束しました。米側は「ブーツ・オン・ザ・グラウンド(地上部隊を出せ)」(アーミテージ米国務副長官)と迫りました。
しかし、政府と与党が突貫工事でイラク特措法を成立(七月末)させた直後、アメリカ中央軍の司令官は「戦闘地域と非戦闘地域の線引きは不可能」と発言。「非戦闘地域」に派遣するから憲法九条に違反しないという政府の説明はもろくも崩れ、政府内では早期派兵への慎重論が出始めました。
八月下旬、アーミテージ副長官は日本政府を「逃げるな」「茶会じゃない」と一喝。前出の小泉首相の発言が飛び出したのもその直後でした。
さらに、自民党、民主党が総選挙に改憲公約を盛り込んだ直後、ブッシュ米大統領が訪日し、小泉首相にブーツを贈りました。
いま、小泉首相は、「すっきりとした形で憲法改正することによって、(自衛隊派兵について)違憲論、合憲論の見方が分かれる状況はなくしていった方がよい」などと開き直っています。自衛隊を「国軍」と認め、アメリカの海外での戦争に公然と参加するのが狙いであることを浮き彫りにしています。
日本共産党 |
憲法九条を踏みにじるイラク派兵の強行に合わせるように、九条改憲の策動が危険な段階にはいるなか、「イラク派兵反対」「憲法九条を守れ」の国民のたたかいは、新たな広がりを見せています。
こうしたなか、日本共産党は、「憲法改悪に反対し、その平和原則にそむくくわだてを許さないという一点での、広い国民的共同の大闘争」(第二十三回党大会)をよびかけています。
憲法九条を守ることは、日本だけの問題ではありません。アメリカによる一国覇権主義を許さない世界をつくることと深く結びついた国際的意義をもっています。
日本共産党は、二十一世紀こそ、憲法九条の理想が世界に生きる世紀だと考え、首尾一貫した憲法擁護の立場にたつ政党として改悪反対に全力をあげています。
「思いつき」の外堀論議 |
「一院制の議論をみていても最近、憲法論議が思いつきで軽薄になってきている」 ある民主党議員はあきれ顔でこうのべます。 事実、年明けから小泉首相や民主党の菅直人代表から出た改憲のテーマは、首相公選制、二院制の見直し、環境権・プライバシー権・知る権利などの新しい人権、憲法裁判所、国民主権の実現など「さまざまな」論点が出されています。 いきなり九条に絞って議論をしかけると、国民の警戒・反発を招くおそれがあるため、論点を広げるという作戦です。 個々の論点についてみても、例えば小泉首相が検討を指示した首相公選制については、自民党の憲法調査会でも「単なる人気投票になる」など、慎重論が多数です。 こうしたあれこれの議論は、改憲論の土俵に国民を乗せ、九条改憲に向けて「外堀」をうめる策動にほかなりません。 |