2004年2月25日(水)「しんぶん赤旗」
【ワシントン=浜谷浩司】国連のアナン事務総長は二十三日、イラクの主権移譲や選挙実施に関する「イラクの政治的過程・事実調査報告」を発表しました。総選挙を今年末か来年初めに実施することは可能とするとともに、そのための主権移譲の受け皿となる暫定政府の設立について、イラク国民の努力とともに、国連の役割の重要性を強調しています。
報告は調査・分析の上での勧告として、(1)六月末の主権移譲期限の尊重(2)暫定政府設立について、米政府が推進した実力者会議は支持されていない(3)選挙実施は、法的枠組みの確定後八カ月以上を要し、六月末までの実施は不可能(4)五月までに法的枠組みを確定すれば、今年末か来年初めの選挙実施は可能であり、選挙管理委員会の立ち上げをはじめ、準備を急ぐべきだ(5)暫定政府設立では統治評議会の拡大をはじめ多くの構想があり、イラク国民が合意形成を進めるべきだ―などというものです。
事務総長は六月末に主権が移譲される暫定政府づくりではイラクと連合国暫定当局(CPA)が協議を行うよう求め、国連がそれを支援していくとしています。
報告は、治安回復やイラク国民との信頼の回復、憲法起草、イラクの各派間のコンセンサスを築くことはたいへんな問題だとしながら、イラクでの「民主的に選出された政府樹立に至る合法的な政治過程」にあたって、国連は「イラク国民と国際社会が国連に求めている決定的な役割」を負うことになると確認。必要な権限を安保理事会に求めています。
アナン国連事務総長が二十三日に安保理に提出した報告書は、昨年十一月に米主導の連合国暫定当局(CPA)とイラク統治評議会が同意した当初計画に対するイラク国民の批判的意見も踏まえながら、主権移譲と暫定政権の設立、その上での直接選挙の実施に関し勧告し、その過程における国連の役割についての見解を表明したものです。
その内容は、米のイラク戦争・占領政策の重大な矛盾を改めて詳細に明らかにするとともに、イラク問題解決における国連の役割の必要性を浮かび上がらせています。
米主導の当初計画は、今年六月を期限にイラク暫定政府を樹立すること、その母体となる暫定議会を全国十八州で招集する実力者集会で選出すること、選出過程で占領当局が影響力を行使することを定めていました。
今回の報告書は、さきにイラクを訪問したブラヒミ国連事務総長特別顧問らの調査報告を基に、この実力者集会方式を「実行可能ではなく、選挙の代替とはなりえない」「イラク人にとってまったく異質」と断定。一方で、イラク人の間で高まっている選挙要求については、「統一したイラクに向かう途上における重要で本質的なもの」として支持する立場を明確にしました。
そのうえで同報告は、現在のイラクの治安状況や準備の必要性から、六月の主権移譲前の直接選挙実施は無理としながらも、独立したイラク人選挙委員会が早期に発足し、選挙の法的枠組みに関する国民合意が今年五月までに確保できれば、選挙は今年末に実施可能との見解を示しました。
現在、イラク国内では、直接選挙の主権移譲前実施を求めていた勢力のなかでも、国連関与を前提に、延期やむなしとする意見が大勢となっています。来月にはブラヒミ氏が再びイラク入りする見込みで、選挙に向けたプロセスがいかに進展するか注目されます。
アナン報告は、選挙問題では一定の具体策を示す一方、主権移譲の受け皿となり、直接選挙を準備する暫定政権のあり方では明確な勧告はおこなっていません。報告は、統治評議会の期間延長や、イラク全土から代議員を招集して国民会議をつくるなどの案を並べ、「決定し実行するのはイラク国民」と強調しながら、その過程でイラク人とCPAとの協力の必要性も指摘。国連の役割に関しては「イラク人が合意をつくるうえで援助する」とのべるにとどまっています。
米主導の実力者集会方式は破たんしましたが、占領当局があの手この手で政治的影響力の維持を狙うことは必至です。暫定政権の成立過程で透明性が十分確保され、同政権が真にイラク人を代表し主権移譲の受け皿となることが必要です。今回の報告を土台に、真に「決定的役割」を果たすための国連の議論と具体的決定が問われます。
(小泉大介記者)