2004年2月29日(日)「しんぶん赤旗」
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陸上自衛隊の元幹部は語ります。
「イラクで自衛官が『引き金を引けるか不安だ』というのは正直な思いだろう」
一九六〇年代に、安保条約改定に反対するデモ隊鎮圧の治安出動訓練に参加したことが脳裏に浮かびます。
「同じ日本人が相手だ。実際に(攻撃の)決心ができるだろうか。気乗りがしない訓練だった」
今度はどうか。イラクに派兵された自衛隊の銃口は、イラク国民に向けられます。
「PKO(国連平和維持活動)とは危険度も違う。民衆に敵がまぎれ、だれが敵だかわからない。米国と違って外征軍でない陸自には、そういうことに備えた訓練の蓄積がない。報道で伝えられる自衛隊員の不安は、理解できる」
そして、「現役のとき、命を投げ出すつもりはあった。だが、それは海外に出ていってというものではなかった」とも。元幹部の言葉に、迷いがにじみます。
しかも、今回の派兵は、「大義」のいっさいない米国の先制攻撃戦争への合流・加担です。
防衛庁関係者は心情を明かします。
「イラク戦争が国際法違反であることは、口にはしなくても、みんな思っているはずだ。彼らがやっていることは、昔の日本がアジアでやってきたこと(侵略戦争)と同じだ」
米国が戦争の「大義」としたイラクの大量破壊兵器は、「もともと存在しなかった」と米イラク調査団の前団長(ケイ元CIA特別顧問)も証言。別の防衛庁関係者は「これで米国の威信は落ちた。いくら圧倒的な実力があっても、世界は今後の米国への協力に二の足を踏むだろう」と失望感を隠しません。
「われわれには、三つの誤算があった」というのは、政府に近い立場の外交専門家です。
「一つは、シラク(仏大統領)があんなに強情にイラク戦争に反対し続けるとは思わなかった。二つ目は、欧州と決裂してまで戦争をやるほど米国が外交下手とは思わなかった。三つ目は、米国の占領行政がこんなに失敗するとは思わなかった。われわれが直面しているのは、強い米国ではなく、弱くて無能な米国という問題なんだ」
「毎日」の世論調査(一月五日付)で、日本が米国にとっている態度に最も近い言葉としてあげられたのは「追随」(32%)でした。「自立」は9%、「対等」は8%にすぎません。
防衛庁防衛研究所の柳沢協二所長は「仮に(派兵)隊員に不測の事態が生じることがあれば、世論が圧倒的に派遣反対に振れ…、PKO派遣等を通じて積み重ねられてきた…国民のコンセンサス(合意)を崩壊させることにもなりかねない」(同研究所ホームページの「ブリーフィング・メモ」、昨年十二月)と指摘。派兵は長期にわたるとし、「世論の分裂という政治的危機が長期に亘(わた)って継続することを意味している」とのべています。
政府高官は「(イラク派兵が)失敗したら、政局になりかねない」と語ります。
うかがえるのは、「海外派兵国家」づくりが、世論の支持を得ていないことへの不安と恐れです。
(おわり)
連載は、榎本好孝、田中一郎両記者が担当しました。