2004年3月5日(金)「しんぶん赤旗」
国民に「痛み」を押しつける、小泉「構造改革」のもとで、保育制度を根幹から掘り崩す施策が進められています。その一つが、「給食調理室の設置義務の廃止」です。「子どもと保育の実態を知らない暴論だ」と、怒りが広がっています。
東京で開かれた、第十八回全国保育所給食セミナー(二月二十八―二十九日、主催・同セミナー実行委員会・全国保育団体連絡会)。全国の保育所で働く調理師、栄養士、保育士や父母など千百人以上が参加し、「保育所の給食は、保育の一環。給食室をなくさないで」の、熱い思いを交流しました。
政府の「地方分権改革推進会議」が、児童福祉施設最低基準(省令)で義務付けている保育所の調理施設について、「国が一律に義務付ける必要性は認められない」と報告し、給食の業務委託や給食室の撤廃に拍車がかけられているからです。
「子どもが育つ・保育で育つ・給食で育つ―保育所の給食室をなくさないで―」をテーマにした基調シンポジウムでは、給食状況をめぐる現場の実態が三つの地域から報告されました。
調理室がないことの問題点を語ったのは、鳥取県の「羽合町に保育所調理室をつくる会」の母親でした。
「町立保育所では約四十年間にわたり、学校給食センターの給食を利用してきた。センターで作った給食が、保冷装備のないトラックで各保育所に運ばれている。衛生面、栄養面でも問題が多く、『子どもたちにできたてのおいしい給食を』と、運動を進めている」と報告しました。
同町は財政難を理由に、「構造改革特区」を申請して、調理室の設置義務を免れようとしており、「国と自治体の責任で安心して子どもを預けられる環境を作るべきだ」と語りました。
「給食は保育の一環」と位置付け、夜八時すぎまでの夜間保育と、夕食提供を開始したと報告したのは、名古屋市の社会福祉法人のぎく保育園園長。親の労働条件が厳しさをまし、子どもが車の中で夕食のコンビニ弁当を食べているような状況に、職員、親と討議し、夕食の提供を始めました。給食職員と保育士が、ともに子どもの成長を願うからこそ実現できた、と語りました。
自治体で進む保育所給食の民営化について報告したのは、同セミナー実行委員会。東京都内の公立保育所、認証保育所(都独自の制度)の給食調査の結果を発表しました。
給食を外部委託、調理業務委託している公立保育所では、コストが安くなったものの、「手作りおやつが少なくなった」「業者の作りやすいメニューに変化してきた」など質の低下や、「保育士との連携がとりにくい」などの回答が寄せられました。
認証保育所(駅前型)の調査では、長時間保育の子は、弁当やベビーフード持参などで対応している状況も明らかに。調理員がいない所では、保育士が交代で食事を作っている、などの実態も報告されました。
シンポジストの安川信一郎さん(東京・こぐま保育園園長)は、「子どもたちが食事の主人公となって、調理活動や野菜作りをしている」と同園のとりくみを紹介。食を通して子どもたちが共感しあい、育ち合っており、保育園の給食が、保育の重要な役割を担っていると報告しました。
水嶋敏子さん(大阪保育研究所)は「給食室が身近にあってこそ、子どもは五感を鍛えることができる」と発言。ブリを子どもの目の前でさばくと、子どもたちが集中して見て、残さず食べた、などの例を紹介し、子どもたちの育ちを見つめ励ます給食室をなくさないことが、保育所に必要な最低条件だと語りました。
コーディネーターの浅井春夫さん(立教大学コミュニティ福祉学部)は、自治体の民営化路線の特徴が「官製市場」の完全規制緩和と自由契約制度への徹底をめざすところにある、と発言。「保育所給食は、その日の健康状態など、子どもの状況をみて丁寧に対応することが求められる。調理師、栄養士、保育士の連携が欠かせないが、民営化では調理員は職員会議に参加できない。保育の質がどうなるのかという視点から給食問題を考えることが必要」と語りました。