2004年3月12日(金)「しんぶん赤旗」
小泉内閣は九日、有事関連七法案および三条約案を国会に提出しました。
昨年成立した武力攻撃事態法をはじめとする有事法制は、アメリカが世界各地でひきおこす戦争に自衛隊が武力行使をもって参戦し、日本国民を強制的に動員することを本質とするものでした。これに先立って一九九九年に制定された周辺事態法(戦争法)は、アメリカが海外でひきおこす戦争への動員というねらいを最初に法制化したものですが、(1)米軍への支援を「後方地域」に限り、(2)戦争への国民動員も強制力をもたないことを建前とするなど、米軍の戦争に協力するうえで大きな制約をもっていました。有事法制=武力攻撃事態法は、周辺事態法のこうした制約を突破するものでした。
今回の有事関連法案は、この有事法制にそくして、米軍支援の内容を具体化することを目的としたものです。それは、この法体系が、「日本が攻められた時の備え」ではなく、「米軍の戦争を支援する仕組み」であることを具体的にしめしています。いまアメリカが、イラク戦争にあらわれたように、国連のルールを踏みにじった先制攻撃戦略をむきだしにしているとき、わが国がこのような危険きわまりない法律を制定することは、憲法九条をもつ国がそれをかなぐりすてて、アメリカとともに世界の平和に挑戦する道に踏み出すことになります。
日本共産党は、法案の成立阻止と有事法制の撤廃のための国民的なたたかいをおこすことを、心からよびかけるものです。
有事関連法案には、米軍支援の具体化として、憲法の平和的・民主的条項を幾重にも踏みやぶる、つぎのような恐るべき内容が盛り込まれています。
米軍への戦争支援を無制限に拡大……有事関連法案は、米軍の戦争を支援し、米軍の軍事作戦・行動の円滑な遂行を保障するためにあらゆる仕組みをつくるものとなっています。
九九年の周辺事態法は、米軍への広範な支援内容を定めましたが、自衛隊による米軍支援を「後方地域」に限るとともに、武器・弾薬の提供はできないことにしていました。これにたいして今回の有事関連法案は、自衛隊による米軍支援の地域的制約を取り払い、米軍に弾薬を提供することも明記しています。これによって、米軍が武力攻撃を開始しようとするときに、自衛隊が米軍とともに戦闘地域にまで出動し、弾薬を提供することも可能になります(「米軍行動円滑化法案」「日米物品役務相互提供協定改正案」「自衛隊法改正案」)。さらに米軍の不利益になる物資の運搬を阻止できるように、公海上で船舶を自衛隊が武力で威嚇し、検査に応じない場合には船体射撃など武力行使をおこなうことも定めています(「海上輸送規制法案」)。これらは、憲法九条をじゅうりんした米軍の戦争への参戦そのものです。
自治体・公共施設を「軍事優先」で動員……今回の有事関連法案は、わが国の自治体・公共施設を米軍に自由勝手に使わせる仕組みも具体化しています。周辺事態法は、自治体が管理する港湾や空港を米軍が使おうとする場合、国が自治体に「協力を求める」ことにしていますが、使用を強制できるような仕組みではありません。これにたいして有事関連法案は、米軍に「優先的な利用」をはかることを明記しました。空港や港湾を管理する自治体が反対しても、内閣が強制的な権限を発動して実施させることができるようになります。「非核神戸方式」のように、核兵器を積んでいないことを自分で証明した船だけを入港させる自治体独自の施策も、まったく無力化してしまいます。また、政府があらかじめ航行を制限する区域を定め、それに「違反」した船舶に罰則を科すことも定めています。こうして、民間航空機・船舶を排除して、米軍が空港や港湾、道路や電波などの公共施設を排他的に利用できるようになります(「特定公共施設利用法案」)。多くの自治体関係者から憲法の地方自治の原則への挑戦だとする批判がよせられていることは、当然です。
「国民保護」の名のもとに国民を戦争に強制動員……さらに重大なのは、「国民保護」の名のもとに、国民や民間企業を戦争に強制動員する仕組みが具体化されたことです。この問題は、昨年の武力攻撃事態法制定のときには「別途法律で定める」とされていたことですが、今回の有事関連法案ではじめて具体化されることになりました(「国民保護法案」)。法案は、国民の土地や家屋、物資を強制的に取り上げること、医療や輸送にたずさわる労働者を強制動員すること、テレビなどの報道を規制することなど、詳細な内容が盛り込まれました。しかも、これらを実施するために、政府の命令に従わない国民に広範な罰則を科すものとなっています。これらは、憲法が保障した基本的人権――とくに思想・信条・言論・出版の自由、財産権などを根本から踏みにじる文字どおりの「人権じゅうりん法」です。
法案は、これらの強制措置を、国民の避難や救援を目的におこなうとしていますが、これはまったく「建前」だけのことです。たとえば、緊急時に住民を車で避難させようとしても、「米軍行動円滑化法案」によって、米軍車両には、日本の車両運行を無視して「緊急通行」したり、「車両等の物件の撤去」ができる権限が与えられています。このように、実際には、アメリカの軍事作戦の円滑な遂行が最優先される仕組みになっています。
重大なことは、今回の有事関連法案によって具体化される有事法制が、九九年の周辺事態法(戦争法)と一体となって運用されることによって、アメリカのひきおこす先制攻撃戦争に日本を動員する仕組みが、本格的なものとなることです。
周辺事態法は、「日本が攻撃を受ける」ということとはまったく関係ない事態であっても、アメリカが軍事行動を起こしたときに、自衛隊が「後方地域支援」をすることを定めたものでした。ところが政府は、昨年までの有事法制の審議のなかで、この「周辺事態」と、有事法制が発動される事態が「併存する」、重なり合う場合があるとしてきました。つまり、アメリカの軍事介入によって発生した事態を、あたかも日本にたいする武力攻撃事態=日本有事であるかのようにみなして、米軍を支援するということを認めていました。
今回の有事関連法案は、こういう場合の米軍への支援の仕組みを、リアルに浮き彫りにするものとなりました。法案によれば、相手国が予備役の兵士を招集したり、陣地を構築する段階(いわゆる「武力攻撃予測事態」)だというだけで、米軍への弾薬の提供、空港や港湾の排他的使用をはじめ、米軍にたいする無制限な支援が開始されることになります。
これによって、アメリカと日本の軍事共同作戦はとめどもないものとなります。アメリカが軍事出動すれば、相手国が武力を行使してもいないのに、周辺事態法にもとづいて自衛隊が後方支援をはじめる。アメリカが武力攻撃に踏み切る段階で、政府は、武力攻撃事態法でいう「武力攻撃予測事態」になったと宣言し、日本の空と海をアメリカの戦闘機や艦船に特権的に使わせ、戦闘地域に出向いて相手国を爆撃するための弾薬なども提供することになる。これに相手国が反撃してくれば、こんどは「自衛隊=わが国」が攻撃を受けたなどとして、日本自身が公然と武力攻撃に参加する――これこそまさに、「周辺事態」と有事法制が発動される事態の「併存」の“シナリオ”です。
今回の有事関連法案の真のねらいは、イラクへの侵略戦争と同じように、相手国の“脅威”なるものを理由に一方的に攻撃を加えるという、アメリカの先制攻撃戦略への協力であり、日本をこの無法な戦争に全面的に参戦させることにほかなりません。
政府が有事法制の名のもとにすすめているのは、「日本の平和と安全をまもる」「日本防衛」などという“大義名分”とはまったくちがって、アメリカがひきおこす戦争に備えた「周辺事態法」に連動して、わが国をそれに参加させるための新しい法体系づくりであり、アメリカの先制攻撃の戦争に自衛隊と日本国民を動員する枠組みづくりです。
日本共産党は、憲法にも国連憲章にも反するこのくわだてをきびしく批判し、有事関連法案の成立阻止、有事法制と「周辺事態法」の廃止をめざして全力をあげます。
日本共産党は、日本とアジアの平和を願い、憲法の平和原則を大切にしようとするすべての国民のみなさんに、このたたかいにともに立ちあがるよう、かさねてよびかけます。