2004年3月21日(日)「しんぶん赤旗」
イラクからの撤兵を掲げるスペイン社会労働党が勝利したスペイン総選挙の衝撃が、欧州を走っています。イラク侵略戦争を支持するイタリアのベルルスコーニ政権は、高まる撤兵世論に直面。開戦に反対したドイツでは、歓迎する声が相次いでいます。ブレア首相が戦争支持を変えないイギリスでも、有力紙が戦争批判の論評を掲げました。
イギリス |
【ロンドン=西尾正哉】英紙フィナンシャル・タイムズの外信面編集者で同紙コラムニストのクウェンティン・ピール氏は、イラク侵略戦争開始後一年にあたり十八日付の論評で、「誤った戦争が世界を分割した」とイラク戦争を批判しました。
「イラク戦争の不正な開始から一年たって、解決されない成り行きがわれわれを悩ませ続けている」と書き出した論評は、「欧州と米国は分裂し、欧州は米国をめぐって内部分裂している」と指摘。「イラク戦争とその後の経過は、イスラム教徒とキリスト教徒、貧者と富者、北と南、かつての同盟国といわゆる西側世界の間の地球規模の分裂をさらに悪化させた」と米英の進めるテロとの戦争が世界を分裂させていると強調しました。
つづけて論評は、「最初からの問題は、イラク侵攻がテロとたたかうことと何の関係もなかったことだ。口実がどんなものであろうとも、イラク戦争はブッシュ大統領が政権に就いた日から信奉していたものであった」とし、「戦争は、アルカイダを支持するイスラムのテロリストに新たな大義と都合の良い標的を与えてしまった」と指摘しました。
与党が敗北したスペインの総選挙結果については、「マドリードのテロだけがアスナール与党を敗北させた原因ではない。アスナール氏がブッシュ大統領を支持することへの国民の憤慨が、爆弾によって発散したのだ」と強調しました。
イタリア |
「ベルルスコーニ首相は今後、イタリアでは一週間前までイラク派兵に反対する一部野党議員が繰り返し引き合いに出すにすぎなかったサパテロ氏を考慮に入れなければならない」「スペインの社会労働党の政権復帰は、実際に欧州の均衡をゆさぶっている」(コリエーレ・デラ・セラ紙)
イタリアのベルルスコーニ右派政権は、スペインのアスナール政権とともに国民の反対を押しきって米国のイラク侵略戦争を支持、派兵も強行しました。そのアスナール政権が敗北し、サパテロ次期首相は撤兵を表明。ベルルスコーニ政権は重要なパートナーを失い、孤立を深めています。
スペインの総選挙後、イタリアでは野党がいっせいに撤兵要求を強めています。
野党中道左派連合「オリーブの木」の主要政党である左翼民主(党)のファシノ書記長は、立場はサパテロ氏と同じだと強調。六月までにイラクの主権移譲が実現しないなら軍を撤兵せよと迫りました。
ダレーマ元首相、アマート前首相も相次いで六月までの撤兵を主張しています。イラク戦争と派兵に一貫して反対してきた共産主義再建党のベルティノッティ書記長も、ロイター通信に対し、「イタリア軍のイラクからの撤退こそが、政治的な責任を果たすために唯一のなすべきことだ」と改めて撤兵を求めました。
右派系紙リベロのフェルトリ編集長は同通信に対し、「これは右派政権にとって重大問題。首相がどれだけ早期に解決できるか分からない」と述べています。
レプブリカ紙の世論調査によると、国民の67%がサパテロ氏の撤兵提案を支持すると答えました。こうした世論は国会の論議にも反映し始めています。
イタリア下院は十日、イラク派兵の期間延長を与党の賛成多数で承認しました。「オリーブの木」は棄権の方針で臨みましたが、反戦世論におされて、左翼民主(党)から三十九人もの議員が反対票を投じました。また、即時撤退を求める動議には、七十人もの議員が賛成し、メディアも注目して報じました。
二月十八日に行われた上院での投票でも、「オリーブの木」は棄権しましたが、二十人が反対投票しています。
ドイツ |
【ベルリン=片岡正明】イラク戦争に当初から反対を貫き国連中心の解決を訴えているドイツでは、政府、メディアとも、サパテロ・スペイン次期首相のイラク撤兵表明を高く評価しています。
フィッシャー外相はスペインの列車爆弾テロの直後、マドリードでの抗議デモにも参加。総選挙後、「だれも予測できなかったが、欧州連合(EU)の中でもっとも重要な国の一つが左翼政権になった」と語りました。
シュレーダー首相は、サパテロ氏のイラク撤兵表明は他国の主権に属することだとしながらも、「関心を持っている」「最大限に尊重したい」と支持を表明。対テロ対策で「欧州間、大西洋間の警察・治安協力の強化」を訴える一方、「軍と警察だけではテロとたたかえない」と語り、貧困や社会的不公正の是正が必要と強調しました。
「スペインの激震が欧州全体で感じられる」―。スペイン総選挙後の欧州の状況をライプチガー・フォルクス・ツァイトゥング紙十六日付はこう評します。「アスナールはイラク戦争でいくさの太鼓をたたき、EU憲法を袋小路に追いやり、欧州を外交的な危機に陥らせてきた。社会労働党のサパテロへの転換はいいニュースだ」(同紙)。
ターゲス・ツァイトゥング紙十六日付は、「(スペイン)国民がイラク戦争参加を明確に拒んだときに、アスナールは国民の過半数を代表するものではなくなった」として、イラク戦争への参戦が総選挙敗北の原因だと分析しました。
南ドイツ新聞十六日付は、目には目を、という「攻撃(テロ)には反撃(戦争)の論理は間違っている」と、米の対イラク戦争の論理を批判。「世界が責任をとれると感じるためには、国際社会が合法性を認めることができるイラクの民主的な再建が必要」として、改めて国連中心の解決を訴えました。
フランクフルター・ルントシャウ紙十七日付は「サパテロはテロとのたたかいを明確にしており、国連の委任がないままでのスペイン軍のイラク撤兵表明は、爆弾の前に縮こまったのではない」と論じました。