日本共産党

2004年4月2日(金)「しんぶん赤旗」

年金改悪法案に対する

山口議員の質問(大要)

衆院本会議


 一日の衆院本会議で日本共産党の山口富男議員がおこなった年金改悪法案に対する質問(大要)は次のとおりです。


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質問する山口富男議員=1日、衆院本会議

 日本共産党を代表して「国民年金法等の一部を改正する法律案」等について、質問します。

公的年金制度の歴史的大改悪

 本法案は、年金保険料の引き上げと給付水準の引き下げを、今後は国会の審議ぬきで毎年、自動的に行えるようにするものです。これは、国民の暮らしを支えるべき公的年金制度を根本から変質させるものであり、年金制度加入者七千万人、年金受給者三千万人に深刻な被害をおよぼす歴史的な大改悪といわなければなりません。

 第一に、保険料の引き上げによる連続的な負担増が引き起こす、国民生活への深刻な影響です。

 厚生年金では、毎年0・354%ずつ十四年間にわたって保険料が引き上げられ、これに伴う負担増は平均で毎年一万円です。国民年金でも、二〇一七年度まで、毎年三千三百六十円上がり続けます。

 小泉内閣のもとで、医療、介護、庶民増税をはじめとして、七兆円規模の国民負担増がすすめられています。そのうえさらに連続的な負担増を十数年も続けることになれば、これが国民の暮らしを圧迫し、消費の減退を長期にわたって引き起こすことは明らかではありませんか。

 社会保険庁の調査でも、国民年金の保険料未納の多くは、「保険料が高く、経済的に支払うのが困難」を理由としています。この理由は、働き盛りの四十歳代でも七割を超えています。

 総理、あなたの「改革」とは、保険料の連続的な引き上げによって、未納者をひろげ、国民年金の空洞化をさらにすすめるものではありませんか。答弁を求めます。

 第二に、給付水準の連続的な削減が、憲法二五条でうたわれている国民の生存権を脅かすことです。

 本法案は、「マクロ経済スライド」の名で、給付水準を削りつづけ、現在の水準を実質で15%もカットします。政府のいう一部の「モデル世帯」をとってみても、厚生年金で月額四万円の削減、かりに六十五歳から十五年の受給期間とすれば、七百万円を超える大幅な削減となります。政府は、現役労働者の平均所得の「五〇パーセント」の給付水準を確保するとのべていますが、これは、ごく少数の「モデル世帯」にすぎず、これすら二〇二三年には45%台におちこむ可能性もあります。さらに、政府の試算でも、共働きや単身者の給付水準は、三割―四割台しか確保できません。

 とりわけ、重大なことは、この削減が国民年金や障害年金の受給者など、年金額の低い人々にまで一律におよぶことです。

 これまで、国民年金は、財政再計算ごとに「政策改定」として、ごくわずかの引き上げがされてきました。しかし、その水準は、現在でも、夫婦二人で平均九万二千円にとどまり、全国消費実態調査でみる高齢者世帯の消費支出総額の四割程度にすぎません。この水準をさらに15%もカットすれば、年金収入に多くを依存する高齢者の生活に深刻な被害をあたえることは目にみえています。

 これでは、憲法二五条で定められた「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」、生存権を侵害することになるのではありませんか。総理、「健康で文化的な最低限度の生活」ができる給付水準を確保することこそ、国が本来果たすべき責任ではありませんか。はっきり、答えていただきたい。

 第三に、二〇〇四年度までに実施すべき基礎年金への国庫負担二分の一引き上げを先送りしたことです。

 二分の一への引き上げは、全会一致の決議まであげて、国会が政府に実施を求めてきたものです。そして、二〇〇〇年の法改正時に付則でその実施を書き込み、国民への約束としたものでした。今回の先送りは、公約違反そのものではありませんか。

 政府は、国庫負担引き上げの財源として、公的年金等控除の廃止などの年金生活者への課税の強化、所得税の定率減税の段階的廃止、そして、二〇〇七年度に「所要の安定した財源を確保する税制の抜本的な改革を行ったうえで」、その後、二分の一への引き上げを行うとしています。昨年十二月、与党が合意した「税制改正大綱」では、「消費税を含む抜本的税制改革」と明記されました。

 総理、消費税増税は、あなたのいう「安定した財源を確保する税制の抜本的な改革」に含まれているのですか。二〇〇七年度に国庫負担引き上げの財源として消費税を引き上げる計画をもっているのですか。責任ある答弁を求めます。

 老後の保障である年金給付の財源を、低所得者ほど税負担の重い消費税に求めるなど、およそ本末転倒であり、許されないことを、あらためてつよく指摘しておくものです。

年金制度の深刻な現状への処方せんなし

 年金制度の現状をめぐって、とりわけ重大な問題は、低額年金の受給者や無年金者が大量に存在していることです。

 国民年金しか受給していない高齢者は九百万人で、その平均受給額は、わずか四万六千円です。月額三万円未満の方が一割、四万円未満で三割を占めています。厚生年金でも平均の受給月額は十七万円程度で、月額十万円未満が六人に一人、十五万円未満が四割をこえるなど、ここでも、受給額は低い水準にとどまり、女性では、月額十万円未満の受給者が半数を占めています。

 総理、あなたは、このような低額年金、さらに無年金者の広がりについて、どう認識されているのか。「健康で文化的な最低限度の生活」の水準になっているとでも考えているのですか。あなたの認識をのべていただきたい。

 国民年金では保険料の未納率が約四割にのぼるなど、制度の空洞化も深刻です。免除者、未加入者を含めると、保険料を払っていない方は、すでに一千万人を超えています。土台から国民皆年金を崩す、こうした事態を放置すれば、将来さらに膨大な無年金者や低額年金者が生まれ、いっそう深刻化します。

 本法案のどこに、年金の空洞化、無年金者、低額年金者の問題を打開する方策があるのですか。こうした現状への処方せんがなくて、なにが「抜本改革」なのですか。

 日本共産党は、およそ「改革」の名に値しない、年金改悪法案をきっぱり廃案にするよう、強く求めるものです。

日本共産党の年金制度の改革提案

 国民の生存権の保障という憲法二五条の見地にたった年金制度への改革は、いまや、待ったなしの課題です。

 日本共産党は、年金制度の劣悪な現状を抜本的に打開するために、昨日、「『最低保障年金制度』を実現し、いまも将来も安心できる年金制度をつくる」という提案を発表しました。

 私たちの提案する「最低保障年金制度」は、国民年金、厚生年金、共済年金の共通の土台、つまり一階部分として、全額国庫の負担による一定額の最低保障額を設定し、そのうえに、それぞれの掛け金に応じて、給付を上乗せする制度です。最低保障額を当面月額五万円からスタートさせ、安定的な年金財源を確保しながら引き上げをはかり、国民の生存権を保障する水準をめざすというのが、わが党の提案です。

 この制度によって、低額年金の問題、二十五年掛けなければ受給資格が生まれない問題、無年金者、年金の空洞化など、今日の年金制度が抱えている諸矛盾を解決する道を開くことができます。

 財源については、つぎにのべることにして、まず、総理に端的におうかがいしたい。

 年金制度の劣悪な現状からみて、高齢者の「最低水準」の生活を保障する年金制度を築くことが必要だと考えるか、それとも不要だという立場にたつのか。答弁を求めます。

 日本共産党は、「最低保障年金制度」を実現し、老後に安心できる年金制度を維持・発展させるために、つぎの改革にとりくみます。

 第一に、最低保障年金に必要な財源は、道路特定財源の一般財源化と公共事業費、軍事費などの歳出の見直しとともに、大企業向け優遇減税をあらためるなど、歳入面での税制の民主的改革でまかないます。

 もともと、社会保障分野での日本の企業負担は、ヨーロッパ諸国と比べきわめて低い水準です。企業の「税と社会保険料の総額」を各国ごとに国民所得と比べてみると、イギリス16%、ドイツ17・7%、フランス23・6%にたいし、日本は、12・3%にすぎません。

 日本の企業負担は、ヨーロッパ諸国と比べて、きわめて低い水準ではありませんか。大企業が年金をはじめ社会保障にその力量にふさわしい応分の負担をして、社会的責任を果たす―これは、経済と社会の発展を考えれば、当然、求められるものではありませんか。

 第二に、巨額の年金積立金は、現在の比例報酬、いわゆる二階部分の給付水準を維持するために計画的に活用します。

 政府は、年金積立金について、高齢化のピーク段階での給付の維持に備えるためだとしてきました。それなら、二〇五〇年のピークにむけて給付の確保を図るよう、計画的に活用すべきではありませんか。ところが、政府の計画は、高齢化がピークとなる二〇五〇年までためこみをつづけるものです。これでは、結局、高級官僚の天下り先の確保を将来にわたって続けるということではありませんか。

 日本共産党は、年金積立金を年金給付以外に流用すること、株式運用でリスクにさらすことを禁止すべきだと考えます。この方向こそ、「グリーンピア」に象徴される積立金の放漫な無駄遣いや株式投資の失敗を二度と許さない、責任ある態度ではありませんか。

 第三に、日本共産党は雇用と所得をまもる政策への転換をはかり、不安定雇用の急増に歯止めをかけ、年金の安定した支え手をふやします。

 実際、大企業のリストラ、パート・フリーター・派遣労働など不安定雇用の拡大、中小企業の倒産などで、厚生年金の加入者は、政府の計画を二百万人から三百万人下回っています。保険料などの収入でも、二〇〇〇年、二〇〇一年度の二年間だけで約六兆円も見込み額を割り込みました。これでは、年金財政がゆきづまるのも当たり前です。不安定雇用を増やす労働政策を続ければ、年金制度の土台を崩すではありませんか。総理にその認識はあるのですか。はっきりした答弁を求めます。

 第四に、将来に安心のもてる年金制度を確立するためにも、少子化対策に本格的にとりくみます。

 フランスでは、国が率先して社会全体で子育てを支える体制を整備し、二〇〇二年で、一・八八まで出生率を回復させています。ところが、政府・与党の年金見通しは、二〇五〇年時点での出生率を現在の一・三二から一・三九にするもので、ほとんど横ばいの見通しです。

 少子化の急激な進行を避けることのできない前提とするのでなく、その克服に本格的にとりくむことと一体に、年金制度の将来設計をたてる、これが政治の責任ではありませんか。

 この間の世論調査では、負担増と給付減を長期にわたって国民に押し付ける政府の年金案に対して、八割を超える国民が「不安」を訴え、「反対」の声をあげています。年金財源のための消費税率引き上げに対しても、「反対」は、六割を大きく超えています。国民の判断はすでに明確ではありませんか。

 本法案は、老後の最低生活を保障するという、国が本来果たすべき責任を放棄したものであり、年金制度への不信と不安をいっそうかき立て、将来にわたって国民生活に苦難を強いるものです。その撤回を重ねて求めて、質問を終わります。

山口議員への小泉首相答弁

 山口議員に対する小泉純一郎首相の答弁(要旨)は次のとおりです。

 【保険料未納者の増大】 保険料の引き上げは段階的に行い、現役世代の負担の増大が過大なものとならないようにその上限を定め、給付水準についても現役世代の収入の50%を維持することを明確にしている。

 将来、保険料未納による低年金者や無年金者が生じないよう強制徴収などの対策を実施する。法案でも、多段階免除や若年者の納付特例制度を導入し、できるかぎり保険料を納めやすくしている。

 【給付水準と憲法の生存権の関係、日本共産党の「最低保障年金制度」の提案】 拠出制の保険制度で、年金額の改定で年金額の低い者に特別な取り扱いをすることは適当ではない。法案は高齢者にも一定の給付調整をお願いしている。

 「健康で文化的な最低限度の生活」は、国民の自助努力を基本としつつ、共助の仕組みである年金給付や生活保護その他の施策があいまって実現されるべきものだ。年金制度は貧困を予防する制度として機能している。法案による給付調整は、憲法の規定に抵触しない。

 共産党提案の「最低保障年金制度」は、自助自立という社会保険の長所を放棄するのではないか、生活保護との関係をどうするか、必要となる給付の税財源をどうまかなうのかなどの問題がある。

 【基礎年金の国庫負担】 二分の一への引き上げは、法案で平成二十一年(二〇〇九年)までに段階的に実施する道筋を明らかにした。公約違反の指摘はあたらない。安定した財源を確保することが必要であり、引き続き徹底した行財政改革を推進しつつ、消費税もふくめ、国民的議論を進めていくことが必要だ。

 【企業負担】 社会保障制度が国民生活の安定を図る役割を果たしていくためには、企業にも引き続き応分の負担をお願いしていく必要がある。

 【積立金】 法案では、国民の将来に対する安心の確保のために、少なくともいま生まれている世代がおおむね年金受給を終える百年程度の期間で積立金を取り崩すとしている。けっして天下り先の確保を目的としているわけではない。

 年金保険料の使途について批判があることを真摯(しんし)に受け止め、年金福祉施設等のあり方について徹底的に見直す。積立金の運用については大部分をより安全な国内債券で運用する。

 【労働政策】 フリーターの若者が多数にのぼる現状については年金制度への影響もふくめ、懸念すべき問題だ。フリーターになっている若年者をはじめとして、安定的な就業に移行できるよう積極的に支援している。

 【少子化対策】 少子化の進行は、年金等の社会保障制度をはじめ、わが国の経済社会に深刻な影響を与えるものであり、国の基本政策として少子化対策を推進することが重要だ。



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