2004年4月7日(水)「しんぶん赤旗」
米占領軍によるイラクのシーア派のムクタダ・サドル師支持グループにたいする弾圧行為は、戦車や武装ヘリまで動員した大掛かりな軍事作戦にエスカレートしています。米軍はまた、米占領当局、連合国暫定当局(CPA)の下請け警備会社の要員、元米特殊部隊員ら四人が殺されたファルージャを包囲、本国からの増派も検討しています。
「新たな戦線」(米紙ワシントン・ポスト)の始まりです。一体誰を敵にした「戦線」なのか。
一年前、国際法を無視して始めたイラク戦争で米国はサダム・フセイン政権を倒しました。口実にした大量破壊兵器、テロリストとのつながりなどがウソだということが明らかになってブッシュ大統領は開き直りました。「フセイン政権は独裁と抑圧の政権だった。これを倒すのは当然だ」
ところでいま米軍が攻撃しつつあるシーア派の人々はまさにそのフセイン政権の独裁と抑圧の被害者でした。なかでも、サドル師のグループは、イラクの国内で困難な条件のもと、フセイン独裁とイラクの国内でたたかっていた人たちです。現在米軍が捕まえようとしているサドル師の父、伯父はともにシーア派の指導者。フセイン政権によって暗殺されたのでした。
そのサドル師支持者らは米軍の占領開始直後から、占領反対、米軍撤退、主権返還を要求して行動してきました。この要求は日がたつにつれて、サドル師支持者だけでなく、信ずる教義の違いをこえてすべてのシーア派市民、イラク国民の間に広がってきたのが現実です。
これら市民の行動は最近のテロ組織とは違い、ほとんどが平和的な方法によるものでした。今回、米軍はこれに発砲で応えたのです。
今回の出来事の背景の一つは、CPAが、「(最近のホテル爆破事件は)米軍がやったとのうわさがある」と報じたシーア派の週刊紙アルハウザを発禁処分にしたことへの市民の怒りです。自分に都合が悪いことを書く新聞は許さない、これが米国の自由、民主主義か…。まさに占領軍、占領体制の本質を物語るもう一つの出来事でした。
いみじくも米紙ニューヨーク・タイムズ(三月三十日付)は社説でこの問題をとりあげ、イラクの国民の間に広がる米国への敵意について指摘した上でこう書いています。「(アルハウザなどは)米国にたいする敵意をつくりだしているのではない。すでにある敵意を反映しているのだ」。これを弾圧するという対応は、事態をさらに悪化させるだけだ…。事態は、まさに同紙が警告した方向に動いたのでした。
ブッシュ大統領は五日、「武力に訴える」人物としてサドル師を攻撃しました。しかし、「武力に訴えて」イラクという主権国家を破壊し、その政権を倒したのはブッシュ大統領その人です。そして今、その政権とたたかってきた人々を、「民主主義」の名のもとにせん滅しようとしているのです。
シーア派市民の新たな行動にたいして今、米軍だけでなく「連合軍」(自衛隊もその一員)全体が作戦を開始しています。ことはシーア派の中のあれこれのグループと米軍の対立ではなく、イラク国民と不法な占領支配を続ける米軍を主導者とした「連合」軍の衝突となりつつあります。それは、米国のブッシュ政権による無法なイラク侵略戦争の深刻な結果にほかなりません。
三浦一夫記者