日本共産党

2004年4月8日(木)「しんぶん赤旗」

小泉首相の靖国参拝に違憲判決

いま問われる「歴史の教訓」


 「違憲性の判断は裁判所の責務」──小泉純一郎首相の靖国神社参拝を憲法違反とした7日の福岡地裁判決は大きな意義をもっています。


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勝利の会見
小泉首相の靖国参拝を違憲とする実質勝訴判決を受け、記者会見する原告団=7日午前、福岡市中央区の弁護士会館

 「話にならんね。世の中おかしい人がいるもんだ」―靖国訴訟を起こした人々に、小泉首相はこう言い放ちました(二〇〇一年十一月)。A級戦犯合祀(ごうし)問題も「私は抵抗感を覚えない」、そして「よその国から言われ、気持ちを変える意思はまったくない」(〇四年二月)。

 それは司法への揺さぶりでもありました。大阪地裁(二月)は「首相の参拝は公的」としながら憲法判断を避けました。松山地裁(三月)も同様でした。そんな流れの中で、今回の福岡地裁判決はこう述べました。

 「判断を回避すれば今後も繰り返される可能性があり、裁判所の責務として判断する」―当然とはいえ、司法の勇気と見識を示したというべきでしょう。

 亀川清長裁判長はさらに、靖国神社は「必ずしも戦没者追悼施設として適切でない」としたうえで、首相の参拝は「政治的意図に基づいている」と断じました。

 「違憲の疑い」という政府見解を覆して強行した中曽根康弘首相の参拝(一九八五年八月十五日)も「戦後政治の総決算」という政治的意図がありました。「過去のことではなく二十一世紀に向けて前進の体制をつくる」「さもなくば誰が国に命をささげるか」と。

 一方、司法の場では「公式参拝は違憲」(岩手靖国訴訟仙台高裁九一年三月)、「継続すれば違憲」(中曽根参拝訴訟福岡高裁九二年二月)、「違憲の疑い」(同大阪高裁同三月)などの判決が確定しています。

 司法が厳格な政教分離を求めたにもかかわらず参拝を強行した小泉首相の「政治的意図」とは、第一に憲法への挑戦でしょう。そして戦争法(ガイドライン法)からイラク派兵、有事法制へと続く流れです。「有事」のさいの戦没者の新たな“受け皿”づくり。「米軍が攻撃されて日本が何もしなくてよいのか」「いざという場合には命を捨てることに敬意をもつ」―そういったうえで参拝を強行しました。

 玉ぐし料の公費支出を違憲とし、政教分離の厳守を命じた愛媛玉ぐし料訴訟最高裁判決(九七年)で、尾崎行信裁判官は、大正末期から昭和にかけての軍国主義化と戦争突入の歴史を示し「情勢の急変には十年を要しなかった」「些少(さしょう)だと思われる事態が既成事実となり、取り返し不能な状態になることは歴史の教訓」と述べました。その「教訓」がいま問われています。

 柿田睦夫記者


開き直りは通用しない

ただちに参拝中止せよ

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戦没者遺族らが損害賠償を求めた訴訟の対象となった2001年8月13日の小泉純一郎首相の靖国神社参拝=東京千代田区九段北の靖国神社

 福岡地裁が小泉純一郎首相の靖国神社参拝を「違憲」と判断したことについて、首相はなお「なぜ憲法違反なのか分からない。個人的信条で参拝している。(今後も参拝は)します」と開き直りました。

 判決が「内閣総理大臣の職務による公式参拝で、憲法二〇条で禁じた宗教的活動に当たり、違憲」との明確な判断を下した以上、「個人的信条」などという言い逃れはもはや通用しません。

 もともと、首相自身が二〇〇一年八月の最初の靖国参拝では、「総理大臣である小泉純一郎が心をこめて参拝した」と表明していました。「内閣総理大臣」として明確な政治的意図をもって参拝していたことは明らかです。

 首相は、参拝の意図を「戦没者に哀悼の意をささげる」とか「初もうでは日本の伝統」などと、ごまかしてきました。その口実が成り立たないことは、靖国神社が天皇のために死んだ軍人・軍属をまつり、侵略戦争の精神的支柱となった軍事的宗教施設という特別の性格をもっていたことからも明らかでした。また、多くの戦没者を生み出した責任を負うA級戦犯を合祀(ごうし)している施設を参拝すること自体、首相の言い訳の空虚さを示していました。

 首相は、戦争美化・肯定につながる靖国参拝を、さまざまな口実でごまかしながら毎年の参拝を強行してきたのです。

 判決は、こうした首相の行為をきびしく断罪。「裁判所が違憲性についての判断を回避すれば、今後も同様の行為が繰り返される可能性が高い」とのべました。つまり、首相に「同様の行為」、違憲の靖国参拝を繰り返さないように求めました。

 靖国参拝を繰り返すことは、行政府の長が司法判断をふみにじるという重大な問題にもなります。「個人的信条」などと開き直ることは、許されません。首相は判決を謙虚に受け入れ、ただちに参拝を中止すべきです。

 藤田健記者


首相の靖国参拝

違憲判決の要旨

福岡地裁

 小泉純一郎首相の靖国神社参拝をめぐる訴訟で、福岡地裁が七日、「違憲」と判断した判決の要旨は次の通り。

 一、被告小泉純一郎は、本件参拝に際し、公用車を使用し、秘書官を随行させ、「内閣総理大臣小泉純一郎」と記帳し、「献花内閣総理大臣小泉純一郎」との名札を付した献花をし、参拝後に内閣総理大臣である小泉純一郎が参拝した旨述べており、本件参拝は、行為の外形において、内閣総理大臣の職務の執行と認め得るものというべきであるから、国家賠償法一条一項の「職務を行うについて」に当たる。

 二、本件参拝は、神道の教義を広め、春秋の例大祭や合祀(ごうし)祭等の儀式行事を行い、拝殿、本殿等の礼拝施設を備える宗教法人である靖国神社において、内閣総理大臣によりなされたものであり、その行為の行われた場所、その行為に対する一般人の宗教的評価、行為者の意図、目的、行為の一般人に与える効果、影響等諸般の事情を考慮し、社会通念に従って客観的に判断すると、憲法二○条三項によって禁止されている宗教的活動に当たり、同条項に反する。

 三、本件参拝は、原告らに対して信教を理由として不利益な取り扱いをしたり、心理的強制を含む宗教上の強制や制止をするものではないから、原告らの信教の自由を侵害したものとはいえない。また、原告らの主張する宗教的人格権や平和的生存権等は、憲法上の人権と認めることはできない。

 四、原告らの主張する人格的利益は、憲法上の人権といえないものとしても、一般論として不法行為による被侵害利益たり得ないと解することはできない。しかしながら、本件参拝により原告らが不安感、憤り、危惧(きぐ)感等を抱いたとしても、その行為の性質上、これにより賠償の対象となり得るような法的利益の侵害があったものということはできず、本件参拝について不法行為の成立を認めることはできない。


裁判長「違憲性判断は自らの責務」

 「裁判所が違憲性についての判断を回避すれば、今後も同様の行為が繰り返される可能性が高い。当裁判所は、本件参拝の違憲性を判断することを自らの責務と考えた」。小泉首相の靖国参拝訴訟判決で、福岡地裁の亀川清長裁判長は異例の言及をしました。

 亀川裁判長は「数十年前から首相の靖国参拝について合憲性が取りざたされ、靖国神社法案も断念され、歴代首相も慎重な検討を重ねてきたものであり、国民的議論が必要であることが認識されてきた」と指摘。その上で「本件参拝は靖国神社参拝の合憲性について十分な議論も経ないままなされ、その後も参拝は繰り返されてきた」と指弾しました。


「今後も参拝する」
小泉首相が表明

 福岡地裁判決が小泉純一郎首相の靖国神社参拝について初めて「違憲」との判断を示したことに、首相は七日昼、「(慰謝料請求棄却で)勝訴でしょ。伊勢神宮(参拝)も違憲なの。なぜ憲法違反なのか分からない。個人的信条で参拝している。(今後も参拝は)します」と記者団に述べました。

 細田博之官房副長官は同日午前の記者会見で、「(違憲判断は)誠に遺憾だ」と表明。今後の対応については「判決の内容を十分検討して決めていきたい」と述べるにとどめました。


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