日本共産党

2004年4月11日(日)「しんぶん赤旗」

日本国際ボランティアセンター代表理事
熊岡路矢さんの陳述 (要旨)

1月の衆院委


 日本共産党の不破哲三議長が九日、東京・新宿駅東口でおこなったイラク人質事件での演説の中で紹介した熊岡路矢・日本国際ボランティアセンター(JVC)代表理事の陳述(一月二十九日、衆院イラク特別委員会)の要旨を紹介します。


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陳述する熊岡路矢日本国際ボランティアセンター代表理事=1月29日、衆院イラク特別委

24年間、国際協力の活動をした立場から

 おはようございます。日本国際ボランティアセンターの代表理事の熊岡です。

 本日は、お話しする機会を与えていただいて、ありがとうございます。

 私自身は、過去二十四年間、国際協力ということで、紛争地、タイ、カンボジア国境、日本と国交のなかったころのカンボジア、ベトナム、ソマリア、エチオピアなどで活動してきました。その他、短期間ではありますけれども、旧ユーゴ、ルワンダ、最近でいえばアフガン、イラク、パレスチナ等で活動してきました。その一人の働き手の立場からご意見を申し上げたいと思います。

 現在、イラクの人々の苦しみとか犠牲ということについては、一つは治安、安全の欠落というのが一点あります。それから二点目に、インフラ(社会基盤)の破壊、復旧のおくれということがあります。前回の湾岸戦争のときには、約三カ月で前政権においておおむねインフラの復旧が完了したと言われていることに対して、今回、ほぼ一年たつ中で、まだおくれているということにイラクの人々の不満がかなり募っています。それから関連して、雇用、収入、経済が悪いということによって、個々の家庭、個人、それからイラクの社会全体が非常に不安定化しているという点が挙げられるというふうに思います。

 現在、大きく見るならば、いわゆる占領軍、占領軍行政を含めて、外国軍による軍事占領という部分を、要素を、急にはできませんけれども段階的に、徐々に減少させていく、あるいはその明確なプログラムを出しながら、イラク人による政府、行政、これは警察も含めてですけれども、を強化し、完成していく、明確な段階を明示して具体化していくことが大事であるというふうに考えます。

 それから、人道復興支援などについては、占領軍もしくは軍隊的なものが行うのではなくて、明確に、より中立的な機関、存在といいますか団体に移譲、移行していく、これは通常どこの国でもそれが行われているわけなんですけれども、いくべきだ、そういう時期に来ているというふうに思います。

われわれは軍と距離をとることで安全を確保している

 われわれ治安、治安と言いますけれども、大きく言って二つ分かれます。

 一つは一般治安、確かに八月ぐらいまで、小学生、女の子、女性等に対する、暴力事件も含めて強盗、誘拐などの一般治安にかかわる犯罪、事件が多かったんですけれども、九月以降、この一般治安に関してはかなり改善が進んでいます。これら強盗事件などは減っております。この理由は、イラク警察が、非常に苦労していますけれども、イラク警察の復興、充実と並行して、一般治安はよくなっています。

 政治治安の方、占領軍行政などへの攻撃などに関しては、これは相変わらず悪い。この一週間、一月一日以降だけとっても、多くの攻撃が行われておりまして、残念ながらあまり改善の兆しが見えないというふうに見ています。この攻撃については、いろいろな見方があろうと思いますけれども、すべてでないにしても、六割、七割、かなりの割合が占領軍に対する抵抗組織の抵抗運動ではないかと思われる部分もあると思います。

 それから、非常に不幸なことに、占領軍及び占領軍行政だけではなくて、場合によっては国連であったり、これは去年の八・一九、それから去年の十月二十七日、国際赤十字、赤十字国際委員会のビルが破壊されたのですけれども、そういうふうに、占領軍及び占領軍行政と関連していると思われるところも攻撃を受けているということになっています。

 この中でNGO(非政府組織)は、後で申し上げるように百以上の団体が活動しています。これは日本の団体も含めてさまざまな国から、あるいは国際NGOとして入っておりまして、これはどうやって自分の安全を守っているかといいますと、軍あるいは軍隊的組織と距離をとることによって安全を確保しています。

 例えば、現在、十一月以降、CPA、占領軍行政が指令四十五で、全NGOは登録しろ、登録しないと活動できないと言っているんですけれども、われわれは、占領軍行政ではなくて、イラクの行政組織のもとでの登録を望んでおります。つまり、占領軍の傘下といいますか仲間といいますか、思われれば思われるほど、われわれの活動は難しくなり、存在も難しくなるといいますか、危険にさらされるという点で、あえて占領軍と距離をとることによって安全を確保しております。

 そういう文脈の中で、日本の自衛隊派遣について、憲法それから専守防衛政策から見て問題がある。

 イラク特措法の前提、非戦闘地域という条件から見ても、イラクの個々によって、日によって、場所によって違うとは思うんですけれども、全体としては、まだ残念ながら戦争、戦闘が続いているという認識を持っております。

イラクでは非武装の人道支援団体がこれだけ多くの活動をしている

 それから、人道復興援助として見た場合どうだろうか。われわれは、まさにNGOとして二十年以上、この分野での専門家であるわけなんですけれども、自衛隊派遣をどう見るかという点についてお話ししたいと思います。

 防衛庁長官は、武装した自己完結型組織・自衛隊でなければ、現在のイラクにおいて復興援助はできないというふうにおっしゃっておられるわけですけれども、私たちとしては、具体的に四つの事例を挙げて反論させていただきたいと思います。

 一つは、NCCI、これはイラクにおけるNGO調整委員会、これは各国に普通できるものなんですけれども、がありまして、ここで五十八のメンバー団体が登録され、五十四がオブザーバーとして、合計百十二団体が人道支援で今でもイラクで活動しております。その中で、六十名から七十名の外国人スタッフと約二千人のイラク人職員が一緒に働いております。つまり、武装していないグループがこれだけ多く活動し、ある意味で武装していないがゆえに活動しているという面もあるんですが。

 二番目に、国連はほとんど撤退したというふうに言われていますけれども、国際職員、あまり公表されていませんが、約十名がいて、あと、アンマンとイラクを往復しながら活動していますけれども、約四千五百名のイラク人職員とともに働いております。これも基本的に非武装な、自己完結型でない活動といいますか組織です。

 三番目に、日本政府、外務省は、ジャパン・プラットフォームのいくつかの団体、三団体でしょうか、に合計七億、八億という資金提供をしていて、ということは、これらNGOは活動できているという前提で資金を出しているんだというふうに思います。

 それから、私たちJVCもそうなんですけれども、市民、民間の資金のみで活動している日本のNGOも数団体ある。単発的に訪問しているところもあるということで、武装していない、それから自己完結型でないNGO等が、国連も一緒ですけれども、働いているという事実があります。

軍隊が人道復興援助に関係すると、本来の援助団体が危険な立場になる

 われわれは基本的に、軍隊的なものが人道復興援助に関係することで人道援助自体がゆがんでしまい、その中立性が失われ、本来の人道援助機関、団体、例えば国連、赤十字等も含む、われわれも含むNGOが危険な立場となるという認識を持っています。

 この観点で、UNOCHA(国連の人道援助事務所)、それから赤十字、OXFAM(十一カ国、十二団体でできている一つの連合体で、イギリスのOXFAMが中心)など多くの機関が、軍隊しかない特別な、極端な場合を除いて、軍、軍隊的なものが人道支援を行うことに反対している、もしくは懸念を表明しています。

 では、ひるがえってNGO、NGOスタッフはどのようにみずからの安全を確保しようとしているかという点についてお話しします。

 一つは、地域社会、地域の人々に溶け込むことで、安全情報も受け、また、まさに物理的といいますか精神的なものも含めて実態的に守ってもらうということをやっております。

 われわれの団体だけで過去二十四年間、日本のNGO約四百団体のうち、三十団体から四十団体が紛争地で活動しておりますけれども、このような方法でみずからを守っています。

 二番目に、武器を持たないことがかえって安全につながる、武器を持つことが武器を持っている人を吸引してしまうという要素がありますので、当然ですけれども、われわれも含めて、活動二十年、三十年に及んでも、一切武器を持たないことで、むしろそこが安全につながるというふうに感じています。

 三番目、先ほど申しましたように、軍、軍隊的な組織と明確に距離をとることによって安全を確保するということを行っています。

 次に、援助として見た場合、この自己完結型であるという点なんですけれども、われわれも長い間、国際協力、地域開発、それから紛争地での活動を行ってきましたけれども、自己完結型であるとどういうことが起きるかというと、地域社会に根差せないために、必要の把握においても、それから適正な実施においても、援助として成功しない可能性が強い。また、外国人はいずれその地を離れるので、適切な移譲が必要なんですけれども、困難が生ずるという点があります。

 二番目に、自己完結型であればあるほど、現地の雇用、収入、経済につながらないという点があります。

NGOなら1億円で10万人に給水―自衛隊は「費用対効果」が悪い

 三番目に、費用対効果が、非常に、もしくは相当悪くなるというふうに思います。

 現在、イラクで行われている活動では、八万人―十万人を対象にした、水を清める、給水活動においてNGOが活動しておりますけれども、NGOの場合、数千万円から、機械の装備などを入れても一億円ぐらいの単位で活動を年間行っております。自衛隊派遣では、中身は私、必ずしも詳細にはわかっておりませんけれども、年間三百数十億円というものが必要となるということで、これは非常に費用対効果が悪いというふうに思っております。

 したがって、この時点で、人道復興援助は、まさに国連、国際NGO、場合によっては、日本でいえばJICA(国際協力機構)、緒方貞子さんも、あえて危険を冒してでもJICAが動くということがあるべきだというふうにおっしゃっておりましたけれども、JICAも含めて、民間、NGO、それから国連、それから文民で行うべきであるというふうに思っております。

平和主義があったから日本のNGOは守られてきた

 最後に、私、二十四年間、非常に厳しいところで働いておりましたけれども、一人の活動者として、この間、第二次大戦以降の日本の非軍事主義、平和主義と言っていいかもしれません、国際協調主義、より中立的な立場をとろうとする姿勢、人道主義などが背景にあるので、われわれ国際NGO、日本の国際NGO、あるいは活動者も守られてきたというふうに思っております。今そこは揺らいでいると思うので、ここをもう一回確定してほしい、確認してほしいというふうに思います。

 どうも長時間ありがとうございました。(拍手)


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