2004年4月12日(月)「しんぶん赤旗」
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イラクで日本人三人が「サラヤ・アル・ムジャヒディン(戦士旅団)」と名乗る犯行グループに拘束された事件で、同グループは日本時間の十一日未明、「三人を二十四時間以内に解放する」との声明を出しました。カタールの衛星テレビ局アルジャジーラが同日午前三時ごろ(現地時間十日午後十時ごろ)伝えたもの。
しかし、十一日夜になっても三人の解放は確認されず、いったん安どの表情をみせた三人の家族も、昼すぎの会見では、「危機的な状況は変わっていない」と不安を募らせ、「一刻も早く無事な姿を見せてほしい」と声をつまらせました。日本国内では、三人の解放を求める署名運動などが引き続きおこなわれ、状況を見守りました。
人質にされたのは、札幌市西区・市民団体代表の今井紀明さん(18)、宮崎県出身で東京都杉並区・フリージャーナリストの郡山総一郎さん(32)、北海道千歳市・ボランティアの高遠菜穂子さん(34)の三人。
犯行グループの声明は、「(イラクのイスラム教スンニ派の最高指導部である)ムスリム聖職者連盟の要請」を解放理由にあげ、「彼ら日本人(三人の人質)が、イラクの人々に敵対する占領国には毒されていないことや、家族の苦悩や今回の出来事に対する日本の人々の姿勢を考慮」したなどとしました。
一方で、「日本政府首脳の言説やごう慢さを認めない」と非難。自衛隊のイラク駐留についても「違法であり、米国による占領継続に貢献することになる」とし、「日本の人々に対し、日本政府に最大限の圧力をかけ、軍隊をイラクから撤退させるよう求める」などとしました。川口順子外相も十一日朝、「複数の情報源から」解放への情報を得ていると言明。外務省幹部は、解放の時間について「(十一日の)昼ごろまでに解放されるだろう」との見通しを示しました。
しかし、昼すぎになっても解放は確認されない状況が続きました。
十一日未明に届いた「解放する」という声明のニュースに「言葉にできないほどの安ど感」を感じ、歓声をあげた三人の家族たち。イラクで拘束された今井紀明さん(18)、郡山総一郎さん(32)、高遠菜穂子さん(34)の無事な姿を求め、訴え続けました。情報が錯綜(さくそう)するなか「解放」の確定情報は、同日午後九時の「三日間」の期限を過ぎても届きませんでした。
午後八時半過ぎ。家族はそろって北海道東京事務所に姿を見せました。
「三日以内に自衛隊が撤退しなければ焼き殺すというはじめの要求がすごく気になっております」。今井さんの父・隆志さん(54)は、こわばった表情で切り出し、「マスコミの力を借りて私たちが自衛隊撤退を強く望んでいるということを伝えていただきたい。よろしくお願いします」。報道陣に頭を下げると、他の家族もこれに続きました。高遠さんの弟・修一さん(33)は「アラブへの呼びかけも引き続きやっています。お願いです。助けてください」と訴えました。
午後二時すぎの会見では郡山さんの母、みつ子さんが「元気な息子の姿が見れるかなと楽しみにしていました。でも確証のあるものはない。自分がくじけていきます。息子を助けてください」と不安をつのらせました。
この日、家族を励ましたのは、「三人の命を助けて」と全国から集まった十五万人分近い署名でした。午後四時前、家族は、署名をかかえて会見しました。
「署名は命を助けてほしい。そのためには自衛隊の一時撤退もお願いしたいという声」(今井さんの母・直子さん)。家族は午後五時すぎには内閣府に移動して、約十五万人の署名を提出。政府に思いをぶつけました。「二十万、三十万、そういう日本国民の声を聞いていただきたい」と語る高遠さんの妹の井上綾子さん。今井隆志さんは「自衛隊撤退、即時停戦。人質を助けるために、この声聞いてください」と訴えました。
井上綾子さんは声を詰まらせながら、訴えました。「無事が確認できていないんです。真っ暗ななかにいて、本当に小さな光が見えたんだったら、私たちはそこにはってでもたどりつかなくてはいけないんです。とにかく小泉首相に私たちの声を聞いていただきたい」
犯人側の声明(全文)サラヤ・アル・ムジャヒディンがカタールの衛星テレビ局アルジャジーラに送った声明は以下の通り。
慈悲深い神(アラー)の名の下に われわれは兵士三人(今井さんら)の拘束に関する日本政府のコメントと、市民の生命を軽視する同政府の姿勢を、大きな苦痛をもって聞いた。このことは、日本政府の狡猾(こうかつ)さからイラク市民を守ることを目的にわれわれが取った行為に、十分な正当性を与えた。日本政府は自国民に全く敬意を払っていないようにみられる。ましてイラク国民に敬意を払っていると言えるだろうか。われわれは日本政府首脳の言説やごう慢さを認めないが、日本の政治家たちが自国民の感情や意思を代表していないと確信している。こうした政治家たちは戦争犯罪人であるブッシュ(米大統領)とブレア(英首相)の言いなりになっており、そのため、われわれは日本の人々の声に耳を傾けた。 われわれは、核兵器を用いて広島、長崎で虐殺を行ってあなた方(日本人)を傷つけた米国が、国際的に禁止された爆弾を使用したより被害の大きい攻撃的な方法で、ファルージャで同様の行為に及んでいることを、日本の人々に気付かせた。 イラク人の抵抗運動が、宗教宗派、人種を問わず、平和を好む外国市民を標的にしないということを全世界に示すため、そして、われわれに今日の夕方に(人質解放の)呼び掛けを行った「ムスリム聖職者連盟」の信用、公明正大さ、勇気を証明するため、さらには、彼ら日本人(三人の人質)が、イラクの人々に敵対する占領国には毒されていないことや、家族の苦悩や今回の出来事に対する日本の人々の姿勢を考慮し、われわれは以下のことを決めた。 一、ムスリム聖職者連盟の要請に直ちに応え、三人の日本人を二十四時間以内に解放する。 二、米国の抑圧に今も苦しむ親愛なる日本の人々に対し、日本政府に最大限の圧力を掛け、軍隊をイラクから撤退させるよう求める。なぜなら、彼らの(イラク)駐留は違法であり、米国による占領継続に貢献することになるからだ。 神は偉大なり 二○○四年四月十日 サラヤ・アル・ムジャヒディン |