2004年4月14日(水)「しんぶん赤旗」
日本共産党の赤嶺政賢議員が十三日の衆院本会議で、イラクでの日本人拘束事件、有事関連法案について行った質問(大要)は次の通りです。
私は、日本共産党を代表して、まずイラクの日本人拘束事件について質問します。何よりも人命優先で対応する、三人を無事救出するためにとりうるすべての手をつくすことが、政府の責任であります。
いま緊急に必要なことは、アメリカがイラク全土で展開している「反米武装勢力」の鎮圧・掃討作戦をやめさせることです。とりわけ米軍がファルージャでクラスター爆弾まで使用して掃討作戦を行い、モスクを爆撃し六百人以上の市民の生命を奪ったことが、事態をいっそう悪化させています。こうしたもとで外国人「人質」事件が多発しているのではありませんか。
アナン国連事務総長は「無辜(むこ)の民間人への危険を最小限にとどめるため」すべての関係当事者に自制をよびかけています。日本政府は、アメリカに対して武力攻撃の自制をもとめ、鎮圧・掃討作戦を中止するよう、なぜ要求しないのですか。
いまイラクは全土が戦争状態にあります。これまでの政府答弁からいっても、自衛隊の撤退を真剣に検討すべきであります。航空自衛隊が武装米兵の輸送を行うなど、自衛隊が米軍の作戦を支援し、占領支配の一翼を担っていることは明白です。しかも自衛隊派兵によって、イラクで活動する日本のNGO(非政府組織)やボランティアの人々の人道支援活動を困難にしているのであります。いまや自衛隊派兵をつづける根拠はどこにもないではありませんか。
有事関連法案について質問します。
小泉内閣は、昨年の国会で「日本が攻められたときへの備え」だといって「武力攻撃事態法」を成立させましたが、その核心は、アメリカが日本国の領域外で引き起こす戦争に日本を本格的に参戦させる体制づくりにほかなりません。日本が武力攻撃をうけていない、「日本有事」に至るはるか以前の段階、「武力攻撃予測事態」から、自衛隊をはじめ地方自治体・民間まで官民あげて、戦争遂行中の米軍に対し支援を行うというのが、「武力攻撃事態法」の基本的な枠組みです。
有事関連七法案・三条約は、この「武力攻撃事態法」の枠組みにそって、米軍支援や国民総動員の体制を具体化するものであり、重大です。
しかも、アメリカが先制攻撃戦略に基づき、国連憲章をふみにじり、大義なきイラク戦争を引き起こしているもとで、日本がその米軍支援のための有事法制づくりをすすめることは、イラク戦争に反対し国際社会の平和のルールの確立を求める世界の流れに逆行するものではありませんか。
「米軍行動円滑化法案」についてききます。
この法案の眼目は、「武力攻撃予測事態」の段階から、米軍の軍事行動が「円滑かつ効果的」に遂行できるようにするための措置の実施を「政府の責務」としていることです。この措置(「行動関連措置」)の内容に何らかの制約はあるのですか。
周辺事態法では、自衛隊の支援を「後方地域」に限定していましたが、そのような地域的限定はいっさいないのではありませんか。また米軍支援の要請に応じる「責務」を負わされる、地方自治体や事業者(国民)は要請を拒否することができるのですか。結局、日本が攻撃をうけていない「予測事態」から、米軍の軍事行動のために、あらゆる障害をとりはらい、無限定に米軍を支援する仕組みをつくることになるのではありませんか。
重大なことは、「予測事態」から、米軍に対し弾薬の提供を行うことができるようにしていることです。弾薬の提供は、「周辺事態法」では、「憲法上慎重な検討を要する問題」として政府も認めてこなかったものです。なぜそれを今回できるようにしたのですか。「周辺事態」も「予測事態」も、日本が攻撃を受けていないことでは同じでありませんか。弾薬の提供は、まさに米軍と直結した軍事行動であり、政府の言う「米軍の武力行使との一体化」になるのではありませんか。
さらにACSA(日米物品役務相互提供協定)改定案は「国際の平和及び安全に寄与する」目的で、日米が相互に兵站(へいたん)支援をできるようにする規定をもりこんでいますが、これは、日本の有事とは全く関係のない、海外のあらゆる事態に日米が共同で対処する体制をつくろうとするものではありませんか。
また「海上輸送規制法案」は、米軍と共同対処行動をする海上自衛隊が、外国軍用物資を輸送している疑いがあれば、公海上で第三国の民間船舶を停船・拿捕(だほ)し、応じなければ撃沈も可能にするものです。政府は、従来、有事の際の第三国船舶への臨検は、憲法が禁止する「交戦権の行使」にあたり認められないとしてきたのではありませんか。
「特定公共施設利用法案」についてききます。
法案は、「予測事態」から、港湾や飛行場、道路などの管理者である地方自治体や指定公共機関にたいして、政府の定める「指針」に従い、米軍・自衛隊に優先的に利用させることを「責務」と規定しています。自治体が政府の要請に従わないときは、首相による「指示」と国土交通大臣を通じた代執行による強制まで定めています。これは、周辺事態法があくまで自治体に「協力を求め」るとしていたのとは異なり、米軍の行動を支援するために、これらの公共施設を強制使用するということではないのですか。
まさに港湾、飛行場をはじめ、道路も、海域、空域も、電波も、すべて米軍・自衛隊が優先的に利用できる仕組みをつくるものではありませんか。
「国民保護法案」について質問します。
法案は、「住民の避難・誘導」「避難住民の救援」を定めていますが、一体どういう事態、戦争を想定しているのですか。政府自身が「我が国に対する本格的な侵略事態生起の可能性が低下」したと認めているのではありませんか。
また「住民の避難」といいますが、実際は、米軍・自衛隊の作戦行動を最優先する仕組みのもとで、作戦地域から邪魔になる住民を排除するために、「避難」させようというものではありませんか。政府が住民に「避難」を指示し、これに知事や市町村長が従わなければ、首相自らその措置をとることができるとしているのも、そのためではありませんか。
法案は、消火や医療、負傷者の搬送などに駆りだし、物資を収用し、報道を規制し、罰則までつけて国民を戦争に動員する仕組みを定めています。しかも重大なことは、都道府県と市町村に、自衛官・警察官が加わる「国民保護協議会」を設置し、国民動員の「計画」をつくり、「訓練」を行い、「国民の啓発」を行うとしていることです。これは、ふだんから戦争体制に国民をくみこむシステムづくりではありませんか。
さらに、NHKを指定公共機関とし、民間放送事業者に対しては、対策本部長が発令する「事態等の現状及び予測を含む警報」の放送を義務づけ、一方、政府や国の行政機関、地方自治体に「有事関連情報」の迅速な提供を義務づけています。これは、政府・当局が発する情報で放送をコントロールし、報道の自由を制限することになるのではありませんか。
今回新たにもりこまれた「緊急対処事態」とは、いかなる事態ですか。「緊急事態基本法」などの議論もありますが、そもそも日本に対する武力攻撃とテロ、自然災害はそれぞれ原因も違えば、事態の態様も違います。それをひとくくりにして対処する仕組みをつくることは、わが国社会と国民生活のすべてに有事法体系をもちこむものであり、人権侵害をいっそう拡大することになるのではありませんか。
以上、日本共産党は、有事関連法案を断じて許さず、憲法の平和原則を守りぬく決意を表明し、質問を終わります。
赤嶺議員への各閣僚の答弁 |
赤嶺議員の質問に対する各閣僚の答弁(要旨)は次の通りです。
●川口順子外相
【イラクでの米軍の鎮圧・掃討作戦】米軍をふくむ連合当局およびイラク国民による治安・秩序の回復に向けての努力を一貫して支持している。
【有事法制による米軍支援】日米安全保障条約にしたがって行動する米軍が円滑かつ効果的におこなえるように手当てすることは当然だ。
【ACSA改定】自衛隊による物品・役務の提供は、個別の活動ごとに国内法の根拠がある場合にやる。有事と関係ないあらゆる事態に共同で対処するものではない。
●石破茂防衛庁長官
【自衛隊のイラク派兵】「人道復興支援」を中心とした活動に従事するもので、占領行政の一翼を担うものではない。
【海上輸送規制法案による臨検】自衛権の行使にともなう必要最小限度の範囲内の措置。憲法上問題ない。
【国民保護法案が想定する事態】本格的な侵略の可能性は低下しているが、緊急事態に対処するための体制整備は当然の課題だ。
●井上喜一有事法制担当相
【米軍行動円滑化法案】行動関連措置は武力攻撃を排除する目的の範囲内であり、無限定に米軍を支援する仕組みとの指摘はあたらない。
【弾薬の提供】対象は武力攻撃を排除するのに必要な準備のための米軍の行動に限られる。予測事態においてはわが国に対する武力攻撃が発生しておらず、米軍は武力を行使していないので、弾薬を提供しても憲法上問題が生じることはない。
【特定公共施設利用法案】対策本部長(首相)がその時々の状況を総合的、適切に判断して利用の確保をはかるもので、米軍・自衛隊が優先的に利用できる仕組みをつくるためのものとの指摘はあたらない。
【国民保護法案における住民の避難】作戦地域からじゃまになる住民を排除することが目的ではない。
【国民保護協議会や訓練など】国民を保護するために必要な平素からの備えだ
【報道の自由の規制】国民の生命・身体の安全の確保に関する緊急情報を正確かつ迅速に国民に伝達することは重要だ。報道の自由を制限することや、国が放送事業者をコントロールすることなどは考えていない。
【緊急対処事態】発生の段階では「武力攻撃事態」であるとの判断が困難な事態、武力攻撃に準ずる手段を用いた攻撃により、甚大な被害を生じる事態を想定している。緊急事態基本法については与党間の議論を見守り、検討をおこなう。