2004年4月14日(水)「しんぶん赤旗」
幼い子どもたちの心と体をはぐくむ、保育所の給食。いま、保育所給食の外部委託、調理業務委託が全国に広がっています。現場にどのような影響がでているのでしょうか。東京で実施された調査結果から考えます。
調査は、第十八回全国保育所給食セミナー東京実行委員会が実施(調査期間は昨年十月―十二月)。公立保育所は、二十三区二十七市の各自治体の労働組合へ調査を郵送で申し込み、十五区十三市が回答。認証保育所(A型)は、開所している全百十二カ所(昨年十月一日現在)へ、訪問及び郵送で調査を申し込み、四十八カ所が回答しました。 |
保育所給食の調査について、全国保育所給食セミナー実行委員長の垣内国光さん(明星大学教授)は、「政府は『保育所に調理室はいらない』と、『規制緩和』で調理室必置義務をなくす動きを速めています。東京でも保育所給食の外部委託が広がっています。給食が子どもの成長、発達保障に欠かせない役割を果たすことを明らかにしたいと調査しました」と語ります。
回答のうち直営を守っている自治体(九区十一市)では、「調理師は会議に参加し、子どもたちの発達や様子を把握し、ともに子どもたちをどう育てていくかを話し合っている」「現場と交流しながら、日常的に工夫された献立が作られている」「食材の納入などにも関わり、安全性が確認できる」などの記述があります。
一方、公立保育所で給食の「外部委託」や「調理業務委託」を導入している自治体(六区二市)は、四区がコスト面で「安くなった」と回答しました。メニューなど内容についての記述は、「手作りおやつが少なくなった」「業者の作りやすいメニューに変化」「離乳食の簡素化」「缶詰の使用が増えた」などが目立ちます。
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特徴的なのは、委託を導入した自治体で「(業者と)コミュニケーションがとりづらい」「直営は保育士の要望にすぐ応えられる」との回答があることです。
直営は、調理師と保育士、栄養士が連携をとり、職員会議などで子どもの育ちを把握し、献立に工夫したり、安全性を確認しています。しかし、委託業者は職員会議に参加できません。
委託を導入した自治体では、調理師の数など職員配置を「つかめない」、衛生管理は「把握できていない」という回答もあります。外部委託でコスト削減はされたものの、給食が子どもの心と体を育てる保育の一環であるという基本が揺らぎ、質の低下をもたらしている状況が読み取れます。
公立の調査結果をまとめた丸山麻利子さん(東京自治労連保育部会副部会長)は、「今まで把握できていなかった委託後の状況をつかんだことで、給食直営を守る運動の大切さを改めて実感しました」と語ります。
東京都の認証保育所制度は、都が国の基準を下回る独自の設置基準を設けて、多様な事業者が参入する保育所をつくったもの。日に十三時間以上の開所が義務づけられています。企業参入の多いA型(駅前型)にしぼり、実態を調査しました。
認証保育所の設置基準では、調理室必置となっていますが、調査では「調理室なし」の園が一園ありました。
「困ったこと」についての自由記述では、「調理室が狭い」「アレルギー児への対応」「専門に調理の人がいないので、出勤している保育士の一人が交替で給食をつくる。買い物もしなければいけないので大変」などがあげられています。
給食の料金は、保育料(事業者が自由に設定。上限は月二百二十時間以下の利用で三歳未満児八万円、三歳以上児七万七千円)に含まれるところと、別料金のところに分かれます。別料金では、一食ごとの徴収(二百円―五百円程度)や月ごとの徴収(一食四千五百円―一万円程度)などさまざま。保育料と食費を合わせると、保護者の負担が大きいことがわかります。
調査をまとめた、町田とし江さん(福祉保育労保育協議会事務局長)は、「認証保育所の給食費は親の負担が大きいと感じます。調理室の狭さや人手不足など労働条件は厳しいけれど、『研修に参加してもっと勉強したい』という労働者も多く、国と都の責任において予算をつけ、ともに保育所の『食』を大事にしていきたい」と語ります。
垣内さんは、「調査の結果、コストや効率を優先させた、保育の企業化や給食の委託化で、食の安心・安全や質が低下している一端が明らかになりました。家庭での食事作りを励まし伴走するプロとして、豊かな技術をもつ保育所給食室の役割が注目されており、こうした動きは時代の要請に逆行しています。保育に関わるすべての人が手をつなぎ、豊かな給食を守るために共同を広げる必要があります」と語っています。