2004年4月18日(日)「しんぶん赤旗」
米占領軍のイラク国民への攻撃が激しくなり情勢が深刻化するなかで、米英両国とともにイラクに派兵している「有志連合」諸国のひび割れが拡大しています。派兵の条件がなくなったとして撤兵の期限を早めたり、再検討する諸国が相次いでいるためです。「テロに屈するな」とのブッシュ米大統領の呼びかけも次第に力を失いつつあります。
有志連合 国連安全保障理事会の承認も、同盟諸国の賛意も得られずにイラク戦争を強行したブッシュ米政権が、同戦争は国際的支持を得ているとみせるため、米国を支持する意思のある個々の諸国を集めてつくり上げた「連合」。「連合」といっても、決定権はすべて米国が握り、他国はそれに従うだけです。戦争の大義の崩壊や、占領作戦によるイラク情勢泥沼化を背景に、亀裂が広がっています。 |
シンガポール政府は五日、兵員三十一人とC130輸送機、百六十人乗り組みの上陸用舟艇すべてを帰国させたと発表しました。続いて工兵部隊など四百七十三人を派兵しているタイのタクシン首相は九日、「人道援助の条件がなければ、われわれの立場を再検討する」と言明しました。
国軍五十五人などを派兵しているフィリピンのアロヨ大統領が九日、「部隊の安全が最大の関心事」「撤退させるかどうかは今後の治安状況にかかっている」と言明しました。
イラク派兵を国連安保理決議に基づいているとしているニュージーランドのクラーク首相も二日、派遣している約六十人の施設部隊を九月に撤収させると言明しました。
アジア太平洋地域でイラクに派兵している諸国は日本を除いて七カ国。このうち四カ国が撤収ないし再検討を表明したことになります。
秋に総選挙が予定されるオーストラリアでも、世論調査で与党連合より優位にある野党、労働党のレイサム党首が、選挙で勝利すればクリスマスまでに八百五十人の部隊を帰還させると公約しました。
アジア歴訪中のチェイニー米副大統領がイラク支援の必要性を訴えてまわったなかだけに、一連の動きは、情勢の転換をいっそう浮き立たせています。
その背景には、米軍がイラク南部のシーア派サドル師のグループや中部ファルージャへの攻撃を強行し、「第二次イラク戦争のぼっ発」(米誌『タイム』)、「ベトナム戦争化」(ケネディ米上院議員)といわれるほどイラク情勢が悪化し、米占領体制への抵抗運動が広がっていることがあります。
もともと各国には、米国の戦争・占領政策への加担だとして、派兵に強く反対する世論があります。そのうえタイ、フィリピンなどにはイスラム教過激派グループが存在し、それらとアルカイダなどテロリストグループとの連携が懸念されています。
イラク国民への米軍の暴虐に怒りが広まり、「他国の敵を国内に誘引することになる」「イラクでアジア人の血を流す価値があるのか」といった危機感が政権内にも強まっていると指摘されています(『タイム』誌)。
欧州では派兵部隊の撤退を公約に掲げたスペインの社会労働党が三月十四日の総選挙で劇的な勝利を収めました。同党のサパテロ書記長は十五日、首相に選出されました。同首相は派兵部隊の撤退方針を改めて表明。この政策転換が各国に影響を与えています。
スペインの選挙結果をうけ、イラクで同国軍の指揮下で活動していた中米のホンジュラスでは、マドゥロ大統領が八月の期限以上の駐留継続はないと表明しました。ニカラグア軍はすでに撤収しています。
派兵三十五カ国のうち十五カ国を占める中・東欧諸国でも変化が出ています。二千四百人の大部隊を派遣しているポーランドでも、派兵への批判が強まっています。
四百五十人を派兵しているブルガリアでは派遣部隊のなかから帰国希望が相次いでいます。ブルガリアのパシ外相は十三日、「帰国願いは驚くべきことではない。だれも任務を強制できない」とし、十五人の帰国を容認する考えを表明しました。
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