日本共産党

2004年4月25日(日)「しんぶん赤旗」

ここが知りたい特集 小泉内閣の年金大改悪

年金

暮らしの土台くずす

政府案 3つの問題点

審議尽くさず採決急ぐ自公の横暴


 世論調査を何回やっても政府の年金法案への不信・反対が多数なのに、自民、公明両党は衆院での採決を急ごうとしています。法案には暮らし、社会保障の土台をくずす大問題がもりこまれています。これを法案成立のための日程上の都合だけで押し通すとすれば、数の力で国民を従わせるという政治の横暴です。



 保険料連続引き上げ
制度の空洞化が深刻

 法案は、厚生年金、国民年金、共済年金という公的年金すべての保険料を引き上げます。それも、十三年後(二〇一七年度)の引き上げをあらかじめ決め、毎年引き上げるという、過去に例のない連続負担増です。

 これまでは五年に一回の年金財政の計算の見直しで、必要となった保険料引き上げ案をその都度、国会にはかってきました。法案は、その手続きを放棄。今回の一度の審議でまとめて十四回分の引き上げを強行し、国民にのませようという法案です。

 厚生年金保険料(民間会社員、法人職員が加入)は年収の13・58%(労使が半分ずつ負担)から18・3%にします。35%のアップです。国民年金(自営業者など)は月額一万三千三百円から一万六千九百円へ27%アップの上げ幅です。

グラフ

国民年金

 いまでも軽い負担ではありません。国民年金保険料は、夫婦で月二万六千六百円。もう一人、家族が営業に参加していれば一世帯で月額約四万円も払わなければなりません。不況のなか、保険料の納付率は一九九三年度から二〇〇二年度まで十年間連続で前年比マイナスとなっています。この間、九二年度の納付率85・7%から〇二年度の62・8%へ、約23ポイントもの大幅な落ち込みです。(グラフ1)

 現時点(〇一年十月から〇二年三月までの各調査からの政府推計)で、二年間保険料が未納という人は三百二十七万人。保険料免除者、未加入などを含めると九百十四万人にものぼります。国民年金加入者(自営業者など第一号被保険者)の40・2%を占めています。過去二年に満たない未納者を合わせると実態はもっと多いことになります。保険料納付という制度の柱はやせ細る一方で、深刻な空洞化です。

 未納の第一の理由が「保険料が高く経済的に支払うのが困難」(〇二年度)で64・5%を占めます。しかし法案は、この負担感の重い保険料を、連続で引き上げるというのです。「持続可能な年金制度の構築」が政府のいう法案提出の目的ですが、「持続可能」どころか空洞化促進、「持続不可能」にする提案といえます。

厚生年金

 厚生年金も空洞化の危機に直面しています。

 制度安定の支えになるのは加入者(被保険者数)の増加です。前回「改革」で厚生労働省は、加入者について二〇〇〇年度の三千四百三十万人から〇二年度の三千五百万人へ増えると見通していました。実際には〇〇年度三千二百十九万人で見通しを下回り、〇二年度は三千二百十四万人で二百八十六万人も下回りました。見通しに比べた保険料収入の減収分は、厚労省推計で〇〇年度一兆一千億円、〇一年度一兆八千億円になります。

 背景にあるのは、大企業中心に進められている人減らし・賃下げのリストラです。財界は、今回の政府案が企業側にも35%の保険料負担増を求めることを理由に、新たなリストラをねらいます。衆院厚生労働委員会の参考人質疑(二十二日)で矢野弘典・日本経団連専務理事は「保険料引き上げは企業収益を圧迫し、きびしい国際競争のなかで競争力の低下を招く」と表明。保険料引き上げへの対応策として、経団連傘下の多数の企業が「労働形態の転換、人件費調整を検討している」と明らかにしました。

 リストラによる加入者減少は公的年金財政の土台を掘り崩し、さらに保険料引き上げ・リストラを招くという悪循環につながります。

 そのうえ、新規法人の二割が加入していません。

グラフ

グラフ
 低年金でも一律カット
「生存権」踏みにじる

 第二の問題は、保険料を上げるだけ上げ、一方で保険料収入を超えないよう給付を減らしていくことです。現役には負担増、高齢者には給付削減というダブル攻撃です。

 給付削減のため「マクロ経済スライド」という新しい仕組みが導入されます。

 物価の伸びより年金の伸びが小さくなれば、たとえ年金の金額が前年より多くなっていても、物価のほうが高くなっているので前年と同じように買うことはできません。年金でまかなう生活費が目減りしていくことになるのです。二〇二三年度までに現行水準に比べ一律15%カットします。

 公的年金は、物価や賃金の伸びた分も保障して給付することで実質価値を守り、社会保障としての役割を果たしてきました。法案は「マクロ経済スライド」導入でこの大切な役割を否定。「生存権の保障」「そのための政府の責任」を定めた憲法二五条の精神まで踏みにじり、低年金にも一律に15%給付削減を押しつけます。

 国民年金のみの受給者の年金は月額で平均四万六千七十三円(〇二年度)です。高齢者の基礎的生活費の半分にも満たない低額ですが、これも「マクロ経済スライド」で目減りを強いられます。政府見通しの物価予測をもとに試算すると、二〇二三年度の給付額は約四万六千八百円にしかなりません。二十年余たっても名目の金額でさえ七百円しか増えないのです。その間の物価上昇分を除いて現在価格に戻すと約三万九千円。出発点の四万六千円から15%の削減となります。(グラフ2)

 厚生年金も、政府はモデル世帯の給付を月額約二十三万円(四十年加入の夫と、その間専業主婦の妻)としていますが、これは一部の例です。

 厚生年金を受け取り始めた高齢者の平均受給額(〇二年度)は、男性で月十一万九千円、女性で十一万三千円となっています。十万円未満という受給者が男性で35・8%、女性で38・2%を占めています。こうした高齢者も15%削減の対象となるのです。(グラフ3)

 マクロ経済スライド 加入者数の減少(少子化の伸び)、寿命の伸び(受給者の高齢化)を年金財政のマイナス要因とし、厚生労働省は二つ合わせた影響率を平均0・9%と推計。毎年の物価や賃金の上昇率からこの0・9%を差し引いて、年金水準を低下させる仕組みです。


 庶民に増税ラッシュ
仕上げは消費税増税

 法案の第三の問題点は、財源対策を庶民増税に求めたことです。

 現行法では、基礎年金の国庫負担割合を、〇四年度からいまの三分の一を二分の一に引き上げ、保険料負担分を小さくすることにしています。ところが法案は、国庫負担二分の一の実施時期を五年後に先送りしたうえ、引き上げ財源を増税で確保することにしました。

 来年から増税ラッシュが待ち受けています。まず、年金への課税が〇五年一月から強化されます。〇五―〇六年度にかけては所得税の定率減税の縮小・廃止を計画しています。さらに自民、公明両党は、〇七年度をめどに「消費税を含む抜本的税制改革を実現」すると合意しています。

 年金への課税強化は、「マクロ経済スライド」による給付削減とダブルパンチで高齢者に収入減を押しつけるものです。国保(医療)、介護の保険料アップにもつながります。

 「調べて驚きました」――神戸市在住・元高校教師のAさん(74)は試算してびっくり。Aさんは年三百十九万円の年金で、国民年金の妻は年八十万円です。年金控除の縮小・廃止によって、所得税は五万六千円、住民税が二万八千九百円、国保料が十五万五千百円、合計二十四万円もの負担増となるのです。

 たびかさなる負担増で国民に悲鳴をあげさせ、消費税の増税で総仕上げをはかる。こんな計画を許すことはできません。

 

年金、医療、福祉財源を口実に…
政府・与党のねらう増税スケジュール
04年度年金生活者への増税(05年1月実施)

・公的年金等控除の見直し(最低保 障額の引き下げ)

・老年者控除の廃止
05−06年度所得税定率減税の段階的廃止
07年度「税制の抜本的な改革」(消費税率の引き上げ)



共産党の提案

最低保障年金制度を創設

最低5万円保障

 最低保障額が当面月五万円の「最低保障年金制度」に踏み出します。いま無年金の人は月五万円が保障されます。保険料を納めている人はその上に掛け金に応じた給付が上乗せされます。

 低い年金額の人がまだ多数いるので、憲法二五条にある「国民の生存権」が守られる年金制度にしていくことがいま必要です。

 月五万円の保障額は、安定的な財源を確保しながら引き上げていきます。

大企業に応分の負担

 最低保障年金制度の財源や、基礎年金への国庫負担を二分の一に引き上げるためのお金は、税金のムダ遣いをあらためることでつくります。いまの政府の予算には、大型公共事業や軍事費など、まだメスを入れるところがたくさんあります。

 さらに主に大企業に応分の負担を求めることで確保します。日本の企業負担はヨーロッパ諸国に比べ、きわめて低い水準です。

支え手を増やす

 いま年金財政がゆきづまっているのは、リストラや、フリーターなどの低賃金・不安定雇用の拡大で、厚生年金の加入者が激減し、保険料収入が伸びないためです。

 サービス残業の根絶などで雇用を増やし、若者に安定した仕事を保障する政治に転換し、年金の支え手を増やします。


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