2004年4月27日(火)「しんぶん赤旗」
東京大学の教職員有志が二十三日発表した緊急アピール「イラクで人質になった方々の活動に敬意を表し、これらの方々への非難・中傷を直ちに止めるよう訴えます」は全文つぎのとおりです。
イラクで人質となった方々が解放され国民が安堵しているさなかに、政府、一部マスコミの間で、これらの方々の「自己責任」を追及する意見が声高に叫ばれています。さらに、人質となった方々の過去の経歴なるものをあげつらって、いわれのない誹謗・中傷が行われています。五人の方々のイラク入りについては、その状況判断に問題がなかったか、議論がありうると思います。しかし、考えてみて下さい。巨大な情報収集能力を持つアメリカ政府でさえ、あのイラクで取り返しのつかない誤算を繰り返しているのではないでしょうか。今回の人質事件に関して、その背景的状況を抜きにして論点を「自己責任」にずらしてしまうのは問題のすりかえであり、矮小化であると、私たちは考えます。
そもそも、五人は戦禍のイラクの悲惨な実態を世界に伝えるために、また、戦争・貧困・環境破壊に苦しむ人々を支援するためにイラク入りしたのです。フランスのルモンド紙は、人質となった方々のことを「犠牲となっている人々に手を差しのべた」、「戦争、暴力、非寛容を拒否する思想の伝達者である」と報じました。
アメリカのパウエル国務長官も、「危険を知りながら、良い目的のためにイラクに入った市民がいることを日本人は誇りに思うべきだ。」「『危険をおかしてしまったあなたがたの過ちだ』などと言うべきではない」と語っています。
こうした海外の論調をみても、五人の方々は日本人の勇気ある人道精神を世界に知らしめた、誇るべき若者といえるのではないでしょうか。
また、人質となったある方は、「それでもイラクの人を嫌いになれない」と語っています。この言葉によって、またこの言葉に共鳴してくれるイラクの人々の力によって、むしろ何人もの日本人の(自衛隊員を含む)命が救われている可能性すらあるのです。
にもかかわらず、日本政府や一部マスコミは「五人は政府や関係機関に多大な迷惑をかけた」、「救ってやった」、「謝罪せよ」といわんばかりの態度です。こうした冷淡で非人道的な態度に私たちは唖然とし、背筋の寒ささえ覚えます。
このような観点から、私たちは日本政府、マスコミ関係者に、そして国民の皆様に次のことを訴えます。
1、人質となった五人の方々ならびにその家族の方々へのいわれのない非難・中傷を直ちに中止するよう求めます。
2、人質となった五人の方々は戦禍のイラクの悲惨な事態に心を痛め、ジャーナリストとして、また草の根のボランティアとしてイラクの人々に人道支援の手をさしのべようとした、日本が世界に誇るべき方々です。私たちはこれらの方々の勇気と情熱に敬意を表するとともに、政府・マスコミ関係者、そして多くの国民の皆様が五人の皆さんとそのご家族の方々にねぎらいと激励の言葉をかけて下さるよう呼びかけます。