日本共産党

2004年4月28日(水)「しんぶん赤旗」

英国 首相の中東、イラク政策批判

米国に変更を迫れ

52人の元外交官らが書簡


 【ロンドン=西尾正哉】イラクおよびイスラエル駐在の元英大使を含む英国の大使経験者や元高等弁務官ら五十二人の外交官が二十六日、ブレア首相に書簡を送り、同首相の対イラク・中東政策を批判するとともに、政策変更を米国に迫るか、そうでなければ米国支持をやめるように求めました。多数の英中東専門家らによるこのような書簡は先例がなく、ブレア政権の中東政策に厳しい批判が高まっていることを示すものとして注目されています。

 書簡は、ブレア首相が「米国と緊密に協力しながら進めてきた」パレスチナ問題での「ロードマップ(行程表)は希望を抱かせた」が、「交渉を前進させる、あるいは、暴力に歯止めをかけるために有効な手だては何もとられなかった」と批判。アリエル・シャロン(イスラエル首相)とブッシュ大統領によって表明された政策は一方的で不法なもので、さらに多くの犠牲をもたらすだろうと指摘しています。

 さらに、手紙は「われわれが驚いたこと」として、聖地エルサレムに「平和をもたらすため四十年近くも国際社会が努力してきた基礎となった原則」を廃止する政策を「ブレア首相自身が支持したことだ」と指摘しました。

 イラク問題について書簡は、英国は「不法で残忍な占領の仲間だと中東全域でみられている」と指摘。「中東地域の経験者はそろって、連合軍のイラク占領は深刻で頑強な抵抗に遭うことを予測していた」「テロリストや狂信者、外国人が抵抗を行っていると説明するのは説得力がなく、役にも立たない」と指摘しました。

 書簡は最後に、英政府が真の影響力を行使するために米国の同盟国として緊密に行動していくことに理解を示しつつ、「このような影響力がいま緊急に求められていると考える。これが受け入れられない、あるいは歓迎されないのなら、初めから失敗がわかっているような政策を支持する理由はない」と結んでいます。


不法で残忍なイラク占領中東での国際努力台無し

書簡全文

 中東やその他の地域で長年にわたって活動してきた元大使、元高等弁務官、元総督、元上級国際公務員であるわれわれ署名者は、あなたが米国と緊密に協力しながら進めてきたアラブ・イスラエル問題やイラク政策を、高まる懸念を抱きながら注視してきた。あなたとブッシュ大統領がその政策を再開させる契機となったワシントンでの記者会見を受け、いまこそわれわれの憂慮を公表するときだと考える。われわれの憂慮が議会で取り上げられ、本質的な再検討が行われることを願っている。

中東

 イスラエル・パレスチナ紛争の解決を目指す「ロードマップ」に着手するという米国、欧州連合(EU)、ロシア、国連の決定は、ようやく主要国が西側諸国とイスラム・アラブ世界との関係を何十年も害してきたこの問題を解決するために断固とした集団的な努力を開始したという希望を抱かせた。この問題解決の基礎となる法的・政治的原則はすでに確立されている。クリントン(米)前大統領が任期中にこの問題に取り組んだとき、解決に必要な要素は深く理解され、そのいくつかに関する非公式協定が調印された。しかし、この希望に正当な根拠などなかった。交渉を前進させる、あるいは暴力に歯止めをかけるために有効な手だては何も取られなかった。英国などロードマップの提案国は米国の指揮を待ち続けているだけで、それは徒労に終わっている。

 さらに悪いことが起こった。何カ月も無駄に費やした後、国際社会はアリエル・シャロンとブッシュ大統領が表明した新たな政策に直面している。この政策は不公平で違法なものであり、さらなるイスラエル人、パレスチナ人の血が流れることになるであろう。この後退にたいするわれわれの落胆は深まっている。あなた自身がその後退を支持し、聖地に平和を回復させるために四十年近くも国際的な努力を導いた原則、このような努力がもたらした成果の基礎となってきた原則を放棄したという事実があるからだ。

 この原則の放棄は、善かれあしかれわれわれが不法で残忍なイラク占領の仲間だとアラブ・イスラム世界全体から見られているときに行われた。

イラク

 イラク戦争は、サダム後の解決について効果的な計画がなかったことをはっきりとさせた。この地域の経験者はそろって、連合軍のイラク占領は深刻で頑強な抵抗に遭うことを予測していたが、それが正しかったことが示された。テロリストや狂信者、外国人が抵抗を行っていると説明するのは、説得力がなく、役にも立たない。イラク政策は、この地域で最も複雑なイラクの特質と歴史を考慮しなければならない。どんなに多くのイラク人が民主的な社会を切望していても、連合国がそれをもたらしてくれると考えるのは甘い。これは、英米両国の民間の中東専門家のほとんど全員の見方である。あなたと大統領がラクダル・ブラヒミ氏(国連事務総長特別顧問)がまとめた提案を受け入れたと言及できてうれしい。われわれはブラヒミ氏の要請に進んで応じ、国連に権限を与え、いま占領に強く抵抗しているイラク人も含めてイラク人と協力して混乱を収拾していかねばならない。

 連合軍の軍事行動は政治的目標とイラクの現場に導かれるべきで、これから離れた基準ではだめだ。武力行使は現場の指揮に属する問題だという説明は受け入れられない。進行中の任務とは釣り合わない重火器、挑発的な言葉遣い、ナジャフとファルージャでの対立。このすべてが抵抗者を孤立させるのではなく、むしろ増やしている。連合軍に殺されたイラク人はおよそ一万―一万五千人に上り(連合軍自身が数えていないというのは不名誉なことだ)、ファルージャだけでこの一カ月間に殺されたのは数百人の男女、子どもだった。「すべての失われた命を悲しむ。その命に敬意を表し、遺族の勇気と犠牲を称賛する」といった言いまわしは連合軍の犠牲者だけに向けられたものらしいが、このような殺害をあおり立てる激情を抑えるものではない。

 われわれは、英国政府がこの二つの問題で米国と可能な限り緊密に協力していくこと、また誠実な同盟国として影響力を及ぼしていくことに関心を払うというあなたの考えに賛成する。われわれは、このような影響力がいま緊急に求められていると考える。これが受け入れられない、あるいは歓迎されないのなら、初めから失敗がわかっているような政策を支持する理由はない。


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