2004年4月29日(木)「しんぶん赤旗」
公的年金の信頼を掘り崩しながら、国民の暮らし、生涯設計の破壊に痛みさえ感じない――。二十八日の衆院厚生労働委員会で自民、公明両党が行った年金改悪法案の強行採決は、国民のあいだに広がる年金への不安、疑問、怒りを顧みず、国民的な議論を封じ込める暴挙です。
衆院厚労委員会で法案審議が始まったのは、七日でした。以後、参考人質疑を含めて、強行採決した二十八日までに八回の委員会が開かれましたが、審議時間は約三十時間です。与野党がそろって出席し、終日、法案審議をしたのはわずか二日間にすぎません。
これまでの年金法案審議では、国民の意見を広く聞くことを目的に公聴会が開かれてきました。しかし与党側はそれさえ開こうとしませんでした。まともな審議をしていないのが実態です。
法案提出者の坂口力厚労相自身、「将来の年金制度について、本格的な論議が十分に行われたとはいいがたい」(二十七日の記者会見)と認めました。河野洋平衆院議長も「年金問題が俎上(そじょう)に載ってから、相当時間、審議されているが、本質的な議論でない部分で時間がかかったことを懸念している」(二十八日の東京都内での講演)と審議の不十分さを指摘せざるをえません。
審議の不十分さをわかっていながら、国民の声を無視して強行採決に走った政府・与党の責任は重大です。
法案の中身からも、安易に採決できるものではありません。今回の政府案は、五年ごとに保険料や給付水準などを変えてきた過去の年金改悪とは、比べものにならない歴史的な大改悪だからです。
短い審議を通じても三つの大問題が浮き彫りになりました。まず、国会の審議なしで、自動的に厚生年金保険料を十四年連続、国民年金保険料は十三年連続で引き上げられます。これでは国民生活を圧迫し、年金制度の空洞化にさらに拍車をかけることになってしまいます。
参考人質疑では「政府案では、企業が厳しいリストラを強行せざるをえなくなり、手取り所得は伸び悩み、消費支出も低迷し経済成長が阻害される」(高山憲之・一橋大経済研究所教授)と空洞化が日本経済にも打撃を与える懸念が出されました。
さらに政府案は、月額二―三万円の低年金者も含めて給付水準を一律15%カット。憲法で保障された生存権を侵害することになります。そして「年金財源」として庶民増税と消費税増税に道を開くことにもなるのです。
「朝日」の世論調査(二十日付)では小泉内閣の「年金改革」について「評価しない」と答えた人が「評価する」の三倍の67%にのぼりました。
法案審議のただなかに発覚した閣僚の国民年金保険料の未納問題は、年金制度に対する国民への信頼をいっそう失わせ、小泉内閣に法案提出の資格さえないことを浮かび上がらせました。
未納閣僚は、福田康夫官房長官ら新たに四人が加わって七人となり、内閣全体に広がる様相を見せています。
これだけの問題点が浮上した以上、徹底審議は不可欠です。
政府・与党が強行採決に打って出たのは、審議を通じて政府案の問題点や欠陥が国民に知られることで、世論の反発が噴き出ることを恐れているからにほかなりません。年金改悪法案は廃案にすべきです。(高柳幸雄記者)