2004年4月30日(金)「しんぶん赤旗」
イラクで人質になったボランティアやジャーナリストにたいし、政府・与党、一部マスコミなどから流される異常な「自己責任」論。この問題をどう考えるか、日本国際ボランティアセンター(JVC)代表の熊岡路矢さんに聞きました。 聞き手 渡辺浩己記者
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NGO(非政府組織)は、戦争や紛争で傷ついた子どもや、壊された生活を元に戻そうと努力している人々を支えたいと、自発的に集まってきた人たちです。
自己完結型の軍隊組織でないゆえに、地元の人と溶け込み、さまざまなニーズにこたえることができます。
国連人道援助事務所のガイドラインでも、軍事組織は直接的な人道支援をすべきではないという基準を設け、紛争地域で中立的な立場で人道支援をおこなうのは国連NGOと確認しています。活動の原則は公平性と中立性にあり、国連だけでなく世界各国もNGOの役割を認めています。
ですから、危険情報が出て、政府機関が行くことは難しい紛争地域であっても、一般的にはジャーナリストやNGOが出ていくことはあります。
もちろん、紛争地などにおけるボランティア活動において自己責任があるのは当然です。危険回避も必要ですし、私たちも事故、ケガ、病気などすべてのことで責任を負っています。安全管理において今回の事件を教訓にすることも必要です。
しかし、イラクでの拘束事件後に広がった「自己責任」論を考える場合、まずイラクが置かれている情勢の変化を考えてほしい。
イラクは政府が自衛隊派遣を決めた「イラク特措法」成立時点とも大きく様変わりしています。米英軍などによるバグダッド占領からすでに一年。戦闘状態はおさまるどころか、予想を超えてさらに激しくなっています。ファルージャなどでは米軍が一般市民を殺しているという報道もあります。
(1)治安・安全(2)水道・電気・通信などのライフライン(3)雇用・経済問題―どの問題をとってもCPA=占領軍行政はその責務を満たせていません。
今回の拘束事件はそういう環境の激変の中で起きたもので、個人の“注意”“責任”を超えた事件だと私は考えています。
多額の救出費用まで個人に負担を求める論調がありますが、これも違います。個人主義にもとづく自己責任と政府の義務である邦人の救出を混同してはいけません。二つは違う議論です。
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欧米では個人主義とキリスト教精神にもとづいたボランティア活動が活発です。しかし、今回の日本政府の対応を見ていると、“官の決めた枠の中で動きなさい”という本音が出てきた感じがします。
その一方で、外務省はフランスのNGO・アクテッドの要請にもとづいて陸上自衛隊が駐留するサマワでの給水活動にたいし、三千九百万円の無償資金協力を決めました。自己完結型の組織しかイラクには行けないといいながら、外務省は日本のNGOを含めて資金を提供する。論理的には矛盾を感じますね。
それにアクテッドはこれまで六千四百万円くらいで六万人に給水してきた。一方、自衛隊は三百七十七億円で、給水対象は一万六千人です。費用対効果の点でNGOの活動と大きく違っています。
「自己責任」論議以上にもっと大事なのは、日本政府がイラクの治安の劇的な悪化や、スペイン軍撤退で変化する国際社会を冷静にみすえ、イラク政策を根本的に見直すことではないでしょうか。
JVC(日本国際ボランティアセンター) カンボジア難民に携わったボランティアによって1980年に結成された。現在、アジア、アフリカなど10カ国で活動中。昨年12月、自衛隊イラク派遣反対の緊急アピールを発表。