2004年5月1日(土)「しんぶん赤旗」
【カイロ=小泉大介】イラク中部ファルージャにたいし大規模爆撃を再開していた米軍の海兵隊現地司令官は二十九日、ファルージャからの撤退で地元住民代表と合意したと発表しました。ロイター通信は三十日、米軍の一部撤退開始を報じました。撤退後は、新たに編成されるイラク人治安組織が同地を管理することになるとしています。
カタールの衛星テレビ・アルジャジーラは二十九日、地元住民代表の話として、米軍は三十六時間以内にファルージャ南部から撤退し、五月二日以降、北部からも撤退する見込みだと伝えました。
海兵隊司令官によると、米軍撤退後には元イラク兵や警察官ら千百人規模で組織される「ファルージャ防衛隊」が管理・治安維持にあたり、司令官には旧フセイン政権の軍幹部を起用するとみられます。ただし、海兵隊は撤退後もファルージャ周辺にとどまり、「防衛隊」の指揮権も握るとしており、撤退がどこまで実質的なものとなるかは予断を許しません。
一方、現地からの報道によると、米軍は二十九日、撤退表明の数時間後にファルージャのジョラン地区など三地区にたいし、F16、F18戦闘機も動員して空爆を実施、五百ポンド爆弾など少なくとも六発を投下し、建物を破壊しました。
イラク中部ファルージャを包囲し、大規模空爆をしてきた米海兵隊が二十九日に一部撤退を開始しました。直前までは、司令官自身が全面的作戦を行うと言っていたのが、なぜ変わったのか。その背景に攻撃再開にたいする強まる内外の厳しい非難があったことが指摘されています。
国連のアナン事務総長が二十八日、「軍事行動は事態を悪化させる」だけであり、「イラク人の抵抗はますます強まる」と警告しました。こうした非難は、ファルージャ住民はもとより、イラク国民の間からもわきあがりました。
米占領当局が任命したイラク統治評議会議長団の一員でもあるモハセン・アブドルハミード氏(イラク・イスラム党首)は二十八日、「米軍は即時攻撃を中止しファルージャから撤退することを要求する。さもなければわれわれが統治評議会から撤退する」と表明しました。
日本人人質事件で人質解放に尽力したイラク・イスラム聖職者協会のハーリス・ダーリ会長は二十九日、カイロで記者会見し、「米軍の姿勢でファルージャの停戦は失敗した。占領軍は全面的攻撃の準備のために(停戦交渉の)引き延ばしをはかっていたとしか思えない」と米軍を厳しく批判しました。
イラク情勢打開の頼みの綱である六月末の「主権移譲」に重大な影響を与えかねないと米軍側がそう判断した可能性もあります。
撤退開始の直前にも、戦闘機による大規模な空爆作戦を実施するなど今回の撤退が今後のファルージャ攻撃の停止につながる保障はありません。
撤退というより移動あるいは再配置と言う方がふさわしいでしょう。
今回、米軍は、撤退のかわりにイラク治安組織を展開させるとしていますが、同組織がどこまで効果的な働きができるかは未知数です。住民大虐殺時には、米軍がイラク人治安部隊にたいし戦闘参加を命令しましたが、「どうしてイラク人がイラク人とたたかえるというのか」と、多くの部隊がこれを拒否し、米軍に拘束される事態も発生しました。今後、イラク部隊による治安改善失敗を理由に、米軍が再び全面攻撃に乗り出す可能性も否定できません。(カイロ=小泉大介)