2004年5月9日(日)「しんぶん赤旗」
「一部のもののしわざにすぎない」。米軍が拘束したイラク人に対して行った非人間的な虐待、拷問、性的陵辱と侮辱、そして殺害の行為について、ブッシュ大統領をはじめとする米政府当局者は、「不快」といいつつも、責任の範囲を最小限におしとどめようとしています。
しかし、おぞましい犯罪行為は、米軍内部の少数の不心得者のしわざであるにとどまらず、実際には組織的に行われていることが、その後の証言や報告で明白です。
蛮行にかかわった兵士自身が、軍情報部や米中央情報局(CIA)の上官の指揮に従ったと語っています。イラク人の被害者は、蛮行がアブグレイブ収容所だけでなく、イラク各地にある他の収容施設でも行われていたことを明らかにしています。
さらに赤十字国際委員会は、英軍の兵士らも同様なイラク人虐待を行っていたことも指摘。「虐待は(連合軍によって)認められた行為だった」可能性があると指摘しています。問われるべきは米軍自身、これに手を貸す「連合」軍の責任です。
いまわしい犯罪行為の被害者のほとんどは、戦闘でとらえられた捕虜ではありません。多くは、米軍が夜中に住民の家をおそって拉致したり、市内で拘束した普通の市民です。そのことは米軍がつくった内部報告書も指摘しています。
仮に捕虜であれば、彼らにたいする虐待行為はジュネーブ条約に反する行為です。しかし、アブグレイブなどで米軍が今行っているのは、世界人権宣言をじゅうりんし、人間の尊厳そのものを破壊する、人道に反する犯罪そのものです。
犯罪行為に対する米国政府や米軍自身の責任は厳しく問われなければなりません。さらに、この犯罪行為についての調査と裁きは、問題の重大性からして、何らかの国際的な手のもとで行われるべきです。
現在明らかにされつつあるのは、米軍内部の犯罪や規律違反などではなく、国際的性格をおびた犯罪です。裁かれるべきは、当事者はもちろん、米軍と英軍自身、そしてブッシュ政権、ブレア政権そのものです。
イラク戦争そのものが国際法も国連憲章もふみにじった無法な侵略戦争です。拘束されたイラク人に対する米英軍の蛮行は、そのイラク侵略戦争と、それに続く占領の本質と実態、犯罪性をさらに新たな事実をもって明らかにしたものといえるでしょう。
赤十字国際委員会の指摘を待つまでもなく、政治的にいえば、この蛮行の責任は、たんに米英軍だけではなく、この戦争に協力加担してきた「連合」国についても厳しく問われるべきでしょう。
想起されるのは、戦争に協力し派兵した旧政権を選挙で破って登場したスペインのサパテロ政権が、ただちにイラクからの撤兵を宣言し、部隊を引き揚げたことです。サパテロ首相はいいました。「イラク戦争は間違っている。間違いを正す方法はただちにイラクから去ることだ」。スペイン政府の決断の正しさが、改めて明らかにされたといえます。戦争と占領に協力する政府はそのことを考えてみるべきです。
三浦一夫記者
小泉政権、公明党 人ごとではすまない 米軍による拘束イラク人への拷問・虐待事件について、小泉純一郎首相は七日の衆院厚生労働委員会で「極めて遺憾だ。米国政府としても真剣に受け止めていると思う」とのべたものの、日露戦争を例にあげ捕虜の処遇一般を問題にしただけでした。公明党は機関紙・公明新聞で、訪米した冬柴鉄三幹事長らがラムズフェルド米国防長官らと会談した記事は一面で大きく報じました(一日付)が、虐待問題は米大統領の発言を二面で小さく(五日付で一段、七日付で二段)掲載しただけでした。 しかし、これらの事件は、小泉政権と与党にとって人ごとですまされる問題ではありません。 「イラク解放」口実崩れ去る大量破壊兵器の未発見につづき、「イラクの解放」というイラク戦争の口実が完全に崩れ去ったからです。米英が国連憲章を無視して、イラクへの先制攻撃を開始した際、真っ先に支持を表明した小泉純一郎首相は、「ブッシュ大統領は、これはイラク国民に対する攻撃ではない、イラク国民に自由を与え、豊かな生活を築き上げる作戦だといっている。私もそう思う」とおうむ返しにのべていました。 公明党も、「米・英両国は軍事行動後について、安保理決議を求めてイラクの復興と平和の回復に努めることを表明している」(冬柴鉄三幹事長、二〇〇三年三月二十日夜の衆院本会議)としていました。 しかし、「復興と平和の回復」どころか、ファルージャでの虐殺にみられるように、「イラク国民に対する攻撃」を続けています。おぞましい拷問・虐待の数々は、「イラク国民に自由を与える」という口実のでたらめさを白日のもとにさらしました。大量破壊兵器の保有問題のうえに、「イラク解放」という“大義”も崩壊したいま、首相や公明党はみずからの責任を明確にすべきです。 自衛隊派兵の枠組み破たんもう一つは、ファルージャの惨劇や拷問・虐待事件が、すでに破たんしている自衛隊派兵の枠組みをいよいよ成り立たなくさせていることです。 首相や公明党は、自衛隊派兵について「戦争にいくのではない」「人道復興支援だ」とことあるごとに強調してきました。しかし、アラブ世界では、自衛隊がイラクで果たしている役割は「米国の占領の基礎固め」であり、「アメリカを助け、イラク国民に対して同じ犯罪を繰り返している」(アラブ首長国連邦紙「アルバヤン」)とみられてきました。 そのうえ、米英主導の軍事占領が破たんに陥り、米軍対イラク国民という構図が鮮明となる新しい局面に入ってきているなか、自衛隊派兵の根拠も総崩れしています。サマワでは、迫撃砲によるオランダ軍や自衛隊宿営地への攻撃、占領当局事務所への爆破攻撃などが相次いでおり、自衛隊はほとんど陣地に立てこもる状況です。この状況自体が「派遣は非戦闘地域に限る」とした政府の説明が成り立たなくなっていることの証明です。 このまま放置すれば、「米軍対イラク国民」にとどまらず、「自衛隊対イラク国民」という構図にもなりかねません。 藤田健記者 |