2004年5月20日(木)「しんぶん赤旗」
【ワシントン=遠藤誠二】イラク人虐待・拷問をめぐる軍法会議で被告のほとんどは、証拠写真が多数公開されているため自身が暴行に加わったことは否定できません。しかし彼らは、軍情報部による指示に従ったまでだと主張しており、虐待の事実解明とともに、米軍・情報組織そのものの関与が焦点となります。
起訴された七人は同様に、「収容所では命令に従い、それが法に反すると知らなかった」(グレーナー技術兵の弁護士)「(虐待を行えば)よくやったと(上官から)いわれた」「(虐待写真に写れと)高いレベルの人から指示された」(イングランド上等兵)として、彼らだけ責任を問われるのは「いけにえ」だと抗議しています。
一方、ブッシュ政権指導部は、「一部兵士による憎むべき行為」(ブッシュ大統領)と現場の兵士による独断で虐待が行われたと言明。七日に開かれた上院軍事委員会の公聴会で、ラムズフェルド国防長官は、「少数の米兵がひどい行為をしたが、そのほかに名誉と責任ある行動をとっている米兵がいることも知ってもらいたい」と述べ、あくまで一部の兵士の行動だと主張しました。
しかし、これまでの議会公聴会での関係者証言や米マスコミによる一連の報道をみれば、「一部兵士の行為」とはみてとれません。アブグレイブ収容所での虐待を調査した駐留米軍のタグバ陸軍少将は十一日、上院軍事委員会公聴会で証言し、同収容所の責任者だったカーピンスキー准将(停職処分)を含め、「憲兵旅団司令官から下部にいたるまで規律、訓練の欠如、管理不行き届きがあった」と述べるとともに、情報部がかかわったかどうか別の調査が必要と軍上層部に勧告したことを明らかにしました。
十二日付ワシントン・ポスト紙は、国際テロ組織アルカイダ・メンバーなどを収容しているキューバ・グアンタナモ海軍基地刑務所長を務めたミラー少将が収容所の監督権限を情報部に移せ、と命じていたと、カーピンスキー准将自身が、事情聴取のなかでのべていたことを報道。より衝撃的なのは、十七日に発売された米誌『ニューヨーカー』の記事です。一連の収容者の虐待・拷問は、ラムズフェルド国防長官が承認する国防総省の極秘計画が存在した結果、起きた事件だと報じました。
虐待問題についての国際機関や非政府組織の報告も、米軍による組織的な関与を裏付けています。十日明らかになった赤十字国際委員会の報告は、アブグレイブ以外の十以上の収容所で虐待があったと指摘しています。国際人権擁護団体、アムネスティ・インターナショナルは昨年六月に、イラクにおける米軍の虐待を告発していました。十六日、米FOXテレビのインタビュー番組でパウエル国務長官は、アブグレイブ収容所に関する国際赤十字からの指摘を受けて、昨年秋には政権内で対策について協議したことを明らかにしました。
十九日からの軍法会議は、基本的に報道陣に公開されます。軍法会議はいわば身内の裁判目的のために人権侵害も犯す米軍の体質を告発するには限界があることも確かです。