2004年6月6日(日)「しんぶん赤旗」
日本共産党の小池晃政策委員長が五日の参院本会議で行った年金改悪法案に対する反対討論(大要)は次の通りです。
日本共産党を代表して「国民年金法等の一部改正案」にたいし反対の討論を行います。
反対理由の第一は、年金保険料を上限なく引き上げることで年金制度の空洞化をさらにひどくすることです。政府・与党が「百年安心」だと宣伝した根拠の一つが「保険料の上限を決めた。それ以上引き上げないから安心だ」というものでしたが、この説明は偽りのものでした。
政府は衆院の審議では「国民年金の保険料は二〇一七年度以降一万六千九百円で固定する」と説明していましたが、参院本会議の質疑で坂口力厚労相は初めて「実際の金額は賃金上昇に応じて二〇一七年度二万八百六十円、二七年度二万五千六百八十円、三七年度三万一千六百十円」―と保険料を際限なく引き上げることを明らかにしました。
厚生年金の保険料率の上限についても政府の試算の前提が崩れれば18・3%以上に引き上げる可能性があることも認めました。保険料の際限のない引き上げは空洞化をいっそう加速します。国民のくらしと日本の経済に深刻な打撃を与えて年金財政の破たんをもたらす悪循環となることは明白ではありませんか。
第二は、年金の給付を削減し高齢者の生存権を乱暴に破壊することです。政府・与党が「百年安心」と宣伝したもう一つが「給付は現役世代の収入の五割を保障する」というものでした。しかしこれも偽りでした。
「サラリーマンと専業主婦のモデル世帯」でも五割を保障されるのは年金を受け取り始める時だけで、受給開始後には年金を受給するすべての世代で五割を下回ることが参院の審議で初めて明らかになりました。共働き世帯では受給開始二十年後に31・7%、男性単身世帯では29%にまで下がります。「百年安心」のたった二つのうたい文句であった「保険料の上限固定」も「五割保障」も崩れた以上、廃案にして出直すことはあまりにも当然ではありませんか。
重大なのは、今でも低い国民年金・障害年金なども一律に引き下げることです。現在、国民年金の満額受給は月額六万六千円。これが十五年後には現在価格で五万八千円にまで引き下げられます。基礎的消費支出すらまかなえない水準でどうやってくらしていけるでしょうか。なぜこれが「百年安心」などといえるのでしょうか。
小泉首相はわが党の質問に「公的年金だけでは生活できる人は一部だけ」「年金以外に蓄えもある」と開き直りました。しかし総務省の家計調査では、高齢者無職世帯の預貯金は二〇〇一年には毎月三万三千円、二〇〇二年には四万一千円も減り続けています。そもそも取り崩す貯蓄のない世帯が二割を超えている。首相の答弁は高齢者のおかれた深刻な実態を無視し、憲法二五条にある「国民の生存権」を保障する政府の責任を放棄した暴論であり、断じて許すわけにはいきません。
第三は、政府の財政計算の前提にまったく根拠がなく、実施前から破たんが明らかであることです。年金財政の基本である加入者の数の根拠についてすら、説明がされていません。たとえば、厚生年金加入者数は二〇〇〇年から二年間で百万人以上も減っているにもかかわらず、本法案の計算では突然上昇しはじめ、二〇〇五年に三千百八十万人と、直近の二〇〇二年の実績を十万人上回る見通しです。厚生年金加入者数が増加に転じる根拠を示せという委員会での質問に対して、政府からの説明は最後までありませんでした。
また保険料引き上げを見込んだ企業のリストラ、派遣・請負への置き換えが早くも行われようとしているにもかかわらず、政府は今回の保険料の引き上げは雇用に一切影響を与えないとしていますが、まったく説得力を欠くものであります。
さらに国民年金の納付率が急速な低下を続けているにもかかわらず、今回の法案では現在六割の納付率が二〇〇七年には八割に上がることを前提としています。今回の改悪で年金への不信がいっそう広がることは明らかなのに、このような根拠のない数字を前提としているのですから、成立前からすでに破たんは必至といわざるを得ません。
第四は、基礎年金への国庫負担の引き上げを先送りしたことです。公明党は「法案が廃案になると四兆七千億円の穴があく」としきりに宣伝していますが、法案が成立しても三兆八千億円の赤字であります。結局、廃案の影響は九千億円。廃案になった場合、年金財政に四兆七千億円の穴があくというのは真っ赤なウソであり国民を脅すものです。ウソにウソを重ねることは許されません。
「年金財政に穴があく」ことを本当に心配するなら、ほかにやることがあるはずです。本法案は基礎年金への国庫負担の二分の一への引き上げを六年後まで先送りしており、これを先送りしなければ、廃案にした場合の九千億円の財政悪化分など直ちに解消できます。国民年金法の付則に明記された国庫負担引き上げをやらずに、「年金財政が悪化するから法案強行」などと国民に負担を押しつけることは、もってのほかであります。
第五は、巨額の積立金運用によるムダ遣いをこれまで通り続けることです。厚生年金の積立金は二〇〇五年で百六十四兆円に達します。年金給付費など支出総額の五・二年分にのぼり、諸外国に比べて異常に高い水準です。
巨額の積立金が全国十三カ所のグリーンピアなどの無駄遣いに使われ、政治家の利権や高級官僚の天下り先を生み出してきました。国民の保険料四千億円を投じたグリーンピア事業が破たんし、二束三文で売却されようとしていますが、官僚も政治家もだれ一人責任をとっていません。
グリーンピアをはじめ年金給付以外に流用された保険料は総額で五兆六千億円に及びます。しかし九八年からは「財政構造改革特別措置法」に基づき、それまで国の一般会計から支出されていた事務費まで、年金保険料から支払う仕組みがつくられました。そして九七年にこの法律を成立させた時の厚相がほかならぬ小泉純一郎現総理大臣です。ところがその責任について、いまだに口をぬぐったままです。
事務費への流用は昨年まで六年間の時限措置でしたが、今年度も特例法により延長し、社会保険庁長官の交際費や職員宿舎の建設、公用車の購入などに七年間で六千億円以上の保険料が使われました。坂口厚労相は年金資金の無駄遣いについて「第三者機関で過去の問題を検証する」と答弁しましたが、いまだにその具体的内容は明らかになっていません。
そのうえ積立金の株式運用で二〇〇二年度には三兆六百八億円もの赤字が生まれています。しかも二〇〇八年には年金積立金の全額が自主運用となり、国民の貴重な財産がいっそう危険にさらされます。株式などリスクマネーに年金積立金を運用することや目的外使用はやめ、巨額の積立金を計画的に取り崩して給付の維持にあてるべきです。
本法案は年金制度、老後の生活の土台を壊すものであり、また「百年安心」どころか数年もたたないうちに破たんすることは、あまりにも明らかではありませんか。
日本共産党は先日、「『最低保障年金制度』を実現し、いまも将来も安心できる年金制度をつくる」という改革案を発表しました。中心点は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」があるとした憲法二五条の「生存権」を保障する見地に立って、老後の生活を支えるために全額国の負担でまかなう「最低保障年金制度」を実現させることです。
第一歩として最低保障額を月額五万円とし、その上に支払った保険料に応じて一定額を上乗せし低額年金を底上げする制度をスタートさせます。これにより低額年金や無年金問題、年金制度全体の空洞化、サラリーマン世帯の専業主婦の「第三号被保険者問題」など今日の年金制度が抱えるさまざまな矛盾を根本的に解決する道が開けます。
「改革」というのであれば、国の責任で無年金者や低額年金者の底上げを図ることこそ本当の改革です。およそ「改革」の名に値しない年金大改悪法案はきっぱり廃案にすべきです。
いま世論調査でも、法案への賛否の違いを超えて、国民の六割、七割が「今国会での成立を見送るべきだ」と答えています。この理由は何よりも政府の二枚看板に偽りがあったことが参院段階で明らかになってきたことです。当初の説明が違っていた以上、初めから出直してやり直せという、当たり前の声ではありませんか。
そして国民の怒りの火に油を注いだのが、公的年金を決める責任がある国会議員のなかに、年金未加入・未納問題があったことです。しかも自民党はいまだに党として調査・発表していません。こうした中で保険料の引き上げ、給付のカットを押しつけることなど許されるはずがありません。
そもそも公的年金は、老後の生活を保障するため、長期にわたって国と国民が結ぶ約束にほかなりません。だからこそ、道理を尽くした国会での審議と、政府への国民の信頼が必要なのです。
ところが中央公聴会も行わず、衆参両委員会で強行採決を繰り返し、あまつさえ私も含めて議員の質問権をはく奪した今回の国会審議の経過と政府・与党の姿勢は、こうした土台を粉々に打ち壊すものでした。たとえ今回の年金法案に賛成であろうと、およそ民主主義というものを理解しているのであれば、こんな暴挙を断じて許してはいけないはずであります。
そして、このようなやり方では、どんな中身であっても、国民の信頼する年金制度など、絶対につくることができないということを、与党は知るべきであります。本院が「良識の府」としてこうしたルール破りを改め、本法案をキッパリ廃案にすべきであることを申しあげて反対討論を終わります。