2004年6月9日(水)「しんぶん赤旗」
卒業式の「君が代」斉唱で生徒が起立しなかったことを理由に多数の教師を「厳重注意」などにした東京都教育委員会。八日の都議会では起立しなかった処分教員に「長期研修」を検討することさえ表明しました。都立板橋高校の卒業式で壇上から大声で生徒に起立をせまり、教員処分を主張したのが右翼的言動で知られる民主党の土屋敬之都議でした。一連の動きに「生徒の内心の自由まで踏みにじるものだ」と怒りの声が広がっています。高間史人記者
三月十一日におこなわれた板橋高校の卒業式。式が始まり一同が起立して礼をしたのち、司会が「国歌斉唱」と告げると多くの生徒たちが座りました。保護者も何人かが座りました。校長や教頭が「みなさん、立ちましょう」「君たちのために演奏してるんだから」と生徒たちを「指導」。そして、来賓席にいた土屋都議が怒鳴りつけるように叫びました。
「立ちなさい…立ちなさい」
長男を持つ母親、Aさんは驚きました。
「怒鳴ったのが誰かそのときはわかりませんでした。子どもたちが三年間がんばってきたと確かめ合い、お世話になった先生方に感謝しようという卒業式で、来賓が怒鳴るなんて信じられません。なんて失礼なんだろう、こんな人に来てほしくないと思いました」
生徒の中から「いいから始めようぜ」と声が出ました。
その後、式は進行し、クライマックスは卒業生二百七十人による合唱。「旅立ちの日に」という曲です。「卒業式の主役は自分たち自身だから、純粋に感動できる場面がほしい」と、有志が全クラスに呼びかけて練習してきたのです。視覚障害の生徒がピアノを伴奏しました。「いま別れのとき、飛び立とう未来信じて」―。みごとなハーモニーに保護者も教職員も涙ぐみました。Aさんはほかの母親と「すてきな卒業式だったね」と言葉を交わしました。
ところが卒業式から五日後、三月十六日の都議会で土屋都議が板橋高校を名指しして、「ほとんどの生徒が起立しなかった」「異常事態」と攻撃。それに答えた横山洋吉都教育長は「学習指導要領に基づく教育活動が正常におこなわれていない」などとして、起立しない生徒が多い場合は教師を処分の対象にすると明言したのです。
Aさんはいいます。「最初の『君が代』のとき以外、式全体はとても感動的だったんです。それをひどい式だったように議会で騒ぎ出して、せっかくの思い出をだいなしにされてしまいました」
板橋高校の卒業生として式に出ていたBさんはいいます。「私は『君が代』の歌詞が自分の考えと違ったから座ったんです。ほかの人たちも自分の意思で座ったといっていました。それなのに先生を処分するなんておかしい。私たちぐらいの年になれば自分の考えがあって当然。だれかにいわれたから座ったようにいうのは失礼です」
別の保護者はいいます。「教職員のいすは、壇上の『日の丸』の方に向けられ、後ろには番号が張ってありました。入ってきた先生たちが、僕は何番だとかいって座り、一番後ろに都教委の指導主事が座りました。教師を監視するための番号だと分かって、刑務所のようだと思いました」
都教委は「指導不足による生徒の不起立」などを理由に十三校・六十七人の教職員を厳重注意などにしました。板橋高校では九人が厳重注意・注意・指導となりました。
Aさんはいいます。「教育って何だろうって思ってしまいます。自分で考えて決める力をつけるのが教育じゃないですか。『君が代』についてもどうするか自分で考えて決めればいいはずです。それを強制して、教育委員会は立ったかどうかだけを問題にする。本当に異常です」