2004年6月13日(日)「しんぶん赤旗」
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小泉内閣の年金法の説明を「信用しない」が69%(テレビ朝日調査)――自民、公明両党が強行成立させた年金改悪法に国民の怒りが沸騰しています。十六日に会期末を迎える国会。政府・与党が売り文句にしていた「百年安心年金」は、崩れ去りました。日本共産党は、最終盤の強行成立の場面でどういう態度をとったのか、論戦でどんな役割を果たしたのか。担当記者があらためて話し合いました。
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A 与党の横暴はひどかった。衆院に続いて参院でも三日の厚労委員会で強行採決。日本共産党の小池晃、社民党の福島瑞穂、そして今期限りで引退する無所属の西川きよしの各議員の首相への質問権まではく奪した。与党が提案し、与野党で合意していた首相への質問まではく奪するというのは前代未聞の暴挙だった。
B 論戦でボロボロになり、強行せざるをえなかったんだ。参院厚労委の国井正幸委員長が「質問をしてからの方がよかったんだが」と告白していたように、なんの道理もないものだった。それは、議院運営委員会で日本共産党の井上哲士氏が質問権をはく奪できる理由を示せと追及したのに対して、与党側が「一般論としては説明がつかない」とのべざるをえなかったことにも示されている。
C 野党は委員会差し戻しを求めたが、倉田参院議長は「何ら瑕疵(かし)はないと聞いている」と本会議開催を決めた。野党は国井委員長の解任決議を出して、長時間演説や牛歩などの合法的なやり方で抵抗をしたが、問題はその後の倉田議長の不信任決議の扱いをめぐってだった。
A その本会議は五日午前四時二十分から始まった。議長不信任案だから議長に代わって副議長がこの案件を処理することになるのだが、民主党出身の本岡副議長は開会を宣言したと思ったら、案件を処理することなく、突然「これにて本日は散会します」と宣言してしまった。
B 「散会すれば今日は採決ができない。法案採決まで時間が稼げる」。民主党はそう考えたんだ。しかし、それには無理があった。「散会」宣言できるのは議事の処理が終わってからと参議院規則には書いてある。議長不信任案も年金改悪法案も終わっていなかったからだ。衆院委員部長も務めた民主党の平野貞夫議員も、このやり方について「国会の機能を停止させ、最重要案件の議事妨害をしただけだ」(「毎日」十一日付)と批判したほどだ。
A 副議長の「散会」宣言については、議長が「無効」を宣言した。これをめぐってその後、議運で協議が続けられたが、民主、社民は「散会」とする態度を変えず、午前七時半すぎから開かれた本会議から姿を消した。しかし、共産党は違った。堂々と出席して討論にのぞんだ。
C 共産党議員団は「散会宣言」について協議し、参院規則に照らして正しくないと判断した。正副議長に代わって事務総長のもとで仮議長を選ぶことから始めるべきだと考えたんだが、その通りに事務総長のもとで議事がすすめられることになった。
B 与党は「共産党も一緒だ」と見ていただけに驚いたようだった。野党というと、民主党が右代表でひとくくりに報じられることが多いからね。
A 与党は単独で採決してさっさと法案を通そうとしていただけに、共産党が出席して堂々と国民の声を代弁して討論した意味は大きい。一般紙の記者が「おたくも出てこなかったら、こんな討論もなかった。与党だけならいくらでもすっ飛ばせるから」といっていたのが印象的だった。
C 議長不信任案は民主党がいないため提案者はないまま採決にかけられ井上哲士議員がただ一人賛成討論に立ち、坂口厚労相の問責決議案は富樫練三議員が提案をおこない、はたの君枝議員がこれまたただ一人賛成討論にたった。
B 最後の年金改悪法案の討論では、小池晃議員が怒りに声を震わせながら暴挙を糾弾した。ヤジを飛ばしていた自民党席も静まり返っていた。いずれの討論も、与党が多数決で時間制限をかけてくるという妨害に屈しないでやった。与党百三十人にたいして、共産党は二十人。六分の一しかないが、見事に存在感を示していた。自民党議員は「小池さんは迫力があった。堂々としていたね」と語っていた。この本会議には西川きよし議員も出席し、法案に反対した。
A これに先だっておこなわれた国井厚労委員長の解任決議案に対する井上美代議員の賛成討論も評判だった。一時間四十五分にも及んだが、民主党議員は「長いのに内容にダブりがなかった。筋が通っていた」といっていた。
B 民主党の「散会」戦術に対して日本共産党がとった態度について、ある政治評論家は、「議会政治の基本をわきまえた見事な出処進退だった」「民主党と本岡副議長の行動について『参院規則から見て無理がある』との市田書記局長のコメントはあの時点での名セリフだった」と語っていた。議会ルールをわきまえない民主党と比べて「冷静沈着さが光っていた」し、自民、民主の国対関係者に聞いて回ったが「共産党の対応には負けた」とそれぞれ舌をまいていた、ともいっていた。
A 年金改悪法をめぐっては、その後出生率が過去最低の一・二九になることが分かった。政府が「改革」の前提にしていた根拠がまたまたくずれ、強行成立させたもののボロボロだ。
B この間の「年金論戦」では、日本共産党の追及がとりわけ光っていたことは衆目の一致するところだ。「保険料は上限固定」「給付は現役世代の収入の50%を確保」という政府の“二枚看板”の偽りを暴き、これが論戦をリードした。
C 突破口を開いたのが、五月十二日の参院本会議での小池晃政策委員長の質問だった。国民年金保険料が月一万六千九百円で「固定」されるどころか、賃金、物価の動きに合わせて上昇を続けることを明らかにした。小泉首相が認めた。
A 給付水準の「50%確保」についても、年金をもらい始める六十五歳の時点だけで、すべての世代にわたって50%を切ることを坂口厚労相に認めさせた。
B 小池質問は大きな反響を呼び、翌日の各紙はいっせいに「50%割れ」を取り上げた。マスコミの世論調査でも“今国会成立見送り”が軒なみ六―七割を占める状況になり、自民、公明の「百年安心年金」は完全に崩れてしまった。
A この“二枚看板”が偽りであることについて、政府が隠してきたことを認めさせたのも日本共産党だった。「こんな大事な問題をなぜ、衆院で説明しなかったのか」という小池氏の追及に、当初、小泉首相や坂口厚労相は“衆院でも議論した”とごまかそうとした。首相らの“痛いところ”を突いたというのが、よく分かった。
B 民主党は、法案の衆院通過を認める「三党合意」を結ぶなど、肝心なところで自民、公明の横暴を手助けした。「三党合意」にもとづく「修正案」では、「社会保障制度全般について、税、保険料等の負担と給付の在り方を含め、一体的な見直し」を行うとした。年金財源を含め“一体的見直し”で消費税増税を狙っている。
C 自民、公明は〇七年度を目途に「消費税を含む抜本的税制改革」を「税制改正大綱」でうたっているし、民主党の3%の「年金目的消費税」も〇七年度から実施するとしているからね。
B 最終盤の委員会審議で、日本共産党の池田幹幸参院議員が年金財源を理由にした消費税増税を批判したところ、民主党議員からヤジが飛んできた。坂口厚労相が答弁で消費税増税を容認すると「その通り」と同調するありさまだった。
C 消費税増税を競い合う構図は、法案の審議入りから成立後まで、まったく変わっていないわけだね。
A 年金改悪と、消費税増税問題は、参院選でも熱い争点になるのは間違いない。
B 日本共産党は、参院選後に年金改悪法廃止法案を提出することを発表した。国民的討論による年金改革、最低保障年金制度の実現を提案している。
C マスメディアは「特に共産党は政府案の欠陥を新たに引き出す成果を挙げたが、国民にどうアピールしたかは参院選の結果を待つしかない」(北國新聞六日付)と指摘している。
A 参院選ではどの党が伸びれば真の年金改革の力になるのか、しっかり見定めてほしい。