2004年6月13日(日)「しんぶん赤旗」
「わが国にふさわしい憲法をつくるラストチャンスが今度の参院選だ」(青木幹雄・自民党参院幹事長)。自民党は、目前に迫った参院選で改憲を正面から掲げ、一気に流れをつくろうとしています。世界に誇るべき日本国憲法を二十一世紀の国づくりに生かすのか、それとも「戦争をする国」に向けた改憲策動を許すのか―今度の参院選の一大争点です。
昨年の総選挙で、自民党が「憲法改正に向け大きく踏み出します」と公約し、民主党も「論憲から創憲へ」と改憲をうちだして以来、改憲に向けた競い合いが加速しています。
自民党は昨年十二月、憲法調査会憲法改正プロジェクトチームを設置。十日までに、改憲草案のたたき台となる要綱案づくりにむけて「論点整理」をまとめました。来年十一月に採択予定の新綱領素案にも「新憲法制定」を盛り込みました。
民主党は今年一月の党大会で「市民革命としての憲法改正」を打ち出し、国民に向けて「憲法制定運動」まで呼びかけました。二〇〇六年に党の憲法「改正」草案を取りまとめるため、今年中に基本となる「憲法提案」をまとめるとしています。
自民党は「今度の選挙くらい大事な選挙はない」「参院選やると三年間、国の政治は安定する。そのときに、わが国にふさわしい憲法をつくらなきゃいかん」(青木参院幹事長)と改憲を参院選の争点にしようとしています。
公明党は一月末、こうした自民・民主の競い合いに遅れまいと、神崎武法代表が秋の党大会に向け「タブーを設けず」「改憲論議を進める」と表明。これまで表向き保ってきた“九条堅持”の立場を捨て、九条を対象に含めた改憲論議に踏み込みました。
改憲に向けた手続きを整備する動きもすすんでいます。
自民・公明の与党協議会では、憲法「改正」国民投票法の早期実現を確認。両党は、次期通常国会への法案提出・成立を狙っています。同時に、憲法「改正」案の発議権を持つ常設の「憲法委員会」の設置のための国会法「改正」を計画しています。
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自民党は八日に発表した「参議院選挙公約」で、二〇〇五年までに党としての「憲法改正草案をまとめる」とあらためて公約。その中心的内容として「自衛隊の位置付けと国際貢献における役割、集団的自衛権などについて明確にします」としました。
改憲の狙いが九条の改悪にあり、「国際貢献」を“旗印”にして米国とともに海外で武力行使できるようにするためであることを明確にしたものです。
同党憲法調査会がまとめた「論点整理」でも、前文に「現行憲法9条の見直しを反映させ、『一国平和主義』の誤りを正す」と明記。九条については「戦力の保持を明記する」ほか、「集団的自衛権の行使に関する規定」や「国際協力(国際貢献)に関する規定」を盛り込むよう提起しています。また、「国の防衛及び非常事態における国民の協力義務の規定を設ける」として、国民に「国防の義務」を迫っています。
集団的自衛権は、アーミテージ米国務副長官らが「日米同盟が機能するうえでの障害」として、その行使を可能とするよう求めてきたもの。自民党の改憲方針は、米国の無法な戦争への参戦を可能とする「戦争をする国」づくりの方向を鮮明にしています。
民主党は、十一日に発表した参院選公約(各論)で、「憲法の条文を『守る』ことに汲々(きゅうきゅう)として、その形骸(けいがい)化・空洞化を放置する立場はとりません」として、「創憲」の立場から国民主権・平和主義・基本的人権の尊重の「三つの根本規範」を見直す方針を示しました。
その内容は、まだ明らかにされていませんが、参院選公約では「国連待機部隊構想などについて検討を進め」ると記述。四月末にアナン国連事務総長と会談した菅直人代表(当時)は、新たな国連決議のもとでイラクで多国籍軍が形成されれば「自衛隊の派遣についても検討可能」と表明(「民主党欧米訪問団報告書」)しました。
党内では、鳩山由紀夫元代表が「改憲試案」を発表。「第九条こそ、国のあり方を考える上で、もっとも避けて通れない課題である」として、「自衛軍の保持」を提唱しています。(『文芸春秋』五月号)
公明党は“性急な改憲派とかたくなな護憲派の間の橋渡し役”(神崎代表)を自称。参院選に向けた公約である「重要政治課題」で、「時代の進展とともに提起されている環境権やプライバシー権などを加える」として「加憲」と称する改憲の立場をあらためて明確にしました。今年秋の党大会で党見解をまとめるとしています。
その一方で、「憲法9条についてもこれを堅持し」などと、九条改憲の本音を隠そうとしています。しかし、神崎代表は「自衛隊の位置付けを憲法でしてもいい」(四月四日、民放テレビ)と発言。太田昭宏幹事長代行も憲法記念日のテレビ討論で「現行の文言を堅持し、自衛隊の存在を『第三項』の形にするのは検討に値する」とのべるなど、「堅持」といいつつ、実際は九条改憲を視野にいれていることを明らかにしています。
創価学会の秋谷栄之助会長も「憲法が論議の対象になるというのは自然なこと」「9条の平和の精神・理念と、国際貢献のバランスをどうとるかという判断でしょう」(『アエラ』二月二日号)などとのべています。
日本共産党は憲法改悪に首尾一貫して反対している党です。
とくに「二度と戦争をしない」との決意をこめた憲法九条は、日本国民が世界に誇る宝です。二〇〇〇年に開かれた国連ミレニアム・フォーラムの報告書は、「すべての国が、その憲法において、日本国憲法九条に表現されている戦争放棄原則を採択する」ことが提案されました。日本共産党は、九条改悪を絶対に許さない立場で憲法改悪に反対し、平和原則を守るという一点で国民の共同を呼びかけています。
日本共産党は、こうした値打ちを持つ憲法の全条項をしっかり守ります。そして、平和・人権・民主の条項を、二十一世紀の日本の「国づくり」に生かし、その完全実施に力をつくします。
日本共産党がめざす日本改革の提案は、憲法の主権在民、戦争放棄、国民の基本的人権、国権の最高機関としての国会の地位、地方自治などの原則の完全実施と重なりあうものです。
日本国憲法は、三十条にわたる基本的人権を「侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に」(一一条)保障しています。こう宣言している憲法は、サミット(主要国首脳会議)参加国でも日本とイタリア以外にありません。
男女の同権・平等(二四条)も明快です。日本の憲法は、世界で進む男女の平等・同権の前進を受け入れられる内容です。
「憲法は米国の押しつけ」。改憲派が持ち出す口実の一つです。しかし改憲の動き自体、米国が源流なのです。
現行憲法は占領軍が提案したものでしたが、軍事力不保持と戦争放棄をうたった憲法を日本国民は大歓迎しました。
しかし、米国は日本を反共同盟国として再軍備させる方針に転換。米陸軍省が一九四八年に作成した報告書では、「日本の新憲法に対する修正の可能性について、自衛のための軍備確立という方向で検討する必要がある」とのべています。
一九五四年に憲法違反の自衛隊が創設され、六〇年に現行安保条約を締結。日本政府は米国いいなりに軍備拡大を進めてきました。
日米同盟の拡大が進むなか、二〇〇〇年十一月には、対日政策専門家の報告書(アーミテージ・リポート)で、「憲法が同盟協力の障害物になっている」とのべ、日本の集団的自衛権行使を阻害する憲法九条への敵対姿勢を強めました。
海上自衛艦のインド洋派兵、イラク派兵、多国籍軍への参加…。日本を公然と「海外で戦争する国」にしようとする米国の戦略と、その歯止めになっている憲法九条との矛盾は避けがたいものになってきました。
日米同盟を絶対視する自民、民主、公明各党から改憲発言が相次ぎ、一部マスコミも改憲キャンペーンを強めてきました。昔も今も、改憲の動きは米国発なのです。
04年6月 自民党が改憲の論点整理
民主党が憲法提案の中間報告
公明党が改憲論議の論点整理
11月 公明党が党大会で改憲の意見集約
末 民主党が憲法提案取りまとめ
05年1月 通常国会
憲法改正国民投票法案提出狙う
法案提出権をもつ常設機関として憲法委員会の設置狙う
衆参憲法調査会最終報告書取りまとめ
11月 自民党憲法改正草案発表・新綱領
06年 民主党が憲法改正草案発表