2004年6月15日(火)「しんぶん赤旗」
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有事関連法の危険な本質は、米軍が海外で引き起こす戦争に自衛隊が本格的に参戦し、地方自治体も民間企業も国民も総動員するところにあります。憲法を踏みにじり、日本の二十一世紀の進路と国民の命運を左右する重大な法律を公聴会も開かず、参院ではわずか三十時間強の審議だけで成立を強行した自民、公明の与党、民主党の責任は重大です。
政府自身は日本に対する大規模な侵略の可能性がほとんどないことを認め、有事法制の必要性も「備えあれば憂いなし」という説明を繰り返すだけでした。しかし、日本共産党が参院の審議でも繰り返し明らかにしたように、その狙いは米軍が「周辺事態」でおこなう戦争に日本が有事法制にもとづいて参戦することです。
今回の有事関連法案の審議はちょうど、米国によるイラクの不法な軍事占領が一年を迎え、その破たんが国際的にも明白になるなかでおこなわれました。町を包囲し、老人や子どもなど民間人を虐殺したイラク中部ファルージャでの蛮行、拘束したイラク人に拷問・虐待を繰り返していたアブグレイブ収容所の残虐行為など、米軍の無法ぶりは委員会審議で何度も指摘されました。
有事関連法は、こうした米軍の戦争に日本がまるごと参戦するというものです。しかし政府は、「米軍は国際人道法の基本的な考え方をふまえて行動している」(川口順子外相)と言い張り、米軍の無法を擁護しつづけました。
米国が国連憲章に違反する先制攻撃を辞さないという戦略を明確にするなか、イラク戦争を通じて、米国の一方的なやり方は許さないという国際世論が広がっています。そのときに、なぜ、新しい法律までつくって米軍を支援しなければならないのか―政府は最後までまともに説明することはできませんでした。
憲法九条をもつ国として日本がなすべきことは、「有事」を起こさない努力をつくすこと、国際法を順守し、国際的な紛争は平和的、外交的手段で解決するというあたりまえの原則を守ることです。それは、米国の国際的な無法を容認し、それを支援することとは両立しないはずです。
政府・与党と民主党は今後、「国民保護」法の具体化、新たな「緊急事態基本法案」の策定など有事法制づくりをいっそうすすめようとしています。有事法制の具体化とその発動を許さない新たなたたかいが重要になります。
山崎伸治記者
「自民党と同じじゃないか!」
十四日、参院イラク・有事特別委員会。「緊急事態に対処するための法制・体制整備に全力を挙げる」とのべた民主党・若林秀樹議員に浴びせられたヤジです。
有事関連法の成立は、自民・公明の与党と民主党が一体になって進めてきたものです。
民主党は結党以来、「緊急事態法制」の整備を主張してきました。しかし、政府が二〇〇二年に提出した武力攻撃事態法案など有事三法案については、「政府の恣意(しい)的な判断によってわが国を武力紛争に巻き込む」などと批判していました。
ところが昨年春、民主党はその立場を覆し、自民党と急接近し、「修正」協議に乗り出しました。米軍の海外での武力行使に日本が公然と参加するという、有事法制の本質を何ら変えない共同「修正」案を提出。与党の公明党と旧自由党も加わり、昨年六月、九割の賛成で有事三法を成立させるという事態となったのです。
今年三月に提出された有事関連法案は、当初から自民・公明両党と民主党が推進。政府・与党も民主党との「修正」協議に意欲を見せました。
結局、民主党の主張を取り入れて、大規模テロなど「緊急対処事態」での「鎮圧」措置を加え、有事法制の本質は何ら変えない共同「修正」案を五月に提出しました。
政府案を提出↓民主党が「修正」提案↓与党が提案を受け入れ↓共同「修正」案提出という、昨年の国会と同じパターンを繰り返したのです。
重大なのは、有事関連法案の審議が始まる前から、「緊急事態基本法」制定に向けた協議会を自公民三党でつくり、来年通常国会への法案提出で合意したことです。
「基本法」は民主党が主張していたもので、有事関連法案の審議入りの取引材料にもされました。同法は、「日本有事」に加えて大規模災害も対象にしています。国民の基本的人権侵害の範囲を大幅に拡大し、有事法制のいっそうの強化にレールを敷くものです。
民主党は今国会最終盤、年金改悪法をめぐって小泉・自公政権との対決姿勢を示しました。しかし、同法の成立強行後、自民・民主両党は有事関連法案の成立に「最大限努力する」ことで合意(八日)。公聴会も開かないまま、十四日の成立強行へ突き進んだのです。
民主党の姿勢の根底には、「外交・安全保障では(二大政党に)あまり差がない方がいい」(岡田克也幹事長=当時、昨年十一月十日、NHK)という認識があります。しかし、日本弁護士連合会(日弁連)をはじめ、多くの国民が有事関連法案の今国会成立に強く反対しています。これらの声を無視して、有事翼賛体制をつくろうとする両党に、日本の未来を任せることはできません。
竹下岳記者
これが有事関連法 |
14日の参院本会議で強行された有事関連7法3協定・条約は次の通りです。
日本が武力攻撃を受けていない「武力攻撃予測事態」の段階から、自衛隊が米軍に弾薬などの物品や役務を提供。
民間空港・港湾、海・空域、道路、電波の米軍・自衛隊による優先使用を保障。自治体など管理者が拒否しても、首相の権限で強制使用も。
米軍と自衛隊が軍事行動を自由に行うため、「国民保護」の名で国民を統制・管理し、動員。
敵国の「軍用品等」(武器や食糧・燃料、兵員など)を輸送している疑いのある民間船舶に対する臨検を行うもの。
現行ACSAを「予測事態」「武力攻撃事態」「国際平和のための国際社会の努力の促進」などに適用範囲を拡大。
改悪ACSAに伴い、自衛隊の米軍への物品・役務の提供範囲を拡大。
捕虜の取り扱いや非戦闘員の保護などを定めたジュネーブ条約を補完するもの。
ジュネーブ条約や追加議定書にするものとして、自衛隊の戦時の活動を規定。