2004年6月17日(木)「しんぶん赤旗」
イラクに派兵された自衛隊の多国籍軍への参加、アメリカの戦争に国民を動員する有事関連法案の採決強行、自民、公明、民主の各党から相次ぐ改憲の策動…憲法を根底から脅かす動きがあいついでいます。
歴史の分岐ともいえるそうした重大問題にどう立ち向かうのか、ジャーナリズムにとってもその立場が問われる正念場です。
日本のマスメディア、とりわけ全国紙にとっての重大な問題は、憲法の根幹を脅かすこうした事態にたいして、明確な批判がほとんど見られなくなっていることです。
日米首脳会談で自衛隊の多国籍軍参加を約束した小泉首相にたいし、「朝日」は十日付社説で、「なし崩しで派遣を続けようという小泉政権の判断は認めるわけにはいかない」と批判しました。しかし、他の各紙は、積極的であれ消極的であれ、容認する立場をとっています。
自衛隊の派兵を積極的に支持してきた「読売」は、「自衛隊の役割が、ますます重みを増す」(十日付社説)と手放しで賛美します。「問題点は少なくない」(同日付主張)という「産経」も、参加の「意義は大きい」と積極的に評価する立場です。「毎日」も「国民と国会にきちんと位置付けを説明してもらいたい」(同日付社説)というだけで、参加に反対とはいいません。「日経」も「丁寧な説明が要る」(十五日付社説)といいながら参加は認めています。
一方、自民・公明と民主が十四日に採決を強行した有事関連法については、「朝日」も、「この法制を使うにあたっては、政府も国会も用心のうえに用心を重ねるべきである」(十五日付社説)というだけで、反対の態度を示していません。「読売」は、「平和と安全を守る基本政策は与野党の枠を超えて推進することが、成熟した政治の姿だ」(同)と、ここでも手放しで賛美です。
自衛隊の多国籍軍参加については、これまで政府でさえ、武力行使を目的とする多国籍軍への参加は憲法上許されないとしていました。憲法違反の海外派兵をなし崩しで拡大するそうした多国籍軍参加や、アメリカの戦争に国民を動員する有事関連法の制定にたいして、数百万の発行部数をもつ大新聞が筆をそろえて政府を支持するとは、国民の立場に立てば、異常このうえないことです。
自衛隊の多国籍軍参加でいえば、「毎日」の世論調査(十五日付に詳報)でも、「賛成」は33%にとどまり、「反対」が過半数の54%に上ります。有事法制についても、国民の間で批判や反対の声は少なくありません。大新聞が国民の声を代弁するどころか、世論の大勢に反しているのはあきらかです。
イラクで米英軍が中心になって編成する多国籍軍については、国連安保理の新決議に賛成したフランスやドイツ、ロシアも派遣の意思をあきらかにしていません。アメリカの求めに応じ、いち早く参加の意思を表明した日本政府の態度も、それを支持する大新聞も、国際的に異常なアメリカいいなりを示すものでしかありません。
政府の政策を批判しなくなった大新聞が、国民に事実を伝えるという最低限の役割さえ投げ捨てつつあることにも、日本のマスメディアの深刻な病状があらわれています。それはなにより、なし崩しの海外派兵や有事法制に反対し、憲法を守れと要求する国民の世論と運動を伝えないことです。
小泉首相が日米首脳会談で多国籍軍への参加を表明した翌十日、評論家の加藤周一氏やノーベル賞作家の大江健三郎氏ら、九氏の呼びかけによる「九条の会」の記者会見がおこなわれました。日本の知性と良識を代表する人びとの呼びかけであり、緊迫した情勢とのかかわりでも各メディアが報道して当然のものです。
ところが現実には、「朝日」は第三社会面で写真つきの囲み記事で報じ、「毎日」は社会面「情報ファイル」での短信扱い、「読売」や「産経」には一行もありませんでした。文字通り、改憲に反対する運動を黙殺したに等しいものです。
国民の立場に立ち、国民の「知る権利」にこたえて真実の報道と公正な論評をおこない、権力の言動をチェックすることこそ、ジャーナリズムの役割です。政府の政策を批判するどころか、政府に異を唱える国民の動きはまともに報道しようともしない日本の大新聞の姿は、民主主義の土台といわれるジャーナリズムの役割に照らして、決して見過ごしにできることではありません。
(宮坂一男)