2004年6月18日(金)「しんぶん赤旗」
自衛隊のイラク多国籍軍への参加問題をめぐり、小泉純一郎首相は十七日の野党党首との会談で、日本共産党の志位和夫委員長の追及にたいして、これまでの政府の説明さえくつがえす重大な発言を連発。その点をさらに志位氏がきびしく追及すると、事務方があわてて耳打ち、メモを渡すなどしましたが、首相は答えることができませんでした。約五十分におよんだ党首会談のなかから、そのやりとりを再現すると…。
志位氏は冒頭、次のように発言しました。
志位 多国籍軍に自衛隊を参加させるという首相の言明は、イラク情勢の前向きの打開にとって有害なだけではなく、憲法とのかかわりできわめて重大な問題点をはらんでいる。
これまで国連安保理決議によって十をこえる多国籍軍がつくられたケースがあるが、自衛隊は一度も参加したことはなかった。それは「武力行使を伴う多国籍軍への参加は憲法上許されない」という一貫した政府見解があったからだ。今回のイラクでの多国籍軍への参加という方針は、これまでの政府見解からみてもとうてい説明のつかないものだ。
政府が国会に提出した(自衛隊のイラク派兵に関する)「基本的考え方」はこれまでの政府見解との矛盾をとりつくろおうと、いろいろな説明をしているが、どれも成り立たない。
一つは、国連安保理決議との関係だ。「基本的考え方」は、「自衛隊は、…わが国の主体的な判断の下で活動するものであり、統合された司令部の指揮に従い活動するものではない」と書いてある。しかし、安保理決議一五四六では「多国籍軍に参加する軍隊は統一された指揮の下に置かれる」と明記されている。国連決議との関係で、「参加するが指揮下に入らない」ということは成り立たない。
もう一つは、米国政府の言明との関係だ。マクレラン米大統領報道官が昨日の記者会見で、「日本の自衛隊もふくめて、多国籍軍全体が米軍司令部によって監督される」と言っている。すなわち米軍と自衛隊との関係は、「調整」「連絡」ではなくて、事実上の指揮に置かれるという関係だということを米国政府も認めている。
国連の決定に照らしても、米政府の言明に照らしても、「自衛隊は統合された司令部の指揮の下に置かれない」という言い訳は通用するものではないのではないか。
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志位 そのうえで、二つの問いに答えてほしい。
一つは、政府の「基本的考え方」は、「指揮下に入らない」ということについて「米、英両政府と我が国政府との間で了解に達して」いるとしている。日本政府の方針に反する要請があった場合は断り、「活動の中断、撤退等の措置」をとることも「了解に達している」とある。そして、これらによって「わが国の主体的な判断の下での自衛隊の活動は担保されることになる」としている。
そこで聞くが、いったい両国政府のだれとだれが、どういう形で、どういう内容の「了解」をしたのか、はっきり答えてほしい。
マクレラン報道官は会見で、「日本政府が場合によっては撤退させることもあるといっていることについて了解しているのか」という質問に、「質問の意味が理解できない」と言っている。いったいどういう「了解」を交わしたのか、中身は何なのかを言わなかったら、「担保」といってもとうていそのままうけとるわけにはいかない。
もう一点、政府の「基本的考え方」では、「多国籍軍の一員になる」という言葉は出てこない。「多国籍軍の中で活動する」という言葉は出てくるが、「一員」とは言っていない。これは非常に重大な問題だ。「多国籍軍の一員」となるのか、ならないのかはっきり答えてほしい。
その上で首相と次のようなやりとりになりました。
志位 そもそも自衛隊は、多国籍軍に参加するのかどうか。この基本点から答えてほしい。
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首相 多国籍軍に参加する。(自衛隊の活動は)人道復興支援に限る。
志位 これはきわめて重大な言明だ。これまで政府自身が「参加」とは「多国籍軍の指揮下に入ること」だと定義しているではないか。しかし、政府のこれまでの説明では、「指揮下に入らない」と言っている。「参加」するといいながら、「指揮下に入らない」というのは、まったく矛盾して説明がつかない。
首相 見解の相違だ。(自衛隊は)人道復興支援に参加する。
志位 見解の相違ではない。あなた方が政府の見解として、「参加」とは「多国籍軍の指揮下に入ること」だと言ってきたのだ。これまでの定義を変えるというのか。
首相 …。
志位 多国籍軍の任務には人道支援もふくまれるかもしれないが、目的には武力行使を伴うということを認めるか。
首相 認める。
志位 武力行使が伴う多国籍軍への参加は認められないというのが、これまでの政府見解だ。
首相 …。
志位 それでは、日米両政府の「了解」についてはどうだ。さきほどの問いに答えてほしい。
首相 …。
細田博之官房長官 米英の責任者による「了解」がある。
志位 文書か、口頭か。
官房長官 口頭での「了解」だ。
志位 いったいだれが「了解」したのか。
官房長官 米英のしかるべき代表だ。
志位 「了解」の内容は何か。「了解」したという内容をここで述べてほしい。
首相 日本の支援は人道支援に限定するという「了解」だ。
志位 違うだろう。日本は指揮下に入らないという「了解」ではないのか。
首相 そうだったかもしれない。自衛隊は日本の指揮下に入る。
志位 それぞれの軍隊が自国の指揮下に入るのは当たり前だ。それが、さらにその上位の指揮下に入るのかどうかが問題とされている。自衛隊は米軍の指揮下に入るのか。
首相 多国籍軍の指揮下に入る。
安倍晋三・自民党幹事長 (あわてて割って入り)調整はするということだ。
志位 自衛隊は多国籍軍に参加するといったが、ということは自衛隊は多国籍軍の一員になるということか。
首相 多国籍軍の一員になる。
志位 これもきわめて重大だ。これまで政府は、「日本は有志連合の一員」だが、「自衛隊は有志連合軍の一員ではない」としてきた。ところがいま首相は、今度は「自衛隊は多国籍軍の一員になる」と明言した。これは大きな踏み込みだ。「一員」になれば、軍事行動において共同責任を負うことになるからだ。「一員になる」というのは、間違いないな。
首相 一員になる。
志位 問題を整理したい。一つは、総理は、多国籍軍に参加すると言明した。もう一つは、自衛隊は多国籍軍の一員になると言明した。確認していいか。
首相 そうだ。
志位 参加するというのはこれまでの政府の定義でいえば、「指揮下に入る」ということだ。ところが政府は「参加するが指揮下に入らない」という。その「担保」として日米両国政府の「了解」があるという。ところがその中身も私が問うと、首相は答えられなかった。(指揮に関する)「了解」の中身について総理は言えなかった。説明できない。これは非常に重大だ。
政府は多国籍軍の統一的指揮の下に入らない最大の「担保」はその「了解」があるからだと言っておきながら、中身については言えない。これは、非常に深刻だ。
「担保」の中身を説明できないまま、「指揮下に入らない」ということだけ繰り返しても、まったく理解するわけにいかない。これでは国民は納得しない。文書で国会と国民に報告すべきだ。どういうレベルの「了解」なのか、その内容は何なのか、きちんと文書で出してほしい。約束してほしい。
首相 分かりました。約束します。
志位 この会談をつうじて、多国籍軍への自衛隊参加問題で、重大な問題点がはっきりした。これは憲法じゅうりんの自衛隊の海外派兵をさらに一段と深刻にするものだ。わが党は、多国籍軍への自衛隊の参加に強く反対する。自衛隊のすみやかな撤退を求める。憲法にかかわるこれだけの重大問題なのだから、国会で徹底的な審議をおこなうことを、強く求める。