2004年6月23日(水)「しんぶん赤旗」
出生率の動向は年金改悪法の審議で焦点になっていた問題で、法案成立後まで伏せていた厚生労働省と、公表の遅れを見逃してきた坂口力厚生労働相の責任は重大です。
厚生労働省が毎年まとめている合計特殊出生率(一人の女性が一生の間に産む子どもの数。十五歳から四十九歳の出生率を合計したもの)を公表したのは、年金改悪法成立(六月五日)から五日後の十日でした。通常の統計発表を考えると、審議中に調査結果がまとまっていたことは確実とみられ、公表時期を遅らせた姿勢に批判が集中しました。
今回とくに、少子化の進展を給付水準の削減に直結させる「マクロ経済スライド」を導入したことで、子どもの数が減っていくことを示す出生率の動向は重要な論点となり、与野党双方が法案審議で取り上げた経過があります。法案には、かつてない保険料の連続引き上げと、給付の大幅削減がもりこまれていますが、物価や賃金上昇率とともに前提にされていたのは、〇二年度一・三二(実績)の出生率が二〇五〇年度には一・三九まで回復するというシナリオでした。この前提が崩れると、いっそうの保険料引き上げ、給付削減を検討しなければなりません。
この“保険料収入内の給付自動調整”という政府提案の根拠となる出生率の推計は、国立社会保障・人口問題研究所が〇二年一月にだした将来人口推計にもとづいています。同推計は、〇七年度にいったん一・三〇まで下がったあと、回復に転じるという出生率の将来推計です。ところが実際には、〇三年度の推計一・三二どころか、最低と見込んだ四年後の推計一・三〇さえ割りこんで一・二九まで下がっていました。この公表を伏せていたのです。
法案審議では、出生率回復のシナリオは楽観的ではないかという批判にたいし、坂口厚労相や厚労省幹部は出生率一・三九への回復は経済情勢をきびしく見通したうえでの推計で批判は当たらないとし、一・三九を下回るようなことになれば年金どころか日本社会が成り立たなくなる問題として、少子化の影響が大きいことを認めていました。しかし例年六月に公表される出生率がでないのはおかしいと野党から追及されると、「(国会提出を)急がせたい」(坂口厚労相、三日、参院厚生労働委員会)とのべながら、応じなかったのです。
成立まで二週間以上にわたって調査結果を伏せていたことは、こうした法案審議に不利になるデータを意図的に隠していたも同然です。「百年安心の年金プラン」の根拠となった“保険料は上限で固定、給付は50%確保で引き下げに歯止め”という二枚看板の偽りも、参院の追及で明らかになるまで国民に説明しようとしませんでした。世論への背反を重ねたうえに成立させた「年金改革」法はもはや廃止にする以外にありません。
坂口厚労相は、改悪法成立直後の出生率公表に世論の批判をあびながら、「今年の数字だけとやかくいってもはじまらない」(十一日、記者会見)、「隠したというよりも、計算が遅れたということでしょう」(十五日、記者会見)と居直り、身内をかばってきました。二週間以上にわたる情報隠しが明らかになったからには、自らの責任を明確にすべきです。予想外の過去最低の出生率低下を示す重要データを国会審議にも示さず、年金財政への「影響はない」と言い訳して反省のない自民、公明にも参院選での厳しい審判が必要です。斉藤亜津紫記者