2004年6月23日(水)「しんぶん赤旗」
(1)各国で「景気回復」が続くが、原油高や「イラク」が不安定要因に
(2)G8サミットではイラク債務などが協議されたものの、経済は脇役扱いに
(3)七月末に枠組み合意を目指す世界貿易機関(WTO)交渉が大詰めを迎える
米国の一―三月期実質GDP(国内総生産)は前期比4・4%増(改定値)で、引き続き「好調」を維持しています。他地域の実質GDPも、欧州のユーロ圏で0・6%増(前期比改定値)、日本で6・1%増(同)、中国で9・1%増(前年比)など、軒なみプラスでした。シーアイランド・サミット(主要国首脳会議、六月八―十日)の議長総括は「世界経済が力強さを増している」と自賛しました。
しかし、三月の米貿易赤字が四百五十九億ドルで過去最大を更新するなど、米国の「双子の赤字」(財政赤字と貿易赤字)は、「イラク戦費」の増大のもとで解決の兆しは見えません。「ドル暴落不安」と常に背中合わせです。
「回復基調」にある世界経済も、米英軍の占領下で交戦状態が続くイラク情勢など、不安定要因に事欠きません。とりわけ深刻なのが原油高です。
国際価格決定の基準になるニューヨーク市場の米国産WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物相場は、五月に一時一バレル=四一ドルを超え、湾岸戦争時の一九九〇年十月に記録した史上最高値を十三年ぶりに更新しました。その後若干戻したものの、高値水準が続いています。
原油価格は、需給の釣り合い、投機資金の動き、国際情勢などが複雑に絡み合って形成されます。今回の高騰は、石油輸出国機構(OPEC)の減産政策、中国の需要拡大があるものの、イラクをはじめ不安定な中東情勢が最大の要因です。そのリスクをもてあそぶ米国の大手金融機関は、投機集団を経由して大量の資金を原油相場に投入、価格上昇を牽引(けんいん)しています。
世界経済への悪影響に対する懸念が浮上しています。国際エネルギー機関(IEA)の試算によると、原油相場が一バレル当たり十ドル上昇すると、世界全体のGDPを0・5%程度押し下げるといわれます。特に、極度に車社会化した米国では、原油・ガソリン価格の高騰が個人消費の冷え込みに与える影響が大きく、ブッシュ政権が「景気回復」に浮かれている状況ではありません。
世界貿易機関(WTO)の農業交渉は、七月末までの枠組み合意を目指し、最終的な調整段階に入っています。日本にとっては、さらなるコメ輸入自由化を押し付けられる可能性があります。サミット議長総括はWTO交渉について、「さまざまな地域での成長の好転を世界的な貿易障壁の削減と結合させる」ための「経済的好機」だと強調しました。
日本の食料自給率は、カロリー基準で40%(二〇〇二年)と、データがそろっている「主要先進国」十二カ国で最下位です。穀物自給率は28%で、世界百七十三カ国中、百三十番目(〇一年、農水省調べ)。米国など輸出大国や多国籍企業の利益が優先される現状が続けば、輸入国の日本だけでなく、各国の国内農業や食料主権はますます脅かされることになります。
交渉では、日本など「先進輸入国」、インド、ブラジル、中国を中心とするグループ(G20)、米国、欧州連合(EU)などの利害が入り乱れ、合意までには曲折が予想されます。多国間交渉を脇に置き、二国間協定による自由貿易協定(FTA)の締結に活路を見いだそうとする米国などの動きもあります。
国内農業の維持、食料の安定確保はどの国にとっても重要です。WTO交渉で日本のコメを自由化の対象からはずすなど、各国の食料主権を守る新しい枠組みづくりが必要になっています。(つづく)
4/15 中国の1〜3月期GDP(国内総生産)が前年比で9.1%増、今年の政府目標7%を上回る
24 7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が世界経済の景気回復を確認する一方、原油高騰に懸念を表明
29 米国の1〜3月期実質GDP速報値、前期比4.2(改定後4.4)%増で「回復基調」続く
5/1 欧州連合(EU)、中・東欧諸国など10カ国を新たに加え、25カ国体制に
12 3月の米貿易赤字が459億ドルで過去最高を更新
14 ユーロ圏の1〜3月期実質GDP、前期比0.6%増
17 ニューヨークの原油相場で、米国産標準WTIが1バレル=41.85ドルをつけ、湾岸戦争時を上回る市場最高値
6/8 国連安保理、6月末までにイラク暫定政府に「主権移譲」し、米主導の「多国籍軍」の駐留を条件付きで認める決議を採択
8 米ジョージア州シーアイランド 〜10 で主要国(G8)サミット