日本共産党

2004年6月29日(火)「しんぶん赤旗」

イラク主権移譲

困難の根本に「占領」継続

混乱のなかで広がる批判 多国籍軍の中核には13万8千米軍


 混乱が続くイラクでは、米主導の占領機関である連合国暫定当局(CPA)が二十八日、当初の計画を突如繰り上げイラク暫定政府に主権移譲しました。これにより暫定政府は一応「主権」国家の政府として扱われることになりますが、駐留する米軍が軍事と治安の中枢を握り、イラク国民への軍事攻撃を続ける下で暫定政府が広範な国民の支持を得られるかが最大の焦点となっています。(カイロ=小泉大介)

 イラク暫定政府は、連合国暫定当局任命の統治評議会出身者が主要ポストを占めました。国連のブラヒミ事務総長特別顧問が目指した「専門的な知識と技術をもった非政治家の集団」という構想は後景に追いやられました。ブラヒミ氏は暫定当局のブレマー責任者を「独裁者」とよび、ブレマー氏が米政府の意向通りに暫定政府の「選出」をとりしきったことを批判しました。

■「CIAの男」

 暫定政府の実権を握るアラウィ首相は就任前から米中央情報局(CIA)との深い関係を指摘され、就任後には米軍の駐留継続を繰り返し求めました。同首相は今月十九日に米軍がイラク中部ファルージャの民家を爆撃し女性や子どもなど二十人以上を殺害した際には「歓迎する」とまで表明しています。

 イラク国民のなかには、占領終結への第一歩として、暫定政権に期待する人々もいますが、「これまでのイラク統治評議会と変わりなく合法的なものとはいえない」(イスラム教スンニ派の有力組織、イスラム聖職者協会)などと批判的な声が広がっています。

 最大の問題は、イラク国民や抵抗勢力への残虐な弾圧や武力攻撃を続けている十三万八千人の米軍が多国籍軍の中核として居座り続けることです。パウエル国務長官や多国籍軍のケーシー司令官も、反政府勢力への軍事攻撃を続けるとのべています。

 対米強硬派で、占領軍への激しい武装抵抗を続けてきたシーア派指導者サドル師が暫定政府支持を打ち出したと伝えられましたが、米軍撤退時期の明確化などを条件としており、今後の動きは予断を許しません。

 暫定政府の国防省には十人の米英人顧問が常駐するのをはじめ、各省庁でも同様の方針が実施されています。アラブでは「暫定政府の成立にしろ、主権移譲の式典にしろ、米国がつくりだした偽の写真以外の何物でもない」(カタールのアッシャルク紙)などの見方が広がっています。

 イラク各地では警察などを標的とした爆弾攻撃がいっせいに発生し、死者百人以上、負傷者数百人となる混乱が続いています。イラク国民の間では、テロ批判の一方で、混乱の根本原因である米占領体制と、治安維持に有効な対策をとれない暫定政府への不満が高まっています。

■民意の反映は

 イラクは今後、「主権移譲」を経て、来年の終わりまでに恒久憲法にもとづく正式な政府の樹立をめざします。当面の重要課題は、七月の国民会議開催、来年一月末までの選挙実施です。

 国民会議は、暫定政府の諮問機関的役割を果たすもので、各地の政党、部族、宗教指導者ら約千人が参加する予定です。しかしこれまでに、イスラム聖職者協会やシーア派指導者サドル師のグループは、米国の占領継続などを理由に参加を拒否しています。国民会議が、どこまでイラク国民の民意を反映したものとなるかは不透明です。

 さらにその後の選挙をめぐって、現在の深刻な治安情勢のもと、期日どおりの実施を危ぶむ声が日増しに強まっています。暫定政府のアラウィ首相自身、二十六日に「来年一月の期限は絶対的なものではない。それは事態の進展にかかっている」と述べるありさまです。

 「主権移譲」をめぐるこうした一連の事態は、イラクの困難の根本には米占領体制の事実上の継続があり、「占領軍の息のかかった暫定政府の存在と戦争状態がつづくかぎり、本当の主権はありえない」(汎アラブ紙、アルクッズ・アルアラビのアトゥワン編集長)ことを示しています。


安保理決議は「国連主導」

実際の役割は限定的か

 イラクの主権移譲に伴って国連の役割の拡大が期待されます。しかし、イラクの情勢がきわめて不安定なため、国連職員の本格的なイラク復帰のめどは立っていません。米軍が多国籍軍の指揮権を握り実質的な影響力を維持するなかで、国連の役割はなお限定的なものになるとみられています。

 八日採択された国連安保理決議は主権移譲後、正式な中央政府の選出に至る過程で国連が「主導的役割を果たす」と明記しています。

 具体的には(1)諮問評議会の選出のための国民会議招集での支援(2)選挙実施での助言と支援(3)憲法起草での支援(4)民政、社会サービス発展での助言(5)復興、開発、人道支援での貢献(6)国勢調査での助言と支援―などです。

 しかし、決議は、国連はこれらの支援を「事情が許せば」「イラク政府の要請に応じて」行うと限定しています。現実にはイラクで主権移譲を前にテロが頻発。アナン国連事務総長は十七日、「追加の人員の派遣はしない」と述べ、すでにイラク国外に撤去している国連イラク支援団(UNAMI)の本格的現場復帰はないことを明らかにしていました。

 国連は当面、必要最小限の要員とイラク人職員を通じて選挙準備の支援などを開始していますが、その役割は「非常に限定的なものになる」(国連筋)といわれます。伴 安弘記者


イラク主権移譲後の政治日程

 2004年

 6月1日 イラク暫定政府発足 統治評議会の消滅

  28日までに イラクへの主権移譲

     連合国暫定当局(CPA)の解消

 7月中  国民会議の招集と諮問評議会の選出

     ※国民会議は「イラクでの国民対話と合意形成・融和」をめざす

     ※諮問評議会は暫定政府を補佐

      (ブラヒミ国連事務総長特別顧問の説明)

 2005年

 1月31日までに 直接選挙 暫定国民議会選出

     その下で移行政府樹立と恒久憲法の起草

 10月   憲法の是非を問う国民投票

 12月31日までに 直接選挙 正式な中央政府樹立

     安保理決議に基づく多国籍軍の駐留終了

     (ただし、米国は長期駐留を主張)


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