2004年6月30日(水)「しんぶん赤旗」
【イスタンブール=西尾正哉、浅田信幸】イラク支援で欧州同盟国との結束を示そうと北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議に臨んだブッシュ米大統領でしたが成功しませんでした。疑問視されるNATOの存在意義があらためて問われる結果となりました。
トルコのイスタンブールで開かれていた首脳会議は二十八日、「イラク治安部隊の訓練でイラク政府にNATOの支援を与える」とのイラクに関する声明で合意しました。
デホープスヘッフェルNATO事務総長は記者会見で、これをNATOが組織としてイラク支援を行うと説明しました。しかし、その直後、フランスのシラク大統領は、支援問題は「基本的にはイラク暫定政府と援助する国の二国間関係だ。NATOの任務でない」と事務総長の見解を否定。声明はNATOとしてのイラク支援関与を決めたものではないことを強調しました。
シラク大統領は、“イラクにNATOの旗を立てることは文明の衝突の危険を増す”として首脳会議前からNATOの直接関与に反対する立場を明らかにしていました。
米大統領選挙戦の中で民主党陣営から「テロとの戦争」で同盟諸国を分断し、孤立したとして批判を浴びているブッシュ米大統領は、欧州同盟国との結束を示すことに躍起になっていました。主要国首脳会議(サミット)では、NATO軍派遣を提案したものの反対にあい断念、合意を得られやすいとして出したのが、「訓練」でしたが、それでも反発にあったといえます。
ソ連崩壊後、同盟国内からもその存在意義が失われたと指摘されるNATO。“何のための軍事同盟か”という根本的な問題に今回の首脳会議も回答を与えることはできませんでした。
NATOは一九九九年四月、「新戦略概念」を採択し、同盟諸国の共同防衛的な組織から世界中へ軍を派遣する干渉と介入の軍事同盟へと変質。米国は、国際法を無視し先制攻撃を掲げる外交・軍事政策にそってNATOを活用しようとしてきました。
イラク戦争開戦前には、トルコ防衛の議論で戦争に反対する欧州同盟諸国との深刻な亀裂が露呈。欧州では独自の安全保障戦略の具体化が進みました。
米国の外交・軍事政策を実行するための「道具箱」と指摘される時代遅れの軍事同盟が国連中心の多国間主義を掲げる欧州同盟国の支持を得られないのが実態となっています。