2004年7月4日(日)「しんぶん赤旗」
同時多発テロをめぐる対応や対テロ戦争、イラク侵攻など、ブッシュ政権の政策を批判し、今年のカンヌ映画祭の最高賞を受賞したマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画「華氏911」が米国で記録的な興行成績をあげています。独立記念日(七月四日)の休暇にあわせて公開された問題作を鑑賞しようと小規模の映画館につめかけた多くの観客がその内容を好意的に受け止めています。(ワシントン=遠藤誠二)
六月三十日の夕方、ホワイトハウスから東に数百メートル、連邦捜査局(FBI)本部建物が見下ろす映画館の切符売り場には長い列ができました。当日夜の上映は深夜の分を除き完売。それでも前売り券を求める人が後を絶ちません。
映画館を後にする人は、勧善懲悪の痛快劇を見た後のようなはればれとした表情です。ある年配の女性は「まさにその通り、映画は真実だった」と興奮気味に語りました。
約二時間弱の映画は冒頭で二〇〇一年の9・11同時テロの様子を描きます。テロ攻撃の警告があったにもかかわらず長い夏期休暇を取ったブッシュ大統領。訪問先のフロリダ州の小学校で二番目のハイジャック機がニューヨークの世界貿易センタービルに衝突したと知らされ、ぼうぜんとする同氏の姿。
テロ首謀者のウサマ・ビンラディン一族とブッシュ一族との親密な関係や、テロ直後に制定された国民を監視する愛国者法の矛盾などを指摘します。
ついでイラク戦争。「米国を攻撃せず、ただ一人の米国民をも殺害していない国」への戦争を始めたとのナレーションで、米軍による爆撃で頭皮が破れたり、左腕を骨が見えるまで縦に引き裂かれた罪もない子どもの姿など、凄惨(せいさん)なイラク侵攻の様子を伝えます。
イラクに駐留している米兵が「ラムズフェルド国防長官がここにくれば私は彼に辞任を求める」と述べた場面では、客席から大きな拍手が起きました。
隣州のメリーランドからきたエンジニアのスチュアートさん(47)。「これは、私たち米国民がこの三年間に知らされてきたことの集大成です。十一月の大統領選挙に影響を与えることを期待したい。知り合いにもぜひ見ろと薦めます。私はイラク戦争にも反対だし、選挙ではブッシュ候補以外に投票する」
「華氏911」は、大手映画会社のディズニーが配給を拒絶したため、全米では比較的小さな映画館での公開となりました。公開開始(六月二十五日)後三日間の収入は二千三百九十万ドル(約二十六億円)。前週一位の映画「ドッジボール」やスピルバーグ監督の新作「ターミナル」の上を行き、ドキュメンタリー映画としては過去最高の興行成績をあげています。
上映映画館の数は一週間で倍となり、ニューヨークやロサンゼルスなど大都市だけでなく、保守層が多く住む地方でも成績は上々。ムーア監督は、仏カンヌ映画祭のパルムドール(最高賞)受賞とあわせ、興行の面でも大成功を収めた形です。
こきおろされた当のブッシュ大統領は沈黙を守っています。ホワイトハウスの担当官は「われわれは忙しくて映画を見る時間などない。時間があったとしてもシュレック(公開中のアニメ映画)の方を見るだろう」と述べるのが精いっぱい。
一部保守系団体が選挙法違反として上映の差し止めを裁判所に訴え、ボイコット運動をしました。こうした動きが話題をよび観客動員にさらに拍車をかけています。ムーア監督は「この映画の上映阻止を狙ったすべての右翼団体に感謝する」とコメントしました。