2004年7月8日(木)「しんぶん赤旗」
日本では、高失業率、不安定雇用の広がり、長時間労働など、子どもを安心して産み育てられない状況が進み、深刻な少子化が引き起こされています。一方、欧州諸国では、少子化問題を克服するために、雇用の促進、労働時間の制限など、子育てを支援するさまざまな措置が実行され、出生率も増えてきています。フランスとイギリスの場合を紹介します。
フランス |
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「若いカップルの二組に一組はもう一人子どもがほしいと考えており、その望みをかなえるよう手助けするのは国家の責任だ」
これは昨年、フランスのクリスチャン・ジャコブ家族担当相(当時)が語った言葉です。
フランスでは子育てに国が援助するのは当然だとする思想が根付いています。何よりも「家族」の語をそのまま用いた省庁の存在がそれを物語っています。
フランスの特殊出生率(一人の女性が生涯に産む子どもの平均数)は一九九三年に一・六五にまで低下しましたが、二〇〇一年には一・九〇に上昇。欧州ではアイルランドの一・九七に次ぐ二番目の高さです。
週三十五時間労働制、派遣やパート労働における一般労働者との均等待遇などの労働法制の面での権利の保障に加え、手厚い経済的な子育て支援がとられています。
パリ近郊ブーローニュに住むナタリーさん(28)とマリーテレーズさん(34)はそれぞれ四人と二人の子育て中で、「経済的な支援が国からあるので助かる」と語っていました。
経済的支援策は今年一月から制度が整備され、これまで五つあった育児関連手当が「子ども受け入れ給付制度」(PAJE)として簡素化されました。
PAJEは大きく三つの支援策に分けられています。
第一は、妊娠七カ月で出産手当として八百ユーロ(約十万五千六百円、一ユーロ=約百三十二円)が給付されます。
第二は、出産(誕生)から子どもが満三歳になるまで育児基本手当として、高所得世帯を除き、月々百六十ユーロが支給されます。
第三は、子育ての仕方にかかわるもので、親が仕事を続けながら育児する場合と、仕事を全部または一部休んで育児する場合に大別され、基本手当に加算されて支給されます。
親が仕事を続ける場合、年間所得に応じて格差がありますが、子どもが三歳になるまで月額最高三百五十四ユーロ、最低でも百五十二ユーロ、また三歳以上六歳まで最高百七十七ユーロ、最低七十五ユーロが加算されます。
休職する場合には、三歳児になるまでの期間、全休であれば三百四十ユーロが、半休では二百二十ユーロが加算される仕組みです。
その他、ベビーシッターや保育士を家庭で雇う場合にも、所得に応じてその費用の半分以上を補てんする援助金がでます。
フランス政府の子育て支援はこれら経済的援助が重視されてきました。これに対して従来から、「安くて質の高い保育施設の拡充」を求める声が、とくにパリなど大都市部の働く母親たちからは強く出されていました。
こうした声に促されて政府は、PAJEの施行にあわせて、二億ユーロの予算をつけて「保育所増設プラン」を立ち上げ、企業内保育所の設置など企業側からの家族支援を援助する方策も取り始めています。
(パリ=浅田信幸)
イギリス |
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英国のイングランドとウェールズ両地方の二〇〇三年の出生数は〇二年から四・三%増加。その結果、特殊出生率は一・七三となりました。
国民医療制度(NHS)で出産や医療が無料なのに加えて、英政府は、子どもを持つ人に手厚い経済的支援を行っています。
十六歳までの子どもを育てる人には収入に関係なく、第一子は週十六・五ポンド(約三千三百円、一ポンドは約二百二円)、第二子以降は一人週十一・〇五ポンドの児童手当が支給されます。子どもが大学入学準備の学校や職業専門学校に通う場合、十九歳まで支給されます。
児童税控除制度など児童を養育する家族への補助があるほか、〇三年四月に導入された勤労税控除制度には、子どもを養育する労働者のための支援策が含まれています。これは、十六歳以下の子どもを持ち週十六時間以上働いていれば、保育所など保育施設に通わせる費用のうち七割まで(上限週百三十五ポンド=約二万七千円)を支援します。
これらの制度は在留外国人にも適用されます。滞英八年、ロンドンで二歳の娘を保育所に通わせながら服飾関係で働く島田法子さんは、児童手当のほか保育所費用の七割、週約八十ポンドを受け取っています。島田さんは「こんなに手当があってびっくり。もし支援がなければ働かずに子どもの世話をしていたでしょう」と語ります。
年金制度でも、子育て家族には支援策があります。子育てに専念して就業せず年金保険料を納められない人を対象にした「家庭責任保護」制度です。これは、十六歳以下の子どもの養育の期間を年金保険料支払い義務期間から差し引くというもの。これにより家庭で子育てをする女性が年金の権利を失わないですむようになりました。
(ロンドン=西尾正哉)