2004年7月12日(月)「しんぶん赤旗」
米軍主導の占領当局からイラク暫定政府に「主権移譲」して二週間。同国ではいま「実質的な占領状態に変わりはない」「イラクの抵抗と混乱は続くだろう」など、当初から国際社会で広く指摘されていた通りの事態が進んでいます。イラク人にたいし占領時以上の苦難と混乱をもたらす危険性をもはらんでいます。(カイロ=小泉大介)
カタールの衛星テレビ・アルジャジーラは十日、六月二十八日の「主権移譲」後の米兵死者が二十五人に達したと伝えました。これにより、昨年三月のイラク戦争開戦以降、多国籍軍(旧連合軍)兵士の死者は千人を超えました。
イラクでは「主権移譲」後も、米軍ヘリやイラク治安部隊への攻撃に加え、自動車爆弾を使ったテロ攻撃、暫定政府のメンバーを狙った銃撃、首都中心部のホテルへの迫撃弾攻撃などが連日発生しています。
「主権移譲」にもかかわらず、なぜ治安の悪化に歯止めがかからないのか。その背景には、占領軍から名前を変えた多国籍軍やイラク暫定政府の実態と、これに対する広範な国民の反発がありました。
「われわれは米軍のファルージャ空爆を厳しく非難する」「暫定政府は完全な主権を持たねばならず、そうでなければ総辞職すべきだ」
首都バグダッドのモスク(イスラム教礼拝所)で九日、集団礼拝に集まった信徒にたいし宗教指導者が訴えました。「主権移譲」後の多くのイラク人の感情を代弁したものです。
焦点の一つは、イラク中部ファルージャです。米軍は四月、抵抗勢力がたてこもるこの町に猛攻を加え、七百人もの市民を殺害しました。市内から一時撤退したものの同市の包囲を続けてきました。そして六月十九日以降、「テロリストの隠れ家への攻撃」を理由に五回の爆撃を実施、約七十人のイラク市民を殺害しています。
爆撃の標的になったのはいずれも一般の民家です。しかも現地の医療関係者によれば死傷者の多くが女性や子どもです。ファルージャのこの事態は、米軍の占領軍としての実態になんら変化のないことを見せつけました。
バグダッド北方約百キロのサマラでは八日、米軍が駐留するイラク国家警備隊の施設に迫撃弾が撃ちこまれ、米兵五人が死亡しました。米軍はこれに対する報復として、市街地に激しい攻撃を加えました。
現地からの報道によると、米軍ヘリが発射したミサイルは同地のモスクにも着弾。民間人四人が死亡、三十三人が負傷しています。市民は「これが米国のいう民主主義か」と怒りをあらわにしました。
米軍はそのほか、バグダッド西方約六十キロのハリディヤで、民家前に座っていたイラク人に向けて突如戦車で砲撃を加え、五人を殺害(三日)、首都バグダッドでは「制止の合図に従わなかった」という理由でイラク人の車を銃撃、子ども二人を死傷させる(五日)など、日々蛮行を重ねています。
衛星テレビ・アルジャジーラによると、「主権移譲」から十日までのイラク人の死者は約二百人にのぼっています。米英の研究者らがつくる民間組織「イラク・ボディ・カウント」は、イラク戦争開戦以降のイラク人死者は、最大で一万三千百十八人に達していると見積もっています。