2004年7月15日(木)「しんぶん赤旗」
厚生労働省は十四日、生活保護制度のうち、母子家庭に上乗せして支給する「母子加算」について、「自立を支援するような形で見直す」として廃止の方向を省内の専門委員会に提案しました。小泉内閣の「三位一体改革」による補助金削減の一環で、生活保護を受ける母子世帯への給付増を抑えるのがねらいです。
母子加算は、母子・父子家庭や、両親以外が子どもを育てている場合に養育費などとして支給されるものです。受給世帯は八万九千二百九十四件(二〇〇三年七月一日)。加算額は地域によって違い、東京二十三区(一級地)で子ども一人の場合、二万三千二百六十円となっています。
厚労省側は削減を提案する理由について、加算によって、かえって就労・自立しようという意欲や、他人に頼らず暮らしていこうという意欲を失わせていると指摘。生活保護を受給している母子家庭の平均所得より低い一般母子家庭とのバランスを見直す観点を強調しています。これにたいし同日の会合で委員からは、母子家庭の子育て・養育にかかる負担や、就労をめぐる状況は非常に厳しいとして、「いまある制度を早急にカットするのは反対」などの声があがりました。
岩田正美委員長(日本女子大学教授)は「現実的には母子家庭への加算は必要といえる」とし、廃止の提案は支持できない考えをのべました。
厚労省が今回提案した、生活保護制度のうち、母子家庭にたいする「母子加算」の廃止方針は、ことし四月から実施された老齢加算の段階的廃止(二〇〇六年度まで)に続く改悪です。
厚労省は、生活保護の国庫補助そのものの引き下げ(現行四分の三から三分の二へ)もねらっています。
母子加算の廃止の目的は、不況のなかで急増している生活保護費を抑制し、国の負担を軽くすることにあります。それを合理化するために持ち出しているのが、一般の母子家庭とのバランス論です。
一般の母子家庭の平均所得に比べ、生活保護を受けている母子家庭のほうが多く、バランスがとれておらず不公平で問題だという言い分です。
社会保障給付費の抑制を求めた財政制度等審議会は、来年度予算編成への「建議」(六月)のなかでも、この所得のアンバランスをやり玉にあげて攻撃。生活保護など各種の福祉施策が「本人の福祉依存の意識を助長し、能力の活用、就労に向けた意欲を阻害している」とし、母子加算の廃止を求めています。
しかし、母子家庭の平均所得は、一般世帯の三分の一という低さです。十四日の専門委員会で委員からは、この低い所得を口実に母子加算の廃止を迫る不当性を指摘する意見が相次ぎました。「単純に比較して母子加算は必要ないとはいえない」「むしろ低所得の母子世帯が生活保護を下回る生活になっていることが問題だ」との声があがり、実際の母子家庭の生活は加算として上乗せ支給することを必要としていると合意しました。ただ、母子家庭に一律に支給するあり方や、支給期間、支給額などを実態に応じたものに変更することは検討することになりました。
母子家庭をめぐっては、生活を支えるために支給される児童扶養手当制度が、二〇〇二年の国会で大幅に改悪されました。それまで子どもが十八歳の年度末まで支給されていた手当を、開始後五年たつと最大半分まで減額するというものです(与党と民主党が賛成)。少子化が問題になり、育児、子育てへの支援が政治の課題になっていますが、小泉内閣は逆に、経済的に困難を抱える母子家庭をねらいうちにした社会保障・福祉の改悪に力を入れているのです。
生活保護制度は、不十分な面をもちながらも、憲法二五条の「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するための基準となっています。最低賃金や税金の課税最低限のものさしにもなっています。国保料や介護保険料の減額・免除の基準にもなり、あらゆる低所得対策の目安となります。これを引き下げることは国民生活全体の水準を低いほうにそろえていくことにつながっていきます。
江刺尚子記者