2004年7月21日(水)「しんぶん赤旗」
米英両国政府がイラク戦争の大義としたイラクの大量破壊兵器開発について、七月に入って両国で相次いで発表された報告書が、同兵器をめぐる情報は「誤り」だったと認定しました。米国の報告は、大量破壊兵器の保有はおろか、その開発計画の存在をも否定。イラク戦争の大義は完全に葬り去られました。両国の口まねをしてイラク戦争を支持し自衛隊派兵を強行した小泉政権の責任が、いよいよ問われています。岡崎衆史記者
「(大量破壊兵器開発を続けているとした)米中央情報局の『国家情報評価書』(二〇〇二年十月)は、誇張か、根本的な情報の裏づけを欠いていた」―。九日発表の米上院情報特別委員会(ロバーツ委員長)の報告書は、大量破壊兵器の保有どころか、その開発計画も否定しました。フセイン政権による「核開発計画の再編成」や「生物・化学兵器の保有」「攻撃用生物兵器計画の実施」の情報が誤っていたと指摘しました。
もう一つの開戦理由である国際テロ組織アルカイダとフセイン政権の結びつきも否定。イラク戦争がまったく何の根拠もなく行われたことを明らかにしました。
十四日発表の英政府独立調査委員会(バトラー委員長)の報告書も、大量破壊兵器情報に「重大な欠陥があった」と指摘。イラクを「今そこにある深刻な脅威」とし開戦に道を開いた個々の情報の信ぴょう性も否定しました。
特に、フセイン政権が大量破壊兵器を保有していると断定した英政府の文書(〇二年九月)に含まれた「イラクは四十五分で大量破壊兵器の配備が可能」とする情報について、「根拠がなく盛り込まれるべきではなかった」と主張。イラクが核開発に利用する目的でアルミ管を入手したとの情報や、移動式生物兵器製造施設を保有との情報も、「実態を伴っていなかった」と断定しました。
大量破壊兵器情報をめぐっては、ブッシュ政権の指示で捜索に当たってきた米イラク調査グループ(ISG)のデビッド・ケイ団長が今年一月、「われわれはほとんど間違っていた」と発言。昨年三月のイラク侵攻前に米政府のつかんでいたフセイン政権の大量破壊兵器保有の情報は誤りで、イラクに大量破壊兵器はなかったと主張し、全世界に大きな衝撃を与えました。
それが今回、米国では超党派の委員会で、英国では政府任命の独立委員会の調査で裏付けられました。イラクの大量破壊兵器に関する情報の誤りは、これで決着したといえます。
調査発表を受けての国民世論や野党の批判をかわすため米政府は、開戦理由を、大量破壊兵器を保有するイラクの差し迫った脅威から、潜在的な脅威に軌道修正しています。
ブッシュ大統領は十二日、テネシー州で演説し、「大量殺人兵器を製造する能力があり、テロリストにその能力を伝える可能性のあった米国の公然の敵を除去した。九月十一日の同時多発テロ後それは、見逃すことのできない危険だった」とイラク戦争を正当化しました。
戦争開始理由の変更自体が、戦争実施の誤りを自ら認めるに等しいものです。より根本的には、この演説は、「大量殺人兵器を製造する能力がある」と米国が判断しさえすれば、何の証拠を示さなくてもどの国にも戦争できるという恐るべき戦争宣言となっています。
ロックフェラー米上院議員(調査委副委員長)は、「情報が欠陥だらけだと分かっていれば、上院は武力行使を圧倒的多数で支持していなかった」と釈明。英国で戦争を支持した野党・保守党からも同様の発言が出ています。
米英両国の報告書は、「政府はなぜ誤った情報で戦争を推し進めたのか」といった根本問題に踏み込みませんでした。政府の意図的な情報操作は「証明できない」とし、大量破壊兵器情報の誤りの主な責任を情報機関に押し付けました。
しかし、政府首脳の責任を追及し、意図的な情報操作を批判する声も高まっています。
ロックフェラー氏は、「(CIAへの)圧力があったのは確か」とブッシュ政権を批判。英野党・自由民主党のケネディ党首は、「大量破壊兵器をめぐる主張は誇張された。ブッシュを支持したブレアは間違っていた」と非難しました。
米英両国世論も変化しています。十七日公表の米ニューヨーク・タイムズ紙とCBSテレビの共同世論調査では、イラク戦争に踏み切るべきではなかったとの回答が初めて過半数の51%に達しました。
十五日投票の英下院補選では、レスター南部選挙区で与党労働党候補がイラク戦争反対の自由民主党候補に敗れました。英紙フィナンシャル・タイムズ十五日付の論評は、「情報機関への責任転嫁」を批判し、「ブッシュとブレアこそ非難されるべきだ」と指摘。イラク戦争を強引に進めた政治指導者の責任を追及しました。
英国に次ぐ大部隊をイラクに派兵しているポーランドのクワシニエフスキ大統領ですら、イラクの大量破壊兵器情報では「作り話でだまされた」と告白しました(三月十八日)。
ところが小泉首相は今なお、「イラクに民主的な安定政権をつくるために、正しい選択だった」(六月二十一日)、「(イラク戦争を)支持してます」「(戦争全部が)正しかった」(六月二十七日)と発言。ここに至ってもイラク戦争を正当化する姿勢に固執しています。その姿は、米英両国で戦争の真相究明が進むにつれ、ますます異様なものとなっています。