2004年7月24日(土)「しんぶん赤旗」
【ワシントン=遠藤誠二】二〇〇一年九月十一日に起きた米同時多発テロをめぐる米政権の対応を検証してきた国家調査委員会は二十二日、最終報告書を発表しました。五百六十七ページにもおよぶ報告書は、クリントン前政権時までさかのぼり、情報機関をはじめ政府がテロの脅威にたいする理解に欠けていたことを批判しました。
報告書は、連邦捜査局(FBI)、中央情報局(CIA)間で情報を共有せず、共同して対策をとることを怠ったため、テロを事前に阻止する機会がクリントン、ブッシュ両政権あわせて十回あったにもかかわらずそれを逃したと指摘。具体的には、CIAはテロ実行犯を監視リストに載せず、彼らが米国査証を持っていたのにFBIに報告せず、実行犯の一味のムサウィ被告をテロ事件前に逮捕したにもかかわらず尋問が適切でなかった―ことなどをあげています。
またイラクが同時テロでアルカイダに協力した証拠はないと関係を否定する一方、犯人がイランを「通過」したとしてイランとアルカイダの関係の「可能性」を示しました。
報告書は結論として、情報機関の「構造的欠陥」とともに、「(政権)指導者が(テロの)脅威の重大さを理解していなかった」とし、「想像力の欠如」が「最大の失敗」であったと強調しました。そのうえで、FBIやCIAなど情報機関を統括する国家テロ対策センターや、情報を担当する国家情報長官の新設を提言しました。
二十二日、ワシントン市内で記者会見したキーン調査委員長(元ニュージャージー州知事=共和党)は、「米国政府は、同時多発テロの脅威にとりくむ十分な行動をとっていなかった」と断言しました。
調査委から最終報告書を手渡されたブッシュ大統領は、「建設的な意見が含まれている。内容を検討し、関係機関と協力し提言を実現させたい」とのべました。
国家調査委員会は二〇〇二年十一月、共和党、民主党それぞれ五人ずつの委員で結成され、ブッシュ、クリントン現前大統領をはじめ政府内外の関係者から聴取を続けてきました。
同時多発テロを検証する国家調査委員会が二十二日に発表した最終報告は、情報機関の欠陥だけでなく、クリントン、ブッシュの前現政権指導部の責任を、「テロの重大な脅威を理解していなかった」と追及しています。その一方、同時テロ以前にテロ情報を受けていたブッシュ大統領が何らかの手段を講じていれば惨事は防げたか、という国民の重大な関心事については不問に付しています。
今年三月に同調査委の公聴会で、ブッシュ政権はテロ対策を怠ったと痛烈に批判したリチャード・クラーク元大統領補佐官(テロ対策担当)は二十二日に出演したABCテレビの番組で、「イラク戦争がわれわれのテロ対策にどれだけ影響を与えたのか? 就任後の最初の九カ月間でブッシュ大統領はどれだけテロについて注意を払ったのか? (報告書は)語っていない」と指摘。「イラク侵攻によってテロが増加し、米国はいっこうに安全になっていない、ということも語っていない」と報告書を批判しました。
同時多発テロの犠牲者の遺族や関係者、元CIA分析官らでつくる「911市民ウオッチ」は二十二日、調査委員会そのものがホワイトハウスから圧力や妨害を受けたと指摘し、最終報告書は遺族や国民が抱いている疑問のいくつかに答えていないとする声明を発表しました。
(ワシントン=遠藤誠二)