日本共産党

2004年7月28日(水)「しんぶん赤旗」

イラク「主権移譲」1カ月

「国民会議」へ疑問の目

治安悪化の根源に米軍

外国軍撤退求める声強まる


 イラク「主権移譲」から一カ月。イラク基本法が定めた全土からの代議員などによる国民会議の開催について、関係者は「準備の85%は完了した」といっていますが、現実はそれどころではありません。

 イラクのイスラム教スンニ派の有力組織、イスラム聖職者協会のダーリ代表は二十六日、「国民会議に正当性を与えることはできない。いまだイラク全般を支配する強力な占領者の影響下にあるからだ」と述べ、会議不参加を宣言しました。

 カタールの新聞アッシャルク二十六日付によると、聖職者協会とともに、シーア派の有力者サドル師のグループやシーア派の最高権威、シスタニ師支持者の一部も不参加を表明。また、イラク各地で、国民会議への代議員選出過程への不満が噴出しています。

 イラク北部のクルド人地区では、暫定政府に閣僚を出しているクルド民主党の横暴な態度に、クルド・イスラム党が「占領軍の影響下で国民の意思が代表できない」と不参加を表明。南部のナシリヤでは十一の政党が代表選出過程から離脱、クートでは選出過程そのものがストップ状態です。

 イラク全体で百三十五の政党のうち八十以上が排除されています。

「抵抗は当然」

 イラク暫定政府のアラウィ首相は六月初めの就任以来、治安の改善を最重要課題に掲げ、今月七日には、非常事態の宣言を可能にした「国家安全法」を発表しました。

 同首相は「人殺しや爆弾を爆発させることだけでなく、一般人の生活を脅かすものすべてがテロだ」(十二日)と述べ、抵抗勢力の鎮圧に乗り出しています。

 しかし、米軍への攻撃やイラク治安部隊施設などを狙った自動車爆弾による爆破事件、暫定政府要人暗殺など、治安は悪化の一途。その根源は、米軍主導の多国籍軍の存在そのものと、同軍抜きには存在不能なアラウィ政権の実態にあります。

 アラブ連盟のムーサ事務局長は十六日、「イラクにおける抵抗の継続は、同国が現在置かれた状況のもとでは当然のことだ」と語り、実質的な占領の継続が混乱の根源との認識を示しました。そのうえで暫定政府が「多国籍軍撤退の日程表」を示すよう求めました。

「国連中心で」

 国連安保理決議一五四六に基づくイラクへの主権移譲は多くの国から歓迎されました。しかし、それは国連が中心となってイラクの再建を進めることが前提です。実質的な米国の占領継続が鮮明になるなか、多国籍軍撤退を求める声はいっそう強まっています。

 アジア・太平洋の二十四カ国が参加してジャカルタで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)閣僚会議は、議長声明(二日)でイラクへの主権移譲を歓迎しながら、暫定政府から、来年一月に予定されている直接選挙で選出される民主的政府への移行過程など「国家再建にあたっての国連の中心的役割」を強調しました。

 二十一日にカイロで開かれたイラク暫定政府を含むイラク周辺七カ国外相会議は、最終声明で、主権移譲が真にイラクを代表する政府の樹立を通じたイラクの完全な主権と安定を実現する一歩となるよう求め、選挙の実施や憲法の制定などの過程で国連が「中心的役割」を果たすよう要求しました。

周辺国は拒否

 米政府は主権移譲を機に多国籍軍への参加国の増大を求めました。しかし、実際には撤退の動きが加速しています。

 フィリピンは人質問題を機に派遣軍を撤退させ、タイも国防相が撤退作業の開始と九月二十日までの撤退完了を明らかにしました。ノルウェーも主要部隊を撤退させ、兵員十五人を残すだけ。ニュージーランドも九月までに撤退、オランダの撤退も来春に予定されています。

 アラウィ首相は十九日、ヨルダン、エジプト、シリア、サウジアラビアなどへの歴訪を開始し、エジプトではイラクへの派兵を要請しました。

 同首相がエジプトでムバラク大統領と会談した翌日の二十三日、駐バグダッドのエジプト人外交官が武装勢力の人質となりましたが、エジプトのゲイト外相は「イラクへの派兵はありえない」と改めて明言しました。

 二十一日にカイロで開催されたイラク周辺国外相会議も、最終声明にイラク派兵問題を盛り込みませんでした。

 これまでイラク派兵の可能性を表明していた国でも事態は同様で、イエメンのバジャンマル首相は十五日、「自軍が参加するのはイラク人支援を目的とした平和維持活動であり、米国を手助けするためではない」「米軍とともにイラクに存在することは不可能である」と明言しました。

逆行する日本

 フセイン旧体制から迫害された多数の貧しいイスラム教シーア派住民が密集するサドルシティーで二十三日、宗教指導者のサエディ師は、数千人の信者に語りました。

 「占領者に任命された政府は、いかなるものも真の政府ではない」「スペインにつづきフィリピンも撤退した。われわれは他の派兵国の国民が、自らの政府に撤退圧力を強めることを期待する」

 小泉政権は平和憲法に違反して多国籍軍へ自衛隊参加を決定しましたが、これは米国に追随しイラクをめぐる世界の動きに逆行するものとなっています。

 (カイロ=小泉大介)


もどる
「戻る」ボタンが機能しない場合は、ブラウザの機能をご使用ください。

日本共産党ホームへ「しんぶん赤旗」へ


著作権 : 日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 Mail:info@jcp.or.jp