2004年8月19日(木)「しんぶん赤旗」
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先の通常国会は年金国会として注目されましたが、その陰にかくれて、ことしの春から介護保険をターゲットにした議論が急速にすすんでいます。
財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の「建議」(五月十七日、二〇〇五年度予算編成の基本的な考え方)が口火をきった形になります。社会保障の費用の抑制が最大のテーマで、真っ先に出てくるのが介護です。
そこでは「公平さ」がキーワードになっています。なんの公平さかというと、一つは介護サービスを利用したときに支払う自己負担割合のことです。
現行は基本的にサービス費用の一割負担(利用料)ですが、これを「見直し」として二、三割に引き上げるべきだといっています。理由は「すでに高齢者医療における負担水準(一定の所得があれば二割負担)の方が高い」からということです。
さらに介護保険は若年者の医療保険(組合健保など)からの拠出金で支えられており、その若年者の医療は三割負担になっているから「介護保険においても若年者の医療保険の自己負担率(三割)まで引き上げて均衡を図るべき」だとの主張もしています。高齢者と若年者の世代間を「公平」にするという「理屈」です。
介護保険の利用者間の「公平さ」を理由にした見直し論議もあります。在宅サービスと施設を利用したときの負担を比べると、施設についてはホテルコスト(家賃・水光熱費など)とか食費が保険給付の対象になっているのに、在宅サービスでは給付されない、だから施設のホテルコストや食費を給付対象からはずして、利用者から徴収(全額自費負担)すべきだということです。
また「公的保険の給付範囲の見直し」ということで、軽症の人は在宅介護の給付対象からはずすべきだといっています。さらにひどいのは、受給者の死後、「残された資産により費用を回収する仕組みを検討すべきである」と打ち出したことです。つまり、死んだあとも財産処分でお金をつくれと、死後にも負担を求めているのです。これが「負担の公平」だというのです。
実は、この財政審「建議」の下敷きとなったものがあります。それは日本経団連が四月に出した「介護保険制度の改革についての意見」です。この中には財政審「建議」の内容のほとんどがすでに盛りこまれています。 四月に日本経団連の意見書が出て、五月に財務省の方針が出て、それから小泉内閣の「骨太の方針2004」(六月)が出て、七月末の厚労省の社会保障審議会介護保険部会で、「自立支援」がキーワードになって、軽度の要介護者を在宅サービスの対象からはずしていくこと、施設のホテルコストを徴収していく方向が打ち出されたのです。
これが政府の見直し論議の到達点です。
介護保険が始まってから介護に対する関心は高まり、介護サービスの総量はたしかに拡大しました。新しい保険制度をつくったのですから、ある意味で当然のことです。問題は、そのサービスが必要な人にいきわたっているのか、経済力によってサービス提供に差別をうむような事態になっていないのか、これが重要です。この点で大きな問題を残しており、しっかり検証して見直しに生かすことが必要となります。(つづく)