2004年8月23日(月)「しんぶん赤旗」
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サラリーマンの医療費三割負担の導入や保険料値上げ、お年寄りの患者負担引き上げ…と、相次ぐ医療改悪で国民は負担増続きです。しかし政府はこれにとどまらず、さらなる「改革」に向けて作業をすすめています。昨年三月に閣議決定した「基本計画」をもとに、二〇〇八年度からの実施をめざしています。
その一つが、お年寄りの医療制度をつくり変えることです。
お年寄りの人口が増えれば、高齢者にかかる医療費が増えるのも自然なことです。しかし政府は“老人医療費の増加が医療保険財政を悪化させる大きな原因だ”と、これを問題視しています。そこで新しい高齢者医療制度をつくり、お年寄りにかかる医療費を抑えようとしているのです。
お年寄りの医療は、現在、老人保健制度とよばれるしくみです。もともとは七十歳以上の高齢者が対象でしたが、政府の改悪で〇七年までに段階的に七十五歳に引き上げます。現在は七十一歳以上が対象です。
現役時代はそれぞれの職業に応じて、国民健康保険(国保)か被用者保険(健康保険、共済)に入ります。高齢者になってもいずれかの保険に加入しますが、医療費の支払いは、老人保健制度によって現役世代とは別会計になっています。財源は、国保や被用者保険からの拠出金と、国や地方自治体の公費負担でまかなわれます。(図参照)
新しいしくみでは、七十五歳以上のお年寄りを対象に、独立した医療保険をつくります。財源は、給付費(医療費から患者負担分を除いたもの)の半分をお年寄りの保険料と現役世代の負担(連帯保険料)、残り半分を公費でまかないます。現行制度との大きな違いは、すべてのお年寄りから保険料を取ることです。介護保険と同じように、年金から天引きする方向です。
保険料をいくらにするかは、まだ検討中です。厚労省の試算では、仮に給付費の一割をお年寄りの保険料でまかなうとすれば、一人あたり平均で年八万七千円になるとしています。月額七千二百五十円です。
現在、七十五歳以上の人が払っている医療の保険料は、平均で月額四千四百円(厚労省推計)。これでみた場合、月に二千八百五十円、年間で約三万四千円もの負担増となります。介護保険料(一人あたり平均で月約三千三百円)と合わせれば、一カ月に一万円を超える保険料が年金から引かれてしまいます。
六十五―七十四歳は、退職した年金生活者や自営業者などは国保、働いている人は被用者保険にそれぞれ加入します。保険料は七十五歳以上と同様、すべての人から集めます。
現在は、家族に扶養されている人(被扶養者)は保険料負担がありません。その人数は六十五歳以上で約四百万人(〇七年推計)です。新しいしくみでは、この人たちからも保険料を取りたてるのです。
保険料負担については、厚労省の社会保障審議会医療保険部会の委員からも「年金額には個人差がある。保険料の決め方次第では負担に耐え得ない人も出てくる」(山本文男・全国町村会会長)、「(保険料を)払いたくても払えない人をつくることが大きな問題になる。滞納がたまって保険証を取り上げられて、命を落とすことにつながるという事態も起こり得る」(岩本康志・一橋大学大学院教授)などの懸念が出されています。
患者負担については、まだ具体案は出されていませんが、閣議決定された「基本計画」では、「負担の公平性」を確保するため患者負担についても「検討する」ことが明記されています。
現在、七十歳未満は三割負担、七十歳以上は一割負担(一定以上の所得者は二割)です。審議会では「負担割合の引き上げの是非についても議論すべき」(上野昭二・日本経団連医療改革部会長)との意見が出ています。(つづく)