2004年8月23日(月)「しんぶん赤旗」
イラクの事実上の占領を続ける米国は六月末のイラクへの主権「移譲」とともに米主導の多国籍軍参加国の拡大をもくろみましたが、ナジャフ情勢の緊張などが続く中、イラク派遣軍を引き揚げる国、その意思を表明する国が相次いでいます。米国の必死の多国籍軍リクルート工作が成功していないだけでなく、むしろ「戦争有志連合」の瓦解がすすんでいます。伴 安弘記者
米国は、六月八日採択された国連安保理決議一五四六で「有志連合軍」を国連決議にもとづく「多国籍軍」に変え、参加国を増やすことで、米兵の犠牲者を少なくすることを狙いました。しかし、イラク戦争そのものに反対した仏独中ロなどは、自国からの派兵は問題外との立場です。
同決議採択後に、ドイツのフィッシャー外相は将来の派兵もないと言明。理由として「西側の軍はイラク人から常に占領軍とみなされる」からだと指摘しました。ロシアのラブロフ外相も「ロシア軍のイラク駐留は検討されていない」とのべました。
米国は北大西洋条約機構(NATO)軍の派遣を求めましたが、仏独、スペインなどが反対。スペインのモラティノス外相は「イラクの安定化の最良の方法はできるだけ早く多国籍軍が撤退することだ」(六月九日)と主張しました。結局、NATOとしてはイラク治安部隊の訓練を引き受けるにとどまっています。
米国にとって最大の衝撃はフィリピン軍の撤退です。七月半ば、イラクへの出稼ぎ労働者を誘拐した武装勢力が派遣軍撤退を要求。アロヨ・フィリピン大統領が「国民の命を守ることが国益」として、撤退を決断しました。
米国は「テロリストに間違ったシグナルを送ることになる」(バウチャー国務省報道官)と、フィリピン政府を非難しました。しかし、フィリピン軍撤退の波紋は逆に広がっています。タイは派兵批判の国内世論が高まる中で、今月十日に撤退を開始、九月二十日までに完了としています。ノルウェーは六月末に部隊のほとんどを引き揚げ、連絡要員として十人を残すだけ。ニュージーランドも九月までに撤退の予定です。
米英を含め派兵国は開戦時に三十六カ国でしたが、すでにスペインはじめ五カ国が引き揚げ、引き揚げ表明・予定国も五カ国となっています。
残る国々の中でも、米英、イタリアに次ぐ二千五百人を派遣するポーランドのベルカ首相は今月九日のブッシュ米大統領との会談後、早期撤退を示唆しています。
他方、トンガが新たに派兵したり、エルサルバドルが派兵軍駐留延長を表明しましたが、これらは米国の必死の巻き返しの結果です。
米国がとくに重視したのが、アラブ・イスラム諸国からの派兵です。
パウエル米国務長官は七月二十九日、サウジアラビアのジッダを訪問。同時に訪れていたイラク暫定政府のアラウィ首相も交えサウド外相と会談し、イスラム諸国からの軍派遣について協議しました。サウジアラビアはその後、アラブ諸国軍の派遣の可能性について語りましたが、エジプトはただちに、派兵の意思なし、と表明。サウジアラビア自身が、多国籍軍への参加ではなく、同軍撤退後のことだと表明しました。
米国が最も期待したのはパキスタンです。同国は国連職員警護のための派遣をブッシュ大統領とアナン国連事務総長から要請されていましたが、イラクに出稼ぎに出ていたパキスタン人二人が殺害されたこともあって、派兵を拒否。ラシッド情報・メディア相は三日、「他の国が撤退している今、どうして派兵できようか」と言明しました。
新たな派兵の要請にも各国が応じないのは、多国籍軍の実態が米軍を主体とした事実上の占領軍という状況に変わりがないからです。アラブ連盟のムーサ事務局長は先月、イラクに必要なのは真の主権移譲で、多国籍軍の早期撤退だと強調。イラクの世論調査機関が実施した国民にたいする世論調査でも、80%が多国籍軍は即時または来年一月の選挙後に撤退すべきだとしています。
七月九日には、米上院情報特別委員会がイラクの大量破壊兵器の脅威を明確に否定する報告書を発表。イラク戦争がうそに基づく侵略戦争であることがいっそう明らかになり、米英占領軍に協力する多国籍軍への疑問はさらに広がっています。
多国籍軍の実態が明らかになり、参戦国の離反が加速する中、なお憲法違反の自衛隊派兵にこだわる小泉内閣の姿勢が厳しく問われています。