2004年9月9日(木)「しんぶん赤旗」
尊敬する議長ならびに親愛なるすべての代表のみなさん。
私は日本共産党を代表して、第三回アジア政党国際会議の開催を祝福し、心からの歓迎の気持ちを表明するものです。ここには、アジアのすべての地域から、与野党を問わずほぼすべての政党が参加していますが、私は、この会議の特別の意義は、アジアの安全保障の問題をはじめ、この大陸が当面している重要な課題と解決の展望を議論しあい、対話と共同の方途を探究するところにあると考えています。
この会議は、四年前のマニラで始まり、バンコクに続き、そして今回の北京へとつながりました。その足取りは、アジア史上はじめての諸政党の包括的な会合として、すでに歴史に刻まれています。私は、敵対と戦争、断絶、侵略と植民地化などの多くの歴史をもつこの大陸を、平和と主権、友好と協力の輝く大陸に発展させ、「戦争のないアジア」をつくりあげることは、ご出席の各国代表の共通の願いであることを確信しています。
日本共産党は、その八十二年の歴史のなかで、反戦平和の立場を一貫してつらぬいてきたことを、なによりの誇りとしています。第二次世界大戦とそれにいたる時期には、日本軍国主義の侵略戦争と植民地支配に反対し、あらゆる迫害に抗して、多くの犠牲を払いながらも、アジアの諸国民と連帯してたたかいました。第二次世界大戦後も、アメリカのベトナム侵略戦争であれ、ソ連のアフガニスタン侵略戦争であれ、また最近のイラク戦争であれ、国連憲章にそむき大義をもたない不正不義の戦争には確固として反対する態度を堅持してきました。
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みなさん。
いま、アジアの平和の問題を考えるとき、私は、「戦争のない世界」――平和を保障する国際秩序をきずきあげることが、全世界の共通かつ緊急の課題となっていることに注意を向ける必要がある、と考えます。
歴史的に言えば、第二次世界大戦が反ファシズム連合国の勝利のうちに終結し、国際連合が創設された一九四五年、「戦争のない世界」をめざす大きな流れが世界をおおいました。「自衛」以外には各国の勝手な戦争を認めず、戦争を防止するルールを定めた国連憲章は、その流れのなかから生み出されたものでした。しかし、この流れは、平和秩序の最大のささえとなるはずだった五大国の協調が破れ、“米ソ対決”が決定的となる情勢変化のなかで、中断を余儀なくされました。
私はいま、二一世紀を迎えて、国連を中心に平和の新しい国際秩序をきずき、「戦争のない世界」をめざそうという流れが、半世紀前とは違った新しい状況のもとで、新たな力強さをもって発展していることに、みなさんの注意を引きたいと思います。
イラク戦争をめぐる経過は、そのなによりの実証でした。この戦争を未然に阻止できなかったということから、一時、“国連無力論”が一部でとなえられたこともありました。しかし、戦争が始まる前に、戦争の是非の問題が、国連安全保障理事会であれだけ真剣に議論されたのは、歴史上かつてないことでした。また、世界の諸国民の運動も、ほぼ三千万と推定される市民が集会やデモを組織して戦争反対の意思表示をしました。この運動のなかで「国連憲章にもとづく平和の国際秩序を守れ」のスローガンが、各国で共通してかかげられたことも、歴史上かつてないことでした。
戦争が始まって以後のイラク問題の経過も、重要です。それは、世界で唯一の「超大国」を自認するアメリカであっても、世界を自分の思うままに動かすことはできず、軍事力の強大さをもって他国民を支配することはできない、ということを示しています。
今日では、平和の国際秩序をきずき、まもる力にも、大きな変化が起きています。この半世紀のあいだに、世界は多極化の道を大きく進みました。イラク戦争の問題では、いわゆる大国のあいだからも戦争反対の力強い声があがりましたが、この声を世界をおおう多数者の声としたのは、なによりも、アジア・アフリカ・ラテンアメリカの圧倒的多数の国ぐにがあげた反戦平和の声でした。
一つの数字を示しましょう。私たちの計算では、国連加盟百九十一カ国のうち、その国の政府がイラク戦争に賛成した国は四十九カ国、人口約十二億人にたいし、戦争反対ないし不賛成の国は百四十二カ国、人口約五十億人でした。その根底には、世界政治の構造的な変化、すなわち、植民地体制の崩壊によって、かつては、世界政治の外におかれていた諸民族が、主権独立の諸国家として世界政治で大きな比重をしめるようになったという、大変化があります。
みなさん。
「戦争のない世界」をきずく上でも、アジアがになう役割は重要です。ここで想起したいのは、世界の平和秩序をきずくという問題では、アジア諸国の先駆的な役割が歴史に記録されていることです。一九五五年、インドネシアで開かれたアジア・アフリカ会議で発せられた「バンドン宣言」は、諸民族の独立という新しい条件のもとで、世界の平和秩序の柱となる諸原則を提起したもので、今日の情勢のもとで、新しい輝きを増しています。
地域的な安全保障の問題では、私は、アセアン諸国が結んでいる東南アジア友好協力条約(一九七六年)および非核兵器地帯条約(一九九五年)に注目しています。これらの条約は、戦争や紛争が絶えず、外国軍の基地や軍隊の常駐が日常的だったこの地域を、主権と協力、非核と友好の平和地域に変え、条約調印国が北東アジアや南アジアにも広がって、その平和の影響力をますます大きくしています。
北東アジアは、この点では、もっとも遅れた地域でしたが、私たちは、北朝鮮の核問題についての六カ国協議が始まり、共同して問題を解決する努力がおこなわれていることを、日本にとってもこの地域にとっても重要な意義をもつものとして歓迎しています。この枠組みのなかで北朝鮮の核問題が解決するならば、それは必ずこの地域の諸国間に安定した平和的関係をきずく上で一つの画期をなすでしょう。そして私たちは、この六カ国協議という枠組みが、さらに進んで、この地域の安全と平和にかかわる諸問題を共同で扱う機構に発展すること、少なくともその足場となることを希望するものです。
みなさん。
日本共産党は、政権党ではありませんが、アジアと世界の平和をめざす立場から、国際的な外交活動に力をいれてきました。この機会に、私たちの外交活動の状況を紹介したい、と思います。
私たちは、一九九七年の党大会でアジア外交を重視する方針をうちだしました。この会議の主催者である中国共産党とは、歴史的な事情から三十二年にわたる関係の中断がありましたが、一九九八年に党関係を正常化しました。また、この間に、党の代表団が、マレーシア、シンガポール、ベトナム、ヨルダン、エジプト、イラク、サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦、インド、スリランカ、パキスタン、チュニジアなど、多くのアジア、アフリカ諸国を訪問し、各国の政府と会談し、平和の問題について有意義な意見交換をおこなってきました。
私たちはまた、非同盟諸国会議やイスラム諸国会議機構と密接な関係をもっています。非同盟諸国会議との関係では、昨年二月のクアラルンプール(マレーシア)での首脳会議にも、先月のダーバン(南アフリカ)での外相会議にも、参加しました。イスラム諸国会議機構では、昨年十月のクアラルンプールでの首脳会議に招待され、参加しました。
こういう活動のなかで、いよいよ痛感するのは、アジアの多くの政府・政党・そして国民が、日本に、アジアの一員としての立場をふまえた自主的な平和外交の展開を、強く切望している、という事実です。
私たちの考えでは、日本政府が現に展開している外交は、残念ながら、多くの点で、この願いに応えるものとはなっていません。私たちは、日本の外交を、世界の平和の流れに合致させる方向で転換させるために努力することは、野党として日本の国政にたずさわっている私たちの重要な責任である、と考えています。
私たちは、今年の一月、党の大会で綱領の大きな改定をおこないました。そのなかで、日本が進むべき平和外交の方針についても、私たちのめざす方向を規定しましたが、国際政治にのぞむ私たちの基本的な姿勢を、そのいくつかの項目のなかに明記しました。その内容をここで紹介することをお許しください。
――日本が過去におこなった侵略戦争と植民地支配の反省を踏まえ、アジア諸国との友好・交流を重視する。
――国連憲章に規定された平和の国際秩序を擁護し、この秩序を侵犯・破壊するいかなる覇権主義的な企てにも反対する。
――社会制度の異なる諸国の平和共存および異なる価値観をもった諸文明間の対話と共存の関係の確立に力をつくす。
私たちはまた、日本が世界とアジアの平和に貢献するためには、日本が戦争を放棄し戦力を保持しないことを明記した憲法第九条をまもりぬき、この立場に立った平和外交をもって世界のあらゆる問題に対処することが、必要であると考えて、憲法改定のあらゆる計画に反対しています。世界で唯一の被爆国民として、核兵器の完全廃絶のために国をあげての積極的な努力をおこなうことも、私たちが日本国民の国際的な責務として重視していることです。
日本共産党は、これらの立場を活動の根底にすえながら、ひきつづき、アジア諸国の政党や政府との対話と協力の関係を、より広く発展させるために力をつくすつもりです。
議長ならびに親愛なる代表のみなさん。
最後になりますが、私は、アジアの諸政党の兄弟・姉妹が一堂に会したこの機会に、こういう交流の場をさらに多面的に発展させたいという思いに立って、議長に一つの提案をおこないたいと思います。
来年は、第二次世界大戦の終結六十周年、国際連合の創設と国連憲章策定六十周年、そしてバンドン会議五十周年にあたります。世界の平和とその規範にとって重要な意味をもつこの年に、アジアの政党として、なんらかのイニシアチブをとられることを、提案するものです。
アジアは、世界の総人口の六割をしめ、世界の経済の上でも、政治の上でも、二一世紀にますますその比重を高めてゆくことは、間違いありません。また、その歴史には、古代以来の豊かな文明の成果とともに、戦争の惨禍や植民地支配の多くの傷痕が、刻まれています。さらに、アジアは、文化的・宗教的な価値観の多様性という点でも、世界でもっとも代表的な地域の一つであり、世界の急務となっている“異なる価値観をもつ文明間の共存”という課題への取り組みのうえでも、重要な役割をになう大陸です。そのアジアが、「戦争のないアジア」をめざし、地域内の安定と平和の国際秩序の確立につとめるとともに、平和の国際秩序の建設を求める共通の意思を世界に発信することは、二〇〇五年という歴史的な年にふさわしい事業となるのではないでしょうか。
日本共産党は、いま述べた方向で、国際的な共同をすすめるために、全力をあげることを最後に申し述べて、発言を終わるものです。ご清聴ありがとうございました。