日本共産党

2004年9月19日(日)「しんぶん赤旗」

ここが知りたい特集 生活保護の制度とは

生活保護 憲法25条の生存権を保障


 長期不況やリストラ、企業倒産によって国民生活が脅かされるなか、生活保護を受けている人は年々増え、二〇〇四年三月時点で百三十九万一千人、九十七万世帯(グラフ参照)。困っている人の助けとなる大事な国の制度なのに、値打ちを下げる改悪計画が矢継ぎ早に打ち出されています。生活保護とはどういう制度なのでしょうか。



どんな制度? なぜ必要?
グラフ

 「この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする」

 生活保護法の第一条には制度の目的についてこう書いてあります。法律なので難しい文章になっていますが、国民みんなが利用できる制度だということ、生活が苦しくなって困った人がいたら国はすすんで面倒を見る責任があるということが書いてあります。貧乏は本人のせいだから行き倒れになる人がでてもしょうがないというのは、行政として間違っている、真っ先に政府の責任が問われるんだということを憲法を根拠に定めているのです。

 憲法二五条とは、生存権と、それを守るための努力を国に求めた条項です。「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と書いています。ここには、生活保護法にある「最低限度の生活」とはなにかについてふれています。どんなに低くても、その生活が「健康で文化的」でなければならないのです。食べて寝ていればいいというものではなく、生きがいや豊かさが感じられる暮らしを、国民の権利として定めています。

 これを脅かすのが病気や失業、商売の転廃業などです。収入の道が断たれるとたちまち最悪の生活危機に直面します。そうなったときのため、あるいはそうならないようにつくられた制度が生活保護なのです。国の責任としたのは、病気や失業、商売の失敗などは、国民だれにでも起こりうることだからです。

 とくに資本主義の世の中は、巨額の富を築く一部の人と、賃金の低い勤労者たちとの生活格差がどんどん大きくなる欠点を持っています。そのうえ、かならず景気が悪くなる時期があります。日本でも、政府の失政も重なってバブル崩壊後に戦後最大規模の不況を招き、患者負担を一割負担から三割負担へ三倍に引き上げる医療改悪で病院にいけないような政治まで強行されています。また企業倒産のなかの自殺者激増が世界からも注目されるほどです。

 生活保護制度がいまほど重要になっているときはありません。

受けられる基準は?
表
表

 生活保護基準は、厚生労働大臣が決定します。「最低限度の生活を保障する」ものであるとともに、保護の適否、給付金額をはかる具体的尺度になります。

 保護基準となる金額は、生活扶助、住宅扶助、医療扶助、教育扶助、生業扶助、介護扶助、出産扶助、葬祭扶助の八種類の公的扶助と、老齢加算や母子加算など世帯の状況に応じた各種の加算から成り立っています(左上表参照)。

 生活保護の中心となるのは生活扶助で、基準額は生活保護世帯の消費水準を一般世帯の水準の一定の割合にする方法で決められます(世帯ごと基準額は左下表参照)。

 生活保護基準は、地域や世帯の状況によって異なります。

 東京二十三区内の四人世帯では、生活扶助、児童養育加算、教育扶助、住宅扶助などを合わせて、月額二十七万八千六百七十円が生活保護基準の合計となります。

 実際には、その世帯が得ている収入額(収入全部でなく、一定の額を控除したもの)を差し引いて、支給されます。

どうやって申請するの?

 申請手続きは福祉事務所や市区町村の担当窓口で行います。

 福祉事務所など「保護の実施機関」では、申請者の資産や収入などの調査(資力調査)があります。決定の通知は、原則として申請日から十四日以内、「特別の理由がある場合」にも三十日以内でなければなりません。

 所得が低いからといって、簡単に生活保護を受けられない実態があります。政府・厚生労働省は、受給者を減らすため、自治体、福祉事務所にたいする「通知」を出して、資産など監査の強化、収入認定の厳正化、扶養義務取り扱いの徹底などを求める「適正化」政策を行い、受給のハードルを高くしてきました。「働けるのに働いていない」「住所が定まっていない」などの理由で申請が却下されるなどの事例も起きています。

「朝日訴訟」が大きな力に
写真
老齢加算の減額は生存権を侵害するとして、大阪府に処分取り消しを求めて審査請求をする「全大阪生活と健康を守る会連合会」の人たち=大阪市内

 生活保護の基準、制度の運用と憲法で保障された生存権の関係などをめぐって、数多くの裁判が行われてきました。

 一九五〇年代後半から六〇年代に争われた「朝日訴訟」は、当時の生活保護基準が、憲法第二五条に明記された「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する水準となっているかなどをめぐって、初めて争われた訴訟です。

 原告勝訴となった東京地裁の一審判決では、憲法第二五条の条文は、国が国民にたいし「『人間に値する生存』を保障しようという」規定であり、これは「国民が単に辛うじて生物として生存を維持できるという程度のものであるはずはなく、必ずや国民に『人間に値する生存』あるいは『人間としての生活』というものを可能ならしめる程度のものでなければならない」としました。

 またその実現のために「最低限度の水準は予算の有無によって決定されるものではなく、むしろこれを指導支配すべきのである」と国の責任を強調しました。

 この裁判は、その後の生活保護制度の運用改善、社会保障の運動に大きな影響を与えました。

 最近では、子どもの高校進学に備えて加入した学資保険の満期金を収入と認定され、保護費を減らされた処分の不当性を争った「学資保険裁判」(今年三月、最高裁で原告勝訴)などがあります。

 朝日訴訟 結核患者として療養中の朝日茂氏は、生活保護によって受けていた日用品費額と給食付医療給付を、実兄からの扶養料の送金を理由に削られました。行政不服申し立てをしましたが却下されたため、その裁決の取り消しを求めて一九五七年に厚生大臣を提訴しました。

 六〇年十月の一審判決(東京地裁)では原告が勝訴しましたが、六三年十一月の控訴審(東京高裁)では原告が敗訴し、原告死亡後、六七年五月の最高裁判決で原告敗訴となりました。


制度の改悪許さず

 政府・厚労省は、医療、年金、介護など社会保障改悪と合わせて、生活保護制度改悪の動きを強めています。

 今年の四月一日から、老齢加算が大幅にカットされました。来年度、再来年度もカットし、三年間で段階的に廃止する計画です。これによる保護費減額にたいする不服審査請求が全国各地で行われ、すでに六百件を超えています。

 さらに、厚生労働省は、母子加算についても、低所得者の勤労母子世帯より、基準額が高いことなどを理由に、廃止を狙っています。

 厚労省や自民党は、生活保護の給付費の四分の三を占める国庫補助(四分の一は地方自治体が負担)について、補助率の三分の二への引き下げを提案しています。こうした動きにたいして、全国知事会の梶原拓会長(岐阜県知事)と全国市長会の山出保会長(金沢市長)が連名で「引き下げが強行されれば、われわれは(生活保護の決定や実施にかかわる)事務を返上する考えだ」とする談話を発表。全国十三の政令指定都市でつくる指定都市市長会も、国が経費の「全額を負担すべき」とする意見書を提出するなど、地方自治体から強い抗議の声が上がっています。



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